035 ロード・オブ・ヘルフレイム
その言葉を聞いた冒険者達が、急に押し黙ってしまう。
理解するのに時間がかかった。
町は私に任せてくださいって、この数のアンデッドを、一人で相手するってことか?
この町の冒険者全員で相手をしても押されているのに、一体どうするってんだ。
「お主、何を考えてるんだ!」
ツユが、そう叫ぶ。
だが、他の冒険者は何も言わない。
ただ、唾を飲み込むだけだった。
「前衛の皆さん、下がって下さい」
ギルドマスターはそう言うと、魔法の詠唱を始めた。
慌てて引いた前衛の冒険者を追うように、階段を駆け上がってくるアンデッド達。
「幾星霜の刻を経た魔を以って、顕現せし紅焔よ」
男の周りに、無数の魔法陣が出現し、その上を小さな焔がゆらめく。
「我が意に従い、赫焉たる炎焔と化し」
焔はやがて赤々と輝き出し、魔法陣はその焔を乗せたまま高速で回転をはじめ。
「敵を灰燼に帰せ」
やがて焔は無数の火種となり、町からダンジョンまで、直線上に蒔かれる。
蒔かれた火種が地面に到達すると。
「ロード・オブ・ヘルフレイム」
火種はやがて大きな火柱となり、アンデッド諸共辺りを燃やし尽くした。
「さあ、早く! ダンジョンからアンデッドが湧き出す原因を排除するのです!」
「「「「「うぉぉぉぉーー!!!」」」」」
それを聞いた冒険者達は一気にダンジョンに向けて走り出す。
「凄い……」
俺は町からダンジョンまで一直線に作られた道を見て、声を漏らす。
「ぼーっとするでない! とにかく、我らも続くぞ!」
ツユの言葉にハッとして、冒険者達の後に続いた。
カゲトと合流して階段を駆け下りる。
「カゲト、大丈夫だった!?」
「あぁ。ったく、前衛ってのは命懸けだな」
さっきまで命懸けで戦ってたはずなのに、ケロッとしているな、こいつは。
「カゲトよ、よくやった。我らがついているからもう安心していい」
俺達四人は、焼け野原と化した森を駆け抜ける。
「こりゃすげぇな……あのギルドマスター一人でなんとかなるんじゃねぇの?」
カゲトの言う通りだ。
こんな凄い威力の魔法が使えるなら、常に前線にいれば良いのに。
両側から、ギルドマスターの攻撃を受けなかったアンデッドが迫ってくるが、もはや森林火災なので、アンデッド側も迂闊には近づけないようだ。
しかし、炎に手間取っているのは魔物側だけでは無かった。
「あのアホギルマスは、なんだって森に火魔法を放つんだ」
ツユが、進む方向の炎を水魔法で消火しながら言う。
確かに……。
てか、俺達より前を走ってる冒険者、熱くないのか? ダンジョン目掛けて炎の中を突っ走ってるけど。
炎耐性のついた装備でも着ているんだろうか。
そんなこんなで、なんとかダンジョンの入り口に到着する。
しかし、ダンジョンからは絶え間なくアンデッドが湧きつづけているので、入るどころかダンジョン前で応戦するのがやっとだった。
俺は戦っている前衛職に腕力増強と脚力増強の支援魔法をかける。
カゲトも前衛の戦闘に加わった。
町へと向かっているアンデッドはもういなかった。
俺達が道中避けてきたアンデッドは、ギルドマスターが魔法でやっつけてくれたらしい。
しかし、戦況は良くなったとは言えなかった。
入り口から溢れ出すアンデッドに対し、応戦するのがやっとだったのだ。
アンデッドの勢いはおさまらない。
魔力切れを起こす冒険者が続出した。
前衛の数が減り、ジリジリと迫ってくる魔物の大群。
ダンジョンは目と鼻の先だと言うのに、その唯一の入り口からアンデッドが溢れ出てくるのだ。
このまま消耗戦を続ければ、確実にこちらが負ける。
次々と出て来るアンデッドに、皆疲労困憊だった。
俺も例外では無い。
いくら魔法持久力が高いといっても、自分の魔力が少しずつ減っているのを確かに感じていた。
「ねぇリメア! これだけ倒してまだ出てくるって、このダンジョン一体どうなってるの!?」
「そんなの分かんないよ! 私だって! でも、この数のアンデッドが出続けてるってことは、前のよりもっと強力な召喚獣がいるのかも……」
リメアのその言葉に対して、ツユが答える。
「リメアの言う通り、その可能性が高い。いるとしたら、配下を行使するタイプだな。この小さなダンジョンに、これだけの数のアンデッドが蔓延っていたとは到底思えない」
「ったく、この間倒したばっかりなのに……」
文句を言っても敵は減らない。
ついに、戦える冒険者の数が半分ほどに減ってしまった。
ギルドマスターの活躍のおかげで、前線を町の入口からダンジョン前まで上げることができたのは良かった。
しかし、どうしてもダンジョンの中に攻め込むことができない。
「もう……これいつまで続くの……?」
リメアが声を上げる。
魔力が底を尽きそうなのか、かなり辛そうだ。
「わからん……。だが、ここで引いたら町は大変なことになるぞ……」
前衛の冒険者にプロテクトをかけ続け、こちらも底を尽きそうなツユが答える。
「くそっ! キリがねぇ……!」
前衛で戦うカゲトの悲痛な叫びが聞こえる。
このままじゃ、いずれみんなの力が尽きる。
そんな時……。
「待たせたな!」
そんな声が、ダンジョン前に響き渡った。




