050 コンマさんのお店
カランカラン……。
中に入ると、ドアチャイムの澄んだ音が響く。
「いらっしゃいませ……おや?」
中には、見覚えのある顔が。
「ピロードさん!」
「ミツルさんですか。こんにちは……ミツル……ミツル?」
なんだ? 急に俺の名前なんて連呼して。
途端、ピロードさんが俺の両肩を掴んで言ってくる。
「あなた、もしやこの町に来て、コンマさんのクエストにお世話になったのでは?」
言って、付け足す。
「もしや、そこのカゲトさんも……」
「いえ、お世話になったのは僕だけです」
それを聞くと、ピロードさんは一つ深呼吸をする。
「今すぐこの店から出るのです。まもなく店主のコンマが……」
「よう! ミツル! 久しぶりだな!」
店の扉が開き、コンマさんが入ってきた。
「パーティーメンバーも一緒か」
「こんにちは」
「邪魔しているぞ」
「こんちゃす」
それを見たピロードさんが、俺の両肩からそーっと手を離すと。
「私はただの雇われ。あなた方を助けることはもう出来ませんよ」
そんな意味深な事を言う。
なんだよ。
どういう意味なんだよ。
「ポーションを買いに来たんだろ? ゆっくり見てけ」
コンマさんはそう言って、豪快に笑った。
「実は明日、ディテク公国に向かおうと思っていてな」
ツユの宣言に、コンマさんは腕を組むと。
「ディテクまでか。その為のポーションってわけだな」
「ああ」
「それだと……」
コンマさんは棚を漁りながら。
「ピロード、そこの棚から中級出してくれ」
「分かりました」
コンマさんとピロードさんによって、いくつかのポーションが机に並べられる。
「状態異常緩和のポーションに、軽傷治療のポーション。低級中級とあるぞ」
ツユが一つずつ手に取り、顎に手を当てて考える。
なんか、全部ツユに任せっきりだな。
俺もカゲトもリメアもこういうの専門外だから、手伝うとか無理だけど。
カゲトもリメアも、二人のやり取りを真剣に聞いている。
ツユはしばらく考えると。
「不躾で悪いが、コンマ。お主、冒険者としての職業はなんだ?」
「剣士だ。二刀流の」
「…………ピロード、お主は」
「デバッファーです」
「…………」
しばしの沈黙のあと。
「ミツル、ちょっとこっち来い」
服を引っ張られ、店の隅に連れて行かれる。
リメアとカゲトは、ツユと入れ替わりに、並べられたポーションを見比べ始めた。
見ても分からんでしょうに。
「ミツル、あのポーションの色、見たよな?」
「見たよ」
「コンマが中級ポーションと言って出した物、あれは低級並みだ。素人でも分かるほど濁っている」
「それは不良品かなんかなんじゃ……?」
ツユが俺のマントを引っ張り、口を耳元に寄せてきた。
「商品の紹介に不良品を持ってくる経営者がどこにいるのだ」
静かに、けれど力強く囁いてくるツユ。
「それに薬師も錬金術師も居ない。こんなポーションの店、聞いた事ないぞ」
「うーん……」
俺は少し悩むが。
「コンマさん。他にもポーションってありますか?」
「うちは回復系専門とは歌ってるけど、一応強化ポーションもない事はないぞ」
そう言って、また棚から幾つかのポーションをだす。
「このお店で売っているポーションの種類は、これで全部ですか?」
「ああ」
見事に全部濁ってやがる。
再びツユが耳打ちしてくる。
「これ全部粗悪品だぞ! 低級ポーションなんて、ほぼ水じゃないか!」
そ、そんな事俺に言われても……。
「お前ら、何やってんだ?」
しばらくポーションを見比べていたカゲトが、俺とツユに問いかけてくる。
「二人して何こそこそ話してんのさ、旅にポーションは不可欠だよ?」
リメアまでそんな事を言う。
こいつら……。
ちょっとくらい空気読んでくれ……!
「あ、あのー……コンマさん?」
「なんだ?」
俺は恐る恐る、コンマに訊く。
「このポーション、中級ポーションであってますよね?」
「ああ」
「えっと、低級ポーションの間違いでは……」
「いや、中級ポーションだ」
なんだよ怖い怖い!
コンマさんから笑顔が消えていくんですけど!
ってか俺の背中に隠れてないで、ツユもなんか言ってくれ!
俺泣いちゃう! 怖い怖い!
「あの……コンマさ」
「買うよな?」
「え?」
コンマさんが再び笑顔になる。
だけど、目が笑っていない。
冷や汗が額から流れ落ちる。
「ポーションだよ? 買うよねやっぱ」
「薬はいくらあっても良いよな」
リメアもカゲトも空気読めよ!
俺とツユめっちゃ怖がってるの気づかない!?
「えっと……僕達はこれで……」
俺は店のドアノブに手を掛けるが。
「ロック・ロック」
ノブの部分に、岩のようなものが張り付く。
「あれ、開かない……」
俺は背後にいるツユと顔を見合わせる。
そして、コンマさんの方を見ると。
「買うよな?」
ドアに土魔法で鍵を掛けたのは、コンマさんだった。




