054 調査団一行①
「グラスはピロード氏の元へ、聞き込みに向かってくれ」
「分かりました」
グラスを先頭に、班が動く。
グラスの班は、非戦闘員で構成されている。
役割は主に、聞き込み、諜報、データ管理などだ。
「残った班は、地下遺跡に向かうぞ」
「「「「「「はっ!」」」」」」
一同の返事を聞くと、私はアンデッド襲撃の発生元である、ベルン地下遺跡へと向かった。
***
地下遺跡入口の周辺に、キャンプが張られる。
班ごとに必要な物資を運び入れた。
陽は空の中心にある。
「昼食を取ったら、調査に乗り出すぞ」
私の声に、『おう』と返事が返ってくる。
「うほー! バフフィッシュのムニエルっすよ、団長!」
私の隣で、分厚い鎧に身を包んだ団員が話しかけてくる。
「感謝して食べるんだぞ? ストル。ギルドの調理師が用意してくれたんだからな」
「わかってますって」
そういうと、ガツガツと魚に喰らいつく。
ストルは今回の遠征の班長の中で、最年少だ。
近接攻撃職の班を担当していて、彼の職業は大剣士である。
「喉に詰まるぞ」
私はそんな光景を微笑ましく思いながら、魚を口に運んだ。
***
「探知班の魔法発動後、斥候班は遺跡内の索敵とドロップアイテムの調査、防衛班と近接攻撃班は遺跡入口で待機。概ね今まで通りだ。良いな!」
「「「「「おう!」」」」」
私の掛け声に、団員が速やかに作業に移る。
まずは探知班。
探検家が一名にバッファーが三名、それと魔法剣士一名で構成されている。
「「「魔力増強、魔法持久力増強」」」
バッファーの三人が、探検家の団員にバフを撒く。
「リフレクト」
続けて、魔法剣士が探検家から遺跡の入口に向けて、障壁をメガホンのように展開した。
これは本来、魔法攻撃を反射するためのものだ。
これを展開する理由は、探検家から放たれた魔力の波動を、外に漏らさず遺跡内まで届かせるためである。
「空間把握」
魔力の波動が、遺跡入口に放たれる。
障壁によって分散する事なく遺跡内に入った波動は、遺跡全体を把握した。
「アンデッドのものと思われる残存魔力を僅かに感知しました」
「他には」
「問題ありません」
残存魔力があるということは、その魔力から魔物が生まれる可能性も否定できない。
だが、僅かにというのが引っかかる。
基本、ダンジョン化の原因の魔物などは、かなりの魔法持久力を誇る。
そのため、残存魔力もかなりのもののはずなのだが。
これが、ミツル氏が言っていた魔力吸収のスキルの影響だろうか。
探知班が入口前から速やかに移動する。
と同時、斥候班が続々と遺跡内部へ入っていく。
斥候班は盗賊、忍者、アサシンの三つの職業の者が担当する。
それぞれの職業が二名ずつで、計六人の班だ。
それぞれ隠密行動のエキスパートである。
「行ったか」
私は大きな盾を構え、呟く。
団長である私が同時に率いる防衛班は、ナイトや魔法剣士など、防衛職十二名構成。
そして共に待機する班は、ストル率いる近接攻撃班八名だ。
残存魔力から生まれた魔物は、厄介なものの可能性もある。
その場合は斥候班が外まで誘き寄せ、待機班で狩ると言うわけだ。
少ししか残存していないとは言え、油断してはならない。
「ただいま戻りました」
グラス率いる管理・聞き込み班の面々が戻ってくる。
その三名の少人数班に、見慣れない顔が二名混じっていた。
「お! アンタが団長さんか!」
屈強な男が、私の肩をガシッと掴み、ニカッと笑う。
「グラス、この方は……?」
「元ベテラン冒険者のコンマさんです」
「職業は剣士、今は回復系専門のポーション店をやってる」
親指を立てて、挨拶をするコンマ氏。
「始めまして、調査団団長のリパダです」
私は自分の名前を名乗ると、隣に立つシルクハットにモノクルの男性の方を見た。
