049 りーぶ らいと なう
「まずは……」
グラスさんがメガネをクイっとあげ、資料を一瞥する。
そして。
「リ、リメアさん? 大丈夫ですか? 体調が優れないようでしたら……」
凄いクマのリメアを見て、驚愕した表情のまま、そう告げた。
「大丈夫ですよ? それよりほら、調査、しちゃってください」
心なしか、リメアがイライラしている。
いつも他人には礼儀正しいのに、今日は感情が表に出ちゃってるな。
「そ、そうですか……では、皆さん。単刀直入にお聞きします。その主犯であると思われる者は、どのような者でしたか」
どのような者……。
これまた随分とざっくりとしてるな。
「どのような者……と、言うと?」
「なんでも良いのです。今のところ、手掛かりになりそうなものはほとんどなく……。こちらとしても、早急に突き止めたいのですが……」
グラスさんはそう言うと、腕を組み唸った。
団長さんが続ける。
「今のところ分かっている情報は、見てくれがゾンビみたいだと言う事、それと、大量のアンデッドを使役している事くらいだ」
「ミツルさんは、今回の襲撃の功労者だと聞きました」
功労者だなんてそんな。
ただ俺だけ魔法持久力が高いから、魔力吸収のスキルに対応できただけだ。
「お前、あのクエスタってのとタイマンはったんだろ? なんかねぇのかよ」
カゲトが俺を突っつきながら言ってくる。
しかしその言葉に真っ先に反応したのは、調査団の面々だった。
「クエスタ、と言うのは?」
「あぁ、あの男が逃げる直前、そう名乗ったんです」
俺が言うと、グラスさんが椅子から身を乗り出す。
「めちゃくちゃ重要な情報ですよ、それ! 他にも無いですか!?」
「え、えっと……」
グラスさんの気迫に押されながら。
「冒険者の人達が突然、倒れて戦闘不能になった時、あれ、魔力を吸われてたんだと思います」
あのときの事を思い出す。
「体から力が抜けていくような感覚……。ピロードさんが来てくれなかったら、僕も危なかったでしょう」
俺の言葉に、グラスさんがメモを取る。
「魔力吸収のスキル、ですか……」
「ピロードさん、と言うのは?」
団長が一番左端にいた団員に問う。
左端の団員が、何やら資料を漁った。
やがて見つけた一枚を、団長に手渡す。
「グラス、ピロードさんというのは、この人のことだろう」
今度は団長からグラスさんに、資料が手渡される。
「元ベテラン冒険者、職業はデバッファーで、現在は回復系ポーションの販売店で販売員をしているそうだ」
グラスさんは眼鏡を押さえて。
「聞き込みに行きますか……」
と、つぶやいた。
***
二十分程で聞き込み調査は終わった。
クエスタの事、それとダンジョンの事を話したのだ。
「疲れたぜ……。一時間くらい話してたんじゃねぇの?」
「そんなに話して無いよ。全く、カゲトったら途中から落ち着き無いんだから」
俺は、途中から始まったカゲトの貧乏揺すりを思い出す。
「いいや、そんなに話したわよ! もう……ただでさえ眠いのに……」
死にそうな顔のリメアが文句たらたら腕だらだらでついて来る。
「リメア、その、なんだ……今日は早めに寝る事にしようか」
ツユが、リメアの背中を摩りながら言うが。
「当たり前だよ! 宿の予約って何時からだっけ!? 今日は絶対宿で寝るよ!」
本当に、今日のリメアは情緒が安定していない。
「と、取れると良いね……」
「何? ミツルったら他人事みたいに。また馬小屋かもよ? 私は嫌なんだけど!」
「まぁ俺も嫌だけど……」
「でしょ? 予約が始まったら速攻取りに行くよ! もちろんベッドは私が使う!」
じ、自分勝手な……!
……まぁ寝不足で思考能力が低下しているのだろう。
無理もないか。
優しい俺は気を使ってやる事にする。
自分も寝不足のときこんな感じだし……多分。
***
そんなこんなで、俺達はこの町から離れる事を伝えるため、コンマさんの店を訪れた。
場所は結構前から教えてもらってたけど、来るのは初めてだな。
回復系のポーション販売店って言ってたし、なんか買わせていただこう。
店の外観はアンティークな感じで、大雑把なコンマさんに似つかわしくない。
「おい、なんかここにあるぜ」
カゲトが指差すところに、一冊の本が置かれていた。
「どれ、見せてみろ」
ツユがその本を開く。
それを皆で覗き込んだ。
そこには……。
『素晴らしいお店です! 品質も最高でした!』
『ここのポーションのおかげで命拾いしました!』
等、店への様々な感謝の言葉が。
「皆、これあれだね、95%の人が満足しています! 的な宣伝方法だね」
リメアが、眠い目を見開きながら言う。
「ん? なんだこの字は。読めないぞ」
ツユが何かを見つけたようだ。
ん? これ、英語……?
そこには、英語で書かれた短い文がちっちゃく存在していた。
『Leave right now』
随分と荒っぽい字だな。それほど焦って書いたのだろうか。
りーぶらいとなう? りーぶが離れるで、らいとが正しい……? 光源? なうは今って意味だよな。
……どういう意味なんだろうか。
「なんじゃこれ。いたずらかぁ?」
カゲトが怪訝な顔で言う。
「ミツル、お主の知り合いの店で間違いないんだよな?」
「うん。ここだって聞いたけど……」
「ここで話してても無駄だよ。入れば分かるって」
俺達の会話を聞いていたリメアが、店の扉を開け中に入っていく。
「あっちょっ待っ……」
俺達も、追いかけるように後に続いた。




