047 私アンタを呪ってやりたい気分だよ
「うっ……ごほっごほっ……」
朝。
俺は目覚めて早々、強烈な獣臭にむせた。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ……ぐがぁぁぁぁぁぁぁ……」
ったく、こいつは。
なんでこんなに爆睡できるんだ。
隣で大きなイビキを立てるカゲトを一瞥し、小屋を出る。
「んぁー! 良い空気!」
雨はすっかり止んで、空には陽が昇っていた。
大きく息を吸う。
馬小屋の悪臭が染み付いた鼻が浄化されていくようだ。
「ミツル。おはよう」
外ではツユが先に起きて、何かをしている。
「おはよう。早いね。何やってるの?」
「魔法の練習だ」
そういうとツユは『ウインド』と唱え、風魔法を放った。
放たれた不可視の魔法が、草を撫でる。
「風魔法が苦手でな。こうしてクエストに行かない日は練習してるんだ」
「へぇ……」
やっぱり魔法にも練習って必要なんだな……。
「そうだミツル。この間教えたスラッシュはもう使いこなせているか?」
「スラッシュ? ええと……」
俺は小屋に立てかけていた剣を持ってきて、スキルを発動した。
──キュウウウウ……
「まだ少し魔力が漏れちゃってるかな」
「十分だ。音も小さくなっているし、確実に上達しているぞ」
「そ、そうかな……」
なんだかむず痒くなり、頭を掻く。
「おはよぉぉぉ……」
リメアが出てきた。
「おはよ……うっ!?」
馬小屋から出てきたモンスターに、思わず驚きの声を上げてしまう。
「リメア、どうした。凄いクマだぞ」
「ゾンビみたいだね」
「なんですって!!」
凄い勢いでリメアが掴みかかってきた。
「ちょっ! ちょっと! 怖い! 怖いって!」
目も充血してるし! ホント、怖いって!
「一睡もできなかったの!! もう臭いしカゲトのイビキはうるさいし……」
急に怒り出したかと思えば、急にぐずぐずとし出すリメア。
「なんで馬小屋なんかにぃぃぃ……うわーーん!!」
「え、ちょっ、泣くなリメア。大丈夫だから」
なんか、情緒不安定だな。
俺はリメアの背中を摩りながら、そんな事を思う。
「大丈夫なのか? これから野宿するのだぞ?」
ツユが言う。
「知らないよ! そんなの! あぁ眠い眠い……」
今度はイライラし出した。
まぁ、気持ちは分からんでも無いけど。
「そうだミツル。お主に昨日、プロテクトを教えてやると言ったな」
そういえば言ってたな。
「今教えてやる。プロテクトは、各自覚えておいた方が良いと思ったからな」
確かに。
魔法剣士じゃなくても、防衛魔法の一つくらい覚えておいた方が良いよな。
「ほれ、リメアもだぞ」
「え? 私?」
「そうだ。良いか? 防衛魔法は高度な魔法だ。まずは魔力を前方に展開するイメージで……」
俺は言われた通り、前方に魔力を展開する。すると、あっという間にプロテクトが完成した。
「出来た」
「そうか、では次に……」
ツユはこちらを一瞥して。
「出来ただと!?」
いや、そんな驚くことある?
「お主は本当にセンスが良いな」
「そう? そんなに? えへ、えへへ……」
「………….アンタ、そのニヤケ顔止めた方が良いわよ」
え、何、なんだよ、なんで二人してそんな引いてるんだよ。
「お、俺、そんなニヤけてた?」
「あぁ」
「うん」
「…………」
俺はどんな顔をすれば良いのか分からなくなり、顔を覆った。
***
プロテクトの練習を始めて、十分程。
「みてみてツユちゃん! なんか膜みたいなの出来た!」
「良いぞリメア、その調子だ」
リメアのプロテクトが、徐々に形になってきていた。
「良い朝だなーーー! おはよう! みんなぁ!」
喧しい声がして振り返ると、カゲトがニコニコ顔で小屋から出てきた。
「おはよう。凄いイビキかいてたけど、良くそんな爆睡できるよね」
「私もあれ程ぐっすり寝れるのは正直羨しいぞ」
「私アンタを呪ってやりたい気分だよ、カゲト」
カゲトは各々の言葉を聞いて。
「俺そんなにぐっすり寝てたか?」
「「「うん」」」
とぼけているが、この中でお前が一番元気じゃ無いか。
それが立派な証拠だぞ。
「ところでみんな、何してたんだ?」
「リメアとミツルにプロテクトを教えていたところだ。お主も聞いておけ」
「プロテクトってあれか、防衛魔法ってやつ」
カゲトは右手を出して、魔法の構えを取る。
「プロテクトぉぉ!」
だが、何も起こらない。
「カゲトの魔法持久力は低いからな、習得には時間がかかるかも知れん」
「うげえ、マジかよ……」
項垂れるカゲトを見て、俺とリメアは笑った。
「本当にお前、今日は元気だね」
「私なんか、一睡もできなかったのに」
「なんだリメア、寝てないの……かっ!?」
カゲトはリメアの方を向き、驚きの声を上げた。
「…………ゾンビの方ですか?」
「なんですって!?」
今度はカゲトとリメアが、腕四つの体勢で取っ組み合いを始める。
「この光景、先も見た気がするぞ……」
「そうだね……」
俺とツユは、顔を合わせて静かに笑った。




