036 待たせたな!
「待たせたな!」
声がした方向を振り向くと……。
「コンマさん!?」
そこには、薬草採集でお馴染みのコンマさんが立っていた。
「ギルマスには負けてらんねぇなぁ。おしっ! いっちょ暴れるか!」
え!? コンマさん商人じゃん! 冒険者じゃないよね!?
俺の頭の中でそんな疑問が湧いてくる。
しかしコンマさんはそんなこと露知らず。
両手に持った双剣を構え、前衛に突っ込んで行った。
「どけどけどけぇぇぇえ!」
突然後ろから聞こえてきた声に、前衛で戦っていたものが皆驚き、道をあける。
「ウインド・エンチャント!」
「ウォーター・エンチャント!」
コンマさんがそう唱えると、右の剣には風が、左の剣には水が纏う。
「ほらよっと!」
「グギャア!?」
アンデッド達を蹴散らし、その勢いでそのままダンジョンに入って行った。
コンマさん強。
こんなに強いのに、なぜわざわざ薬草採集のクエストなんか依頼してるんだ……?
一人で行けば良いのに。
謎は深まるばかりである。
「全く、あの方はいつも……」
再び背後から声がして、そちらを振り向く。
すると今度は、シルクハットを被り、杖をついた五十代ほどの男が歩いてきた。
左目にかけたモノクルをクイっと上げる。
杖を地面にひと突きすると、突いたところを中心に、円形のフィールドが展開された。
「グゥッ……ァァァ……」
すると、そのフィールドの中にいるアンデッドの動きが、分かりやすく鈍くなる。
男は、地面に突き立てた杖の持ち手をゆっくりと引き上げた。
すると、柄の内部から剣身がすうっと出てくる。
あの杖、剣にもなるのか……!
地面に突き立ったままの柄……もとい、鞘は、そのままフィールドを形成している。
「さて……」
動きが鈍くなったアンデッドを、一匹ずつ剣で始末していくおじさん。
なんなんだ、この人。
これがデバフというやつだろうか。
職業はデバッファーかな?
「何をやっているのですか貴方達。漏れ出てきたアンデッドは私が始末しますから、貴方達はコンマさんに続いてください」
急な二人の登場に、唖然としていた冒険者達は、そのおじさんに言われ、ハッとしてダンジョン内部に潜る。
「我らも続くぞ」
俺達四人も、冒険者達の後に続いた。
***
ダンジョン内部。
「ヴァァァァァァ!!」
前から半ゾン半スケの魔物がが一匹、走ってきた。
「前線の討ち漏らしか! ウォーター!」
「ヴァァァァ!」
大量の水を浴びながらも、近づいてくるゾンビスケルトン。
「とうっりゃあ!!」
それをカゲトが斬撃で、腹から上下に両断した。
「コンマさん、大丈夫かなぁ」
「あれだけ強いのだ。心配する必要はないはずだ」
ツユがそう言う。
「まさか、コンマさんがあんな強かったとは思わなかったよ」
確かに凄い圧は感じていたけれどね。
「私はもちろん、初めて会った時から強いって気づいてたよ?」
「本当に?」
「……うん」
絶対嘘だな。
しばらくダンジョンを走って行くと、前線が見えてきた。
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁぁあ!」
コンマさんが、最前線でアンデッドを蹴散らしている。
コンマさんはアンデッドをバッサバッサと切りきざみ、進んで行く。
この調子なら、最深部まで行けるんじゃ無いか……!?
コンマさんの活躍もあり、前線をどんどん上げていく。
が、しばらくすると、コンマさんの動きが鈍くなってきた。
コンマさんの魔力切れが近いようだ。
「皆さん! 加勢します!」
すると、背後からまた声がする。
「ミルドさん!」
後ろをふり向くと、そこにはミルドさんの他にも、ルクスさん、ルナさん、ヒスイさんがいた。
その後ろからも、ギルドで手当てを受けていた大勢の冒険者がやってくる。
「完全復活だぜぇ!」
「私達に任せてください!」
戦える戦力が一気に増えた! これならいける!
「ようし、もう少し気張るぞっ!」
コンマさんがやる気に満ちた声を上げた。
「おっしゃ! 俺も行くぜぇ!」
カゲトが前衛に突っ込んで行く。
「スラッシュ!」
「グァァァァァ!!!」
俺もやるぞぉ!
俺は戦っている冒険者全員に、腕力増強と脚力増強の支援魔法をかける。
支援を受けた冒険者達の動きが、より軽やかになった。
「ミツル、お主、この支援魔法……冒険者全員に……」
ツユが驚いたような声を上げる。
「……ん?」
「ふっ。まぁ良い。お主は戦闘面では話にならんからな。そこで支援してろ」
な、なんだよ。
ツユはなんで微笑んでるんだ? バカにしてるのか? 俺をバカにしてるのか!?
「ミツルは魔法持久力"だけ"高水準だからね。筋力も魔力も貧弱なんだから、安全な"後ろ"で支援してれば良いのよ〜」
リメアがそう言い残して、前衛に突っ込んで行く。
今絶対バカにしたよな!? うん、こいつは絶対俺のことバカにしてるな!? こん畜生!
てかリメア、アンタ回復職でしょーが! アンタも後衛にいるべきなんじゃ無いの!?
「ところで、あのギルドマスターは今何をしているのだ。町に向かう魔物は一掃したはずだろう」
ツユが、隣で剣を抜くルクスさんに問う。
確かにあの人がいれば、ここもすぐ突破できそうだよね。
あんな凄い魔法が撃てるんだもの。
「ぶっ倒れちまった」
ふぅん……えっ!? ウソ、ぶっ倒れたってどういうこと!?
「あぁ、お前らは知らなかったな。この町のギルマスのこと」
ルクスさんは、哀しい表情で続ける。
「あの人はな、昔は凄腕のメイジだったんだ」
メイジって確か、魔法使いのことだったよね? 得意が攻撃魔法の。
「だがな、炎症性魔力症候群って持病を持っててな。冒険者稼業を続けられなくて、ギルドで働いてんだ」
持病……か。
「そうか……」
ツユは、悪い事を聞いたという感じに俯く。
「まぁ、気にすることじゃあない。ギルマスだって、ケロッとしてるしな!」
そう言ってニカっと笑うと、ルクスさんは最前線に走って行った。
「ねぇねぇ、炎症性魔力症候群ってなあに?」
今までの話を聞いていたリメアが、横から入ってくる。
おいおい、今ちょい重苦しい空気だぞ。
確かに俺も気になるけども。
「ツユちゃん? 炎症性魔力症候群ってなあに?」
急かすな急かすな。
空気を読めバ神様。
「炎症性魔力症候群。体が魔力に拒否反応を起こす病気だ。魔法を使うたびに、自身の魔力が乱れ、激痛が走ると聞く」
ツユが、俯いていた顔を上げた。
「…………今はこんな話している場合では無い。攻撃を続けるぞ」
ツユはそう言うと、アンデッドの頭上に石を生成し、ストーンフォールを放った。




