表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/79

041 拝啓

『一難去ってまた一難』

 なんて言葉があるが、この平穏な時間が『束の間の休息』じゃなきゃ良いな。

 …………俺はいつからこんなポエミーな人間になったんだ。


「ふぅ……」


 大きく溜息を吐くと、今度はそのまま大きく吸う。

 冬も終盤にさしかかり、蕗の薹の芽がそろそろこんにちはしそうな時期。

 町一番の高台の上で、まだひんやりとした空気が体の中に入っていく。



 ***



 十五分程前……。


 部屋を出た俺は、そのまま隣の医務室に入った。

 そこには、ベッドで寝ているツユと、床のシーツに横たわっているカゲトの姿があった。

 傷は治癒魔法のおかげですっかり無くなっていたが、二人とも気絶したように眠っている。


「うーん、来たは良いけども、どうするか……」


 俺はとりあえず、ツユのベッドの隣に置いてある椅子に腰掛けた。

 …………やること無いなぁ。

 このまま二人が目覚めるまで、ここにいるべきだろうか。

 …………。

 十分ほど座っていたが、一向に起きる気配が無い。


「散歩でもしてくるか」


 と、言うわけで、医務室を出た。

 受付の中は、ギルド職員が忙しなく働いている。

 しかしそれとは対照的に、食堂や宿、お店などはとても静かだった。


「ミツルさん、外出ですか?」


 ギルドマスターが窓口から顔を出し、俺に訊いてくる。


「えぇ、少し散歩でもしようかなと」


 ギルドマスターは頷くと。


「夕方には帰ってきてくださいね。調査団が到着しますから。あ、そうそう、緊急クエストの報酬は参加者全員が目覚めてからと言うことで」


 そう言って頭を掻く。


「分かりました」


 俺はギルドの扉を開けて、外へと出た。

 空は曇っていて、ひんやりとしている。

 この町をろくに探索したことが無かった俺は、色々な所を見ることにした。

 ギルドは町の中心にある。

 そしてダンジョンは町の東側。

 だから俺は東の道しか進んだことがない。

 なので、西に向けて歩くことにした。

 西の大通りには、図書館や公民館的な所などがあった。

 次は北。

 北は住宅街で、家々が肩を並べている。

 そして町の後方には、大きな山々が聳えているのが見えた。

 最後に南。

 商店街を抜けた先に、町の外まで見渡せる高台を見つけた。



 ***



 町を囲む柵に体をもたれる。

 高台の町なだけあって、眺めはとても良かった。


『拝啓


 お父さんお母さん、お元気ですか。』


 心の中で、手紙を書き留める。


『僕はこの異世界で、なぜか肉体共に元気です。』


 俺は、この世界に来てからの出来事を振り返る。


『この世界では、冒険者という職業に就きました。魔物を倒して生計を立てる、なかなかに危険な仕事です。』


 冒険者なんてなるつもりは無かった。

 薬草採集である程度貯金が貯まったら、他の仕事をしようと思っていた。

 運動はあまり得意では無いし、魔法も使いこなせるとは思わなかったからだ。


『…………成り行き、とでも言いましょうか。討伐の仕事は、毎日命懸けです。』


 今までこなしたクエストを思い出す。


『僕は先日、イノシシを狩りました。魔物と違って、死体が残ったんです。嫌な感触でした。』


 魔物は倒すと煙になって消えるが、動物は消えない。


『そして先日、人の腕を切り落としました。』


 ……クエスタの事だ。

 俺は死に物狂いで、あいつの腕を刎ねた。

 まだ、手にその感触が残っている。


『僕は……冒険者、向いてないと思うんです。』


 自分に襲い掛かる、嫌な感覚。

 一筋の涙が頬を伝う。

 ……俺は多分、弱い人間だ。

 先に襲ってきたのは、クエスタである。

 アンデッドの襲撃を仕掛けたのも、クエスタである。

 だから俺は、腕を刎ねた。

 ……人の腕を、切り落とした。

 だけど、心のモヤモヤが取れない。

 俺の選択は、正しかったはずだ。

 何も、間違ってなんか無い。

 世の中、綺麗事だけじゃやっていけない。

 そんな事、分かってる。


「俺……このまま、冒険者なんて続けられるのかな……?」


 口から出た声は、震えていた。

 空を覆う雲が、やがて雫を地面に落とす。

 …………雨だ。

 俺は涙を拭うと、足に支援魔法をかける。


「っ……!」


 そのまま、逃げるようにその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