045 実験。ゾンビ。クエスタ。
「では私はクエスタについて調べる」
ツユが"冒険者"と書かれた本棚に入っていった。
「じゃ、私はディテク公国について調べるね」
続いてリメアも、"地理歴史"と書かれたコーナーに消える。
……さて、俺はどうしよう。
なんとなく、本棚の列を眺める。
哲学、地理歴史、社会、自然科学、魔法学──。
そこには、目新しい物もいくつかあった。
「……ん?」
"生物"の棚から、一つの本を手に取る。
『生物の分類・組み分け
生物は大きく分けて有機生物と魔法生物に分けられる。
・有機生物
セキツイ動物は哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類5つ
無セキツイ動物は節足動物(昆虫類/甲殻類/クモ類/多足類)・軟体動物・その他
・魔法生物
セキツイ種
軟体種
機械種
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有機生物と魔法生物の大きな違いは体の造りにある。
有機生物は魔力を取り込み、溜め込む形で魔法を発動する。
それに対し魔法生物は、魔力で体が構成され、その魔力を使用する事で魔法を発動する。』
なるほど、興味深いな。
魔法生物についてもっと詳しく書かれた本はないものかと、本棚を漁る。
……あった!
『ここがすごい!魔物のすべて
皆さんは魔物について、詳しく考えた事はあるだろうか?』
前置きのページをすっ飛ばし、気になるページのみを開いた。
『人間と魔物の一番大きな違いは、体の造りだね。魔物は体の全てが魔力で構成されているから(※例外あり)魔法を使い切ったり、死んでしまったりすると、煙になって消滅してしまう。それだけ聞くと、「魔力切れでも死なない人間の方が強いじゃん!」って思うでしょ? では、ここからは魔物の凄い所を紹介しよう!
魔物の強さ
人間は濃い魔力に晒されたり、反対に薄い魔力の所に行くと、体調を崩してしまったりするだろう?』
確かに、ダンジョンの中は濃い魔力のせいで空気がピリピリとしてたから、動きにくかったしな。
『だけど魔物は違う。自身の体が魔力でできてるから、まわりの魔力を気にせず魔法を使う事ができるんだ。』
はぁ〜。
だからスケルトンとかゾンビとかはダンジョンでもピンピンしている訳だ。
『魔物の食事
魔物は自身の魔力を補う為に人や動物を襲うんだ。食べたり、傷付けて魔力を吸収したりするんだよ。』
ほうほう。
やべぇ、この世界に来てから疑問に思ってた事がどんどん解決していくぞ。
もっと早くここに来れば良かった。
こりゃ宝の山だな。
続けて俺は"魔法学"から『ステータスカードのしくみ』と書かれた本を取り出した。
内容を要約すると、こうだ。
・生物にはそれぞれ得意とする魔法が存在する。
・人間は、全ての魔法を低威力で扱える、いわゆる器用貧乏な生物らしい。
・ステータスカードは、生物情報を元に、生物の得意としている魔法を伸ばす事ができるそうだ。
例えば、職業『盗賊』だと、猫の情報を体に取り込む。すると盗賊職に就いた人間は、猫が扱うスキルが得意になるそうだ。
……だから、職業毎に"得意"が存在したのか。
生物情報云々は"魔法だから"と思うと、妙に納得してしまう。
他にも何か無いかな……。
本棚を漁っていると。
「ミツル、ちょっと良いか?」
後ろから声が掛かった。
「どうしたツユ」
「これを見てくれ」
ツユが椅子に腰掛け、テーブルに一冊の本を広げる。
俺も隣に座ると、それを眺めた。
本のタイトルは……『冒険者 職業図鑑』?
なぜ図鑑なんか見ているのだろう。
ツユは俺の疑問をよそに、パラパラとページをめくってゆく。
「……これだ。見てくれ」
やがてツユが動きを止め、一つの職業を指差した。
「ネクロマンサー……?」
「あぁ」
ツユは声を潜めて、話し始めた。
「ステータスカードのしくみは知っているか?」
「え、うん」
ついさっき知った。
「あのカードは動物の情報を元にする」
「そうだね」
「だがこのネクロマンサーは、魔物の情報を元にした職業なんだ」
魔物の情報を元にした職業?
「それが何を意味するか分かるか?」
「いや……」
ツユが本に置いた指をトントンと叩く。
俺はそこに書いてあった事を読み上げた。
「ネクロマンサーは魔物を元にした職業である。幾度となく実験が行われたが、それが実を結ぶ事は無かった……」
「魔物を元にした職業は禁忌なんだ。体の造りが違う動物と魔物は、互いに反発しあう。この実験は悲惨なものだったらしい」
悲惨な実験。
悲惨、とは、いったい何があったのだろう。
「ここまでは冒険者学校で習う内容だ。問題は……」
ツユがテーブルに、もう一冊本を置く。
タイトルは『冒険者職業開拓実験記録』。
表紙に書かれているのはタイトルだけ。
薄汚れていて、気味が悪い本だった。
「普段は公開していない本らしい。事情と私の見解を言ったら、書庫から出してきてくれた」
ツユがパラパラとページをめくる。
やがて止めると。
「なっ……」
そのページには、体が内部から破壊され、苦しむ人の姿。
見るに堪えない姿に変貌した人の写真が貼られていた。
「ツユ、さ、先にこういうの見せるって言ってくれ。俺、グロいの苦手なんだ……」
やべぇ、吐きそう。
「すまん。だが、これだけは見てほしい」
ツユが指差す一枚の写真を眺める。
「まるでゾンビじゃないか……」
「そう、ゾンビなんだよ」
ツユは俺の呟きに対し、続けた。
「この実験は失敗に終わった。だが、まだ秘密裏に進められていたとすれば……」
俺はハッとする。
「クエスタが実験の成功例……って事?」
「あぁ」
「だけど、証拠が不十分だし、これと断定するには早いんじゃ」
「あぁ、勿論。あくまで可能性の一つだ」
実験。
ゾンビ。
クエスタ。
謎は深まるばかり。
「あっ、いたいた。二人ともー!」
「リメア、静かに」
「あっ、ごめんツユちゃん」
駆け寄って来たリメアは、右手にディテク公国に関しての本を幾つか抱えている。
「これ見て欲しいんだけど……ひっ!」
リメアは俺達の見ていた本を覗き、軽い悲鳴を上げた。
「な、なに……見てるの……?」
「クエスタに関するかも知れない資料だ」
ツユは俺に説明した事を、リメアにも話した。




