038 息が……できない……!
俺の前方に、プロテクトが展開される。
ツユが俺に付与してくれたのだ。
いける。
俺は男に剣を突き立てると……!
──キィィィィン!
弾かれた!?
「防衛魔法はあなた方の特権ではないのですよぉ?」
まずい! 体制を崩した! やられる!
カゲトが俺と男の間に入って、今度は盾で攻撃を受け止めた。
「ったく、ミツルは。弱ぇのに無理すんな。俺にありったけの支援魔法頼む」
カゲトがめっちゃイケメンに見えてくる。
「わ、わかった!」
俺は後方に下がると、カゲトの支援魔法を全開にした。
「ちょっと……重いな、これ……」
ただでさえダンジョン内の冒険者全員に支援魔法を掛けていたので、体に大きな負荷がかかる。
「俺達の支援は良い! カゲトに全振りしろ!」
この声は……ルクスさんか!
「了解!」
俺はカゲトの支援に集中する。
「きたぁぁぁぁぁあ!」
カゲトが、男の剣を押し返している!
「なっ……めんどくせぇなぁ!!」
男の口調が崩れた。
と同時、男から波動のようなものが放たれる。
カゲトは軽く吹き飛ばされるが、剣で体を支え、持ち直した。
男は、自分に刺さったままの光の矢を引き抜く。
傷口が、回復していった。
「自然治癒か……!?」
ツユが男を睨みながら言う。
「あらあら、そんなに驚くことではないでしょう。私が何だか分かっていればね」
男が不敵に笑った。
「まずい! 皆防御を」
ツユが言いかけたその時。
突然、周囲の冒険者が倒れだす。
先程まで声を上げていたツユや、剣を構えていたカゲトも。
なんの前触れもなく、突然、倒れた。
男に近い冒険者から倒れてゆく。
「なに……がっ……!」
突然、全身の力が抜ける。
魔力が、吸われていた。
俺の体内の魔力が、どんどん男の元へ流れてゆく。
男が、倒れたカゲトを蹴り飛ばし立ち上がった。
服の埃を払う。
「全く、冒険者というものは。数だけはうじゃうじゃいるんだから」
男は、大きく笑った。
「ハハハハ! 三人寄っても下衆は下衆。何人寄っても雑魚は雑魚ってな!」
床に転がる冒険者を蹴飛ばしてまわるその男。
くそっ……力が、入らない……。
でも、殺らないと……殺られる。
「っ…………!」
俺は掌に力を込めて、マジックボールを生成しようとするが。
すぐに魔力が分散し、飛ばすことができない。
「こん……のぉ……!」
俺は支援魔法を全力で自分に付与し、剣を構える。
男はまだ気づいていない。
重い体を動かし、男に向かって走り出す。
剣が音を立て、赤く輝く。
「くたば……れぇぇぇぇぇ!!!!」
俺は渾身のスラッシュをお見舞いした。
すっ……と、男の右腕に刃が入る。
男の右腕が、床に落ちた。
「なっ……!?」
男は、驚いた声を上げる。
「腕……ぁぁぁぁぁぁああ」
痛みに気づいた男が、悶えた。
「こんの雑魚がぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
男がすごい形相でこちらを睨んでくる。
それと同時、男の左腕から強力な波動が放たれた。
「うっ……!」
俺はなすすべなく、ダンジョンの壁に叩きつけられる。
直後、俺が地面に崩れるよりも先。
男が高速で近づき、俺の首を掴んだ。
再び壁に叩きつけられる。
頭に鈍い音が響いた。
「親におんぶに抱っこな異世界人が、この世界で良く生きていけると思ったな! 俺がじっくりと教えてやるよ。痛みってもんをなぁ!」
首が……締め付けられる……。
苦しい……! 苦しい……!
「あ……あぁ……」
息が……できない……!
男の右腕が、少しずつ復元してゆく。
「このお前に斬られた腕で……思いっきり殴ってやるよぉ……!」
「あ……ぁ……」
意識が朦朧としてくる。
息が出来ない。
吸われ続けていた魔力も限界を迎えそうだ……。
死ぬ……本当に、死ぬ……!
「冥土の土産に教えてやる。俺の名前はクエスタだ! 地獄の底で後悔し続けるんだなぁ!!!」
男の拳があと少しで復元されると言うところで、突然、治癒が止まる。
男は右手を眺め。
「なんだ……?」
と、声を漏らした。
俺は部屋の入口に目をやる。
そこには、シルクハットにモノクルのおじさんが立っていた。
「お前はもう回復出来ない。そして、私に魔力吸収は無意味だ。さて、どうする?」
おじさんの言葉に。
「チッ……」
男は舌打ちし、姿を消した。そう、目の前で、消えたのだ。
俺は床に項垂れる。
そこで意識が、途絶えた。




