039 女神パワー
次に気がついた時、俺はギルドのベッドに横たわっていた。
ベッドの横には、リメアとルナさんが座っている。
窓からは、朝日が部屋を照らしていた。
ルナさんは俺に、回復魔法を唱えてくれていることに気づく。
「あっ……目が…………覚めた、ようですね……!」
ルナさんが俺に声を掛ける。
「あの……ゾンビの男は?」
俯き気味に座っていたリメアも俺に気付き、答える。
「あぁ、あいつは逃げちゃったってさ。ミツル、大活躍だったらしいね」
大活躍? 俺、なんかしたか?
俺はベッドから上体を起こす。
医務室はベッド不足なようで、シーツを引いて、床に横たわっている冒険者もいた。
「えっと……俺、ベッドなんかに寝かせてもらっちゃって」
「なに遠慮してんのさ、さっきも言ったでしょ? アンタは功労者なんだよ」
「あなたが……一人で、戦って……くれなかったら……私達の……命は……なかった、かも……知れないので……」
そうなの?
よくわからないままベッドにいると、シルクハットのおじさんが入室した。
「目が覚めましたか」
俺の所に向かってくる。
「え、えぇ……。貴方が助けてくれたんですか?」
確か俺が意識を失う寸前、この人とゾンビの男……クエスタが対峙していた。
「助けた……まぁ、そうとも言えますが、助けられたとも言えますよ。貴方があの男……」
「クエスタと名乗っていました」
「……クエスタと戦い、時間を稼いでいなければ、私が来た時点で手遅れだったかも知れませんからね」
手遅れ……?
「それって……」
みんな死んでたかもってこと?
「……えぇ、あなたの活躍ですよ」
そう言っておじさんはにっこりと笑う。
「申し遅れましたね。私はピロードです。普段はコンマさんのお店で働いています」
そう言って、お辞儀をするピロードさん。
お店。
そういえばコンマさん、回復系専門のポーション屋を営んでるって言ってたな。
風貌は、いかにもジェントルマンって感じの人物だ。
「ピロード……さんは……凄腕の……冒険者だったんです……」
へぇ……。
うん、まぁ、そんな気はしてた。
だってすごく強かったもん。
流れ的にコンマさんも元冒険者だったりするのだろうか。
「そう言えばツユとカゲトは何処に?」
部屋を見渡すが、二人の姿が見当たらない。
「隣の医務室だよ。ツユちゃんはベッドに寝てるけど、カゲトは床だった」
そ、そうなのか。
なんだその要らない情報は。
というか、俺達以外の冒険者はまだ目を覚ましていないみたいだな。
「俺って割と早くに回復させていただけたのでしょうか……?」
見た感じ、殆どの冒険者は未だ横たわったままだ。
「ミツル、さんは……魔法持久力が……高水準なので……意識の回復が……早かったのでしょう……」
リメアが続ける。
「魔法持久力が高い方が、魔力の回復力が高いの。ルナちゃんは目覚めてから、ピロードおじさんと協力して、みんなを回復して回ってくれてるみたい」
そうなんだ。
「てか、リメアって俺より魔法持久力高かったんだ」
「いや? 女神パワーだよ?」
なんだそりゃ。
……あんまり深く考える事じゃないな、女神パワー。
俺はピロードさんとルナさんにお礼を言う。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「お気に……なさらず……」
てか、ルナちゃんとかピロードおじさんとか、いつのまにか仲良くなってるなリメアは。
「じゃ、ミツルも起きたことだし、私は今日の報告に行ってくる。ツユちゃんとカゲトの事は頼むね」
今日の報告?
……あぁ、天界に行くのか。
「分かった。いってらっしゃい」
リメアが医務室から出て行く。
にしてもリメア、心なしか元気なさげだな。
俯き気味だし。
……考えすぎか?
リメアとすれ違いに、医務室のドアから誰かが入ってきた。
「お、ミツルさんも目覚めましたか。さすがっすね」
ギルドマスターだった。
両手に包帯を巻いている。
「その腕……」
かなり痛そうだ。
「これですか? いやぁ、ちょっと本気を出しすぎちゃいました」
そう言って頭をポリポリと掻く。
すっかりいつもの緩い感じだ。
「あなたは病人なんですから、もう少し休んでおけば良いものを……」
ピロードさんが呆れたように言う。
「仕事は山程ありますから」
「いつもお昼寝をしているからでしょう?」
「えっ、い、いや、ほら、国から調査団が来るそうですし、その準備を……」
調査団? なんだそれ。
「あぁ……ミツルさんは……知りませんでしたね……」
ルナさんが、頭にハテナを浮かべた俺に気付き、説明をしてくれる。
「あのような……大きな……災害、は…………建国以来……初めて、なんです……」
「そもそもアンデッドの襲撃なんて、聞いたことないですからねー」
ギルマスも聞いたことがない災害、か。
転生して早々、俺は未知の災害に巻き込まれたってわけね。
そうかそうか……って、俺、運悪!
「あの規模の魔物災害で、被害が少なかったのは幸運とも言えます」
ピロードさんが言う。
ギルマスが、それに続いた。
「あ、そうそう。調査団の皆さんが冒険者の方々から話を聞きたいと言ってました。もちろんミツルさんも、お願いしますね」
げっ。
話を聞きたいだって? 俺、そう言うの苦手なんだけど。
……まぁしょうがないか。
「では……皆さん、私は…………次の、治療に……」
「ルナさん、ありがとうございました」
俺はルナさんにお礼を言う。
ルナさんはニコッと笑うと、医務室の扉に手をかける。
「次はミルドさんでお願いします」
ギルマスがそう返事を返す。
「了解……です……」
ルナさんは医務室を後にした。
てか、回復する順番ってどうやって決めてるんだろ。
俺はギルマスの持つ資料を指差す。
「その資料って、なんですか?」
「あ、これですか? 今この町にいる冒険者の、ステータス一覧表です」
ギルマスがその資料を見せてくれる。
「魔法持久力が高い冒険者の方が回復が早いですからね。その人達から魔力の回復を促しているんです。それで、回復魔法が使えるルナさんを真っ先に治療し、ミツルさんから順番に回復してたんですよ」
なるほど……。
ピロードさんが、疑問を口にする。
「それにしてもリメアさんは、面白い方ですね。魔法持久力が高いと言うわけでも無いのに、回復の速度が桁違いのようです」
あはは……。
女神パワーだよ、女神パワー。
「あなたも、お仲間さんの所に顔を出されたらどうでしょう」
そうだな。
ツユとカゲトを見に行くか。
「はい、そうします」
俺は二人に挨拶をすると、部屋を後にした。




