041 拝啓
『一難去ってまた一難』
なんて言葉があるが、この平穏な時間が『束の間の休息』じゃなきゃ良いな。
…………俺はいつからこんなポエミーな人間になったんだ。
「ふぅ……」
大きく溜息を吐くと、今度はそのまま大きく吸う。
冬も終盤にさしかかり、蕗の薹の芽がそろそろこんにちはしそうな時期。
町一番の高台の上で、まだひんやりとした空気が体の中に入っていく。
***
十五分程前……。
部屋を出た俺は、そのまま隣の医務室に入った。
そこには、ベッドで寝ているツユと、床のシーツに横たわっているカゲトの姿があった。
傷は治癒魔法のおかげですっかり無くなっていたが、二人とも気絶したように眠っている。
「うーん、来たは良いけども、どうするか……」
俺はとりあえず、ツユのベッドの隣に置いてある椅子に腰掛けた。
…………やること無いなぁ。
このまま二人が目覚めるまで、ここにいるべきだろうか。
…………。
十分ほど座っていたが、一向に起きる気配が無い。
「散歩でもしてくるか」
と、言うわけで、医務室を出た。
受付の中は、ギルド職員が忙しなく働いている。
しかしそれとは対照的に、食堂や宿、お店などはとても静かだった。
「ミツルさん、外出ですか?」
ギルドマスターが窓口から顔を出し、俺に訊いてくる。
「えぇ、少し散歩でもしようかなと」
ギルドマスターは頷くと。
「夕方には帰ってきてくださいね。調査団が到着しますから。あ、そうそう、緊急クエストの報酬は参加者全員が目覚めてからと言うことで」
そう言って頭を掻く。
「分かりました」
俺はギルドの扉を開けて、外へと出た。
空は曇っていて、ひんやりとしている。
この町をろくに探索したことが無かった俺は、色々な所を見ることにした。
ギルドは町の中心にある。
そしてダンジョンは町の東側。
だから俺は東の道しか進んだことがない。
なので、西に向けて歩くことにした。
西の大通りには、図書館や公民館的な所などがあった。
次は北。
北は住宅街で、家々が肩を並べている。
そして町の後方には、大きな山々が聳えているのが見えた。
最後に南。
商店街を抜けた先に、町の外まで見渡せる高台を見つけた。
***
町を囲む柵に体をもたれる。
高台の町なだけあって、眺めはとても良かった。
『拝啓
お父さんお母さん、お元気ですか。』
心の中で、手紙を書き留める。
『僕はこの異世界で、なぜか肉体共に元気です。』
俺は、この世界に来てからの出来事を振り返る。
『この世界では、冒険者という職業に就きました。魔物を倒して生計を立てる、なかなかに危険な仕事です。』
冒険者なんてなるつもりは無かった。
薬草採集である程度貯金が貯まったら、他の仕事をしようと思っていた。
運動はあまり得意では無いし、魔法も使いこなせるとは思わなかったからだ。
『…………成り行き、とでも言いましょうか。討伐の仕事は、毎日命懸けです。』
今までこなしたクエストを思い出す。
『僕は先日、イノシシを狩りました。魔物と違って、死体が残ったんです。嫌な感触でした。』
魔物は倒すと煙になって消えるが、動物は消えない。
『そして先日、人の腕を切り落としました。』
……クエスタの事だ。
俺は死に物狂いで、あいつの腕を刎ねた。
まだ、手にその感触が残っている。
『僕は……冒険者、向いてないと思うんです。』
自分に襲い掛かる、嫌な感覚。
一筋の涙が頬を伝う。
……俺は多分、弱い人間だ。
先に襲ってきたのは、クエスタである。
アンデッドの襲撃を仕掛けたのも、クエスタである。
だから俺は、腕を刎ねた。
……人の腕を、切り落とした。
だけど、心のモヤモヤが取れない。
俺の選択は、正しかったはずだ。
何も、間違ってなんか無い。
世の中、綺麗事だけじゃやっていけない。
そんな事、分かってる。
「俺……このまま、冒険者なんて続けられるのかな……?」
口から出た声は、震えていた。
空を覆う雲が、やがて雫を地面に落とす。
…………雨だ。
俺は涙を拭うと、足に支援魔法をかける。
「っ……!」
そのまま、逃げるようにその場を後にした。




