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004 ぐふふ

 次の日の朝。

 俺は水浴びを済ませると、宿のおじさんに鍵を返す。

 階段を降りると、二階にある食堂へと向かった。

 昨日の夜はそのまま眠ってしまったので、お腹ぺこぺこである。

 食堂にはいくつものテーブルが並べてあり、何席かはすでに埋まっていた。

 俺は一番端のテーブルに腰掛ける。

 そして厨房の前に大きく掲げられたメニューを眺めて……。

 一番安くで食べられるものが、スパイダーボイルなるものしか無いことに気付いた。


「スパイダーって……食べられるの?」


 思わず声が漏れてしまった。

 スパイダーって、蜘蛛だよな? 足がいっぱいある、あの。

 食堂で売られているものだから、きっと食べられるのだろうが……。

 大丈夫だろう。うん、大丈夫だ、きっと。

 大丈夫じゃない食べ物が食堂に並ぶはずが無い。

 ないよな? ……無い無い。

 そんな自問自答を繰り返しながらも、俺はそれを注文した。

 そして出されたものは──。

 太い足が、お皿に一つドーンと乗ったものだった。

 だだっ大丈夫だって。

 地球のクモだって、毒が無きゃ食えない事も無いわけだし。

 いや、本当に? クモって食べられるの? 異世界人だけが食べられるとか、そういうのじゃないよね?

 俺はしばらくそれをまじまじと見つめた後、意を決して口に入れた。


「お、おいしい」


 それは中を取り出すと、まるでエビのようにプリプリとした食感と少し塩気のある味付け。

 とても美味だった。

 食べ物は見かけによらないもんだなぁ。

 一つしょうもない知識が増えてしまった。

 それから俺は、その日も薬草採集のクエストに行った。

 その日は何事も無く、受付で2500ルンを受け取り宿に向かう。

 しかし。


「ごめんね兄ちゃん。今日の部屋は満室だよ」


 と、おじさんに告げられた。

 おじさんは申し訳なさそうに笑う。

 まぁそうだよなぁ。

 二日連続で取れるわけ無いよなぁ。

 冒険者の数は一階だけでもそれなりの数がいるはずだ。

 それに対して宿はたったの五部屋。

 そう簡単に取れるはずもない。

 と言うことで、昨日おじさんが言っていたギルドの倉庫に向かった。

 流石に馬小屋は気が引ける。

 倉庫の中は仕切りで区切られていてすでに三人程が寝ていた。

 ドアは無いが倉庫自体が風を通さないので結構快適である。

 それからと言うもの。

 三日ほどは宿が取れず、倉庫で寝て食堂でクモを食べて薬草採集。というルーティーンが続いた。



 ***



 俺がこの世界に転生してから、五日。

 薬草採取クエストの帰り道。

 依頼人のコンマさんが、こんなことを口にした。


「いつもありがとな。お前さん新人冒険者だって言うが、何かスキルは使えるのか?」


 こちらに振り向きぐいと顔を寄せるコンマさんに、思わず身じろぎしてしまう。

 悪い人では無い……と思うけど。

 なんか、こう、威圧感的なのが凄いんだよなこの人。

 殺気とは違うけれど。

 逆らってはいけないようなアレを感じる。

 あともう一つ言いたいんだが、俺はいつから新人冒険者になったんだ。

 日銭を稼ぐ為に仕方なくクエストなるものを受けてるだけで、俺は毎日命を危険に晒すような仕事を受ける気はないぞ。

 ……コンマさんにそんな事を言っても仕方がないけど。


「いえ、まだ何も使えませんね」


 コンマさんの質問に答える。


「ならいつも手伝ってくれるお礼に何か教えてやるよ。そうだな……テレポートなんてどうだ? 一度行ったことがある場所なら、魔法持久力が持つ限りどこでもいけるし、便利だと思うが……」


 マジか! コンマさん優しい! 良い人だ!

 うん、俺は最初からそう思ってたとも。


「本当ですか!? 是非!」

「お前、魔法持久力はどんくらいだ。テレポートは体力使うから、魔法持久力の無い奴にはオススメ出来ないが……」


 魔法持久力だと? 俺の一番高いステータスじゃないか!

 俺はついに魔法が使えるとウキウキしながら、コンマさんにステータスカードを見せた。


「俺、魔法持久力には自信あるんですよ!」

「うお、高いな。魔法も覚えて無いのに一体どんな生活すりゃこんなに高くなるんだ」

「なんかわかんないですけど、作った時にはすでにこの数値だったんです」

「まあ、テレポートを覚えるのには最適なステータスだな」


コンマさんはニカッと笑った。


「まずは俺がテレポートを使う。よく見て、真似してみろ」


 コンマさんはそう言って、右手を高く上げた。

 するとコンマさんの足元が輝きだし、やがて全身を覆い……。


「あれ? コンマさーん」

「ここだ」


 いつのまにか俺の背後に立っていて、驚かせてきた。


「ぎゃあああああああああぁ!」

「そんな驚かなくても良いだろ」

「やめて下さいよ心臓に悪い」


 不意打ちだった。

 今まで前に立ってた人が、急に自分の背後に居たのだ。

 メチャクチャ驚いた。

 心臓がバックバク鳴っている。

 …………あれ?

 コンマさん、テレポートを使えるん? だったらなんでこんな山奥まで、わざわざ歩いて薬草採集に来ているんだ?


「あの、コンマさん」

「ん、なんだ?」

「テレポート使えるのに、何故わざわざ歩いてこんなところまで?」

「そりゃあいくら冒険者じゃ無いからって、町の外に出る仕事してるんだ。筋力とか持久力が無かったら話にならないじゃんか」


 言われてみれば確かに。


「体力だけじゃ無くて、魔力系統も鍛えるために常に魔力を放出しながら歩いてるんだ。魔法持久力が高いお前なら感じてるんじゃないか?」


 なるほど、この人から感じる威圧感的な力はそれだったか。

 謎が一つ解けたな。


「ま、そんな話は置いといて、テレポートやってみろよ」

「はい、えっと……」


 俺は右手を高く上げる。


「この後はどうすれば」

「気合入れろ」


……気合っすか?


「後はもう感覚だ。体全体を魔力が覆うイメージと、行きたい場所を強くイメージする。一度行ったことがある場所、それも記憶が鮮明な場所だ。とりあえず俺の隣だな。良いか、大事なのはイメージだぞ」


 俺は目を閉じて、コンマさんの()()をイメージする。

 すると体がふわっとして……。

 気付けばコンマさんの後ろに立っていた。

 コンマさんはバッと振り向くと。


「脅かそうったって無駄だぞ?」


 と、ニヤニヤしながら言った。


「てか、普通は二、三回失敗するもんだがなぁ。一発で成功するとはお前さんなかなかやるな」


 そう言って親指を立ててくれた。

 俺も親指を立ててグッジョブを返す。

 俺、実は魔法のセンスあったりして?


「ぐふふ」

「…………その顔は何だ?」

「えっ」

「なにニヤニヤしてるんだ」


 えっウソ、ニヤニヤしてた?

 いやぁ、魔法とかマジワクワクするじゃん!

 ちょっとくらいゆるしてくださいまし!



 ***



 コンマさんにはお世話になりっぱなしだ。

 あの人、一人で依頼に行っても問題ないのではないかというほど強いし、何で薬草採集のクエストなんて出しているのか謎だ。

 まぁ、そのクエストのおかげで食い繋いでいけているわけだし、感謝感謝。

 俺は宿屋のベッドに腰掛けながら、ホッと一息ついた。

 まだ夕方くらいだったので、宿が予約を再開して一番に取ることができたのだ。

 帰る時は、教えて貰ったばかりのテレポートを使った。

 テレポートは(ひと)一人をギリギリ運べる程度の小さな魔法陣しか作ることができないらしい。

 人間の魔法ではそれが限界なのだそうだ。

 今日の出来事を思い出しながら、ふとポケットをまさぐる。

 何気なく、中に入っているステータスカードを眺めた。


「……あれ?」


 なんかステータスカードに


 スキル:テレポート


 って刻まれてるんだが。俺、そんなの書いた覚えないぞ。

 …………まあいいか。

 考えてもキリがないので、とりあえず異世界ということで考えないことにした。

 そしてふと、妙案が浮かんだ。

 このスキルを使えば、地球へ帰ることができるのではないか、と。

 入口の世界がどうとか言っていたが、試してみる価値はありそうである。

 明日はコンマさんのクエストを受けずに、試してみよう。

 今日はぐっすり寝て、明日のテレポートに備えるか。

 そう思いながら、俺はいつもより少し長く眠りについた──。

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