「では、こちらが……」
「ピロードです。同じくポーションのお店で働いています」
深くお辞儀をするピロード氏。
「わざわざ同行なさらなくても良いと伝えたのですが……」
グラスが、困ったように頭を掻く。
「つい昨日大金が入ってな! たまには息抜きと思って着いてきた」
言って、コンマ氏は豪快に笑う。
「巻き上げた、の間違いでは……?」
「おっとピロード、これ以上踏み込んだら解雇だぞ」
「はいはい、承知しておりますとも……」
「あはは……」
私は警備隊では無いし、取り締まりなどの仕事はしない。
なので、苦笑いで返答した。
「で、どうなんだ。原因は分かりそうか?」
コンマ氏が私に訊く。
「すべては斥候班が帰ってきてから、ですな」
「そうか。調査団さんも大変だなぁ」
どこか遠くの空を見て言うコンマ氏。
「私達も一応、元冒険者ですので、何かお力添え出来ることがあれば……」
ピロード氏が、冒険者カードを提示してくる。
「ほう、デバッファーですな。ステータスも中々……」
「いえいえ、職業上、現役時代も仲間に頼ってばかりでしたよ」
「何をご謙遜なさる。デバフやバフが無ければ、攻撃職や我々防衛職も戦いにくいというもの」
これは本音だ。
今の調査団にはデバッファーは配属されていないが、新しい班としてデバフ要員を組み込むという案も国で検討されている。
いま最も注目されている職業と言っても過言ではない。
「団長、話を割るようで申し訳ありません。これを見ていただきたいのですが……」
グラスが慌てたように魔鉱石を見せてくる。
この大きな魔鉱石は、色によって魔物や動物をある程度推測する為に用意されているものだ。
通常、風魔法を操る生物なら緑、水魔法を操る生物なら青、複数の属性を操る生物は紫色、などの色に輝く。
だが、グラスが見せてきたものは……。
「なんだ、これは……」
白と黒に変容している魔鉱石。
だが、その二つの色は混ざり合わず、流動していた。
白は光、黒は闇。
どちらも珍しい属性だ。
光と闇の属性を同時に操る魔物はこの世に存在しない。
仮に存在したとしても、魔鉱石は紫色に変容するはず。
だが現在の魔鉱石の色同士は、まるで互いを拒絶しているかのようだ。
別の可能性としては、ダンジョン内に光属性の魔物と闇属性の魔物が同時に出現した可能性だ。
だが、二つの属性は対極の存在。
その対となる魔物が、同時に同じダンジョンで生まれることは考えられなかった。
ゾンビの襲撃の元となったダンジョンだ。
少なくとも、光属性の魔物が誕生する確率は0に等しかった。
「…………!」
突然、自身の体で感じる事の出来るほど、大きな魔力の流動を感じる。
「魔力乱流……!」
グラスが青ざめた顔で、告げる。
異変を察知した調査団の面々が、警戒体制に入る。
探知班が再び遺跡の入口に立ち、魔法を発動した。
空間把握の波動が、遺跡内を包む。
「光と闇の大きな魔力反応……来ます!」
探検家の団員の言葉に、緊張が走る。
探知班が横に退くと同時、斥候班が中から飛び出してきた。
「「魔器菱!」」
「「バインドトラップ!」」
と同時に、忍者と盗賊が罠スキルを発動する。
入口はまきびしが撒かれ、ロープで封鎖された。
「ギャリャラリャラリャラァァァ!!!」
ダンジョンの内部から、聞いたことのない悍ましい雄叫びが響く。
「団長、すみません! あいつは俺達じゃ……」
斥候班の内、一人のアサシンが申し訳なさそうに言う。
「何を謝る必要がある。こういう時の為の我らだ」
私はそう言うと、声を張り上げた。
「全員、構えろ!」
各々が、遺跡入口に向けて、自分が持てる最大出力のスキルを構える。
「ギャラリャリャリャリャァァァ!!」
異様な雄叫びを上げるそいつは、やがて姿を現した。




