033 魔物の襲撃
──ウ゛ーーーーーーーーーン
「皆さん! 起きてください!」
町に鳴り響く警報と、女性の悲鳴にも近い呼びかけで目覚めた。
ギルドの倉庫の入り口には昼寝男……の、隣の窓口を担当している受付嬢が立っていた。
「んん……どうしたんですかぁ?」
仕切りを一つまたいで隣で寝ていたリメアが、寝ぼけた声を上げる。
「魔物の襲撃が起こりました! これは緊急クエストです! 冒険者の皆さんには協力して頂きます!」
魔物が、町に…………?
俺達は受付嬢に連れられて倉庫の外に出る。
町はまだ薄暗い。
大きな荷物を背負った住民が大勢、誘導され避難所を目指していた。
町の上空はカラスやタカ、果てはグリフォンのような生き物まで飛び交っている。
町の東側では、戦闘が行われているのか、爆発音や金属の掠れる音が響いていた。
一体何が……?
俺達は受付嬢に連れられるまま、ギルドに駆け込んだ。
「ギルドマスター、倉庫の冒険者の方々です」
「ありがとうございます。あなたは住民への避難の呼びかけの手伝いにまわってください」
「了解です」
ギルドマスターと呼ばれたその男は……。
あれ! いつものお昼寝受付男じゃないか!
え、なに、この人ギルドマスターだったの?
いつもやる気無さげだったけど、あれで優秀な人だったのかも知れない……。
お昼寝受付男もとい、ギルドマスターの男は倉庫からやってきた冒険者達に声をかける。
「早速ですが、これは緊急クエストです。町に襲撃してきた魔物の群れの討伐をお願いしたいと思います。襲撃の原因は不明、魔物は主にアンデッドのようです」
アンデッドぉ……? あの、スケルトンとかゾンビとかの? お化け屋敷にいそうな奴ら……?
考えただけでも恐ろしい……。
「ウェルさんとメリアさんはアーチャー職なので援護射撃を行なってください。ミツルさんはバフでアーチャーをサポート。ツユさんは空間把握及びフィールドスキルでの相手の戦力把握。リメアさんはクレリックでしたね? 回復魔法での怪我人の手当てをお願いします」
それを聞いてリメアはうんと頷く。
「リメア、回復魔法使えたっけ」
「えぇ、純粋な回復魔法はまだだけど、神聖術に似たようなのがあるの」
そうなんだ。
さすが、腐っても女神だ。
「てか、クレリックって僧侶みたいなもんでしょ? 回復魔法で、ゾンビやっつけたりできないの?」
ゲームだと、アンデッドとかゴーストとかは、回復魔法で攻撃できたりするよな。
俺の問いに答えたのは、リメアではなくギルドマスターだった。
「負傷した冒険者の治療が最優先です。それに、回復職の方々を戦場に送り出して、失う方が痛手です」
なるほど……。
「カゲトさんは前衛職としてとても重要な役目です。最前線で魔物と戦ってもらいます。お願いできますか?」
「おう、分かった!」
確かにカゲトは剣の才能がある。
でも、スキルも一つしか覚えてないし、大丈夫かな……。
俺とリメアも駆け出しだから、自分の心配もしないとだけど。
「お主ら、大丈夫か……?」
ツユが、俺達三人の顔を見て心配そうに告げる。
「大丈夫さ。大体、ナイトって職自体が皆を守る職業なんだろ? 守る為に戦う。かっこいいじゃないか」
カゲトはきっぱりと言って、軽く微笑む。
カゲトは……凄いよなぁ。
そういう度胸、尊敬する。
「俺は……ちょっと心配。でも、冒険者なんだ。やってみせる」
俺も、うわべではそう言って見せるが。
「なにイキっちゃってんのミツル。足が震えてるわよ」
リメアに見破られた。
ケラケラ笑いやがって……。
「大丈夫よミツル。死んでも、私が蘇生してあげるから」
蘇生……そせい!
「そんなことできるのか!」
「えぇ、この世界は出口の世界だから、蘇生魔法がある。それに、私は蘇生の神聖術が使えるんだ。満月の時にしか蘇生できないんだけど、今日は丁度満月だから」
な、なんと……!
コンテニュー可かよ……!
なんて世界だ、本当……!
「それ聞いたら、俄然やる気が湧いてきたよ!」
俺は張り切ってみせる。
「ミツル、蘇生できるからって、死ぬんじゃないぞ。蘇生魔法は莫大な魔力を消費する。それに、月が隠れたら使えないし、失敗することもある。時間が経つほど、生き返りにくくなるんだ」
ツユにそう忠告される。
「うん。もちろん。そう簡単には死なないさ」
一回死んでるんだ。
あの痛み、もう二度と味わいたくない。
「…………無理はするなよ」
「うん」
「おう」
「ツユちゃんもね」
ギルドマスターが俺達に説明をしている間も、ギルドには冒険者が次々と集められていた。
「では皆さん、町の東口へ向かってください、こちらも情報が入り次第連絡します。くれぐれも無理はしないでくださいね」
俺は、アーチャーの二人と共に、東口へと向かった。
***
町の東側に到着すると、そこでは激しい戦闘が行われていた。
かろうじて町への侵入は防ぐことができているものの、町へと上がる階段の半分ほどまで魔物が迫ってきている。
階段の上で戦っている前衛の冒険者達の顔に、焦りと疲労がちらついていた。
俺はウェルとメリアと呼ばれていたアーチャー二人に、腕力増強の支援魔法をかける。
「ありがとう」
「助かります」
「いえ、俺も微力ながら手助けします」
俺とアーチャー二人は、町の端の柵まで行き、下から這い上がってくるアンデッドを狙撃する。
俺もマジックボールで応戦するが、やはり威力が足りない。
けれど、相手は上り階段ということもあって、足止めとしては機能している。
アーチャーの二人は、着々とゾンビやスケルトンなどのアンデッドを仕留めていく……。
***
「奴ら、大丈夫だろうか……」
私はとても心配だ。
カゲトはスキルを一つしか習得していない。
それに、リメアとミツルもどこか抜けている所がある。
「空間把握」
手から放たれた魔力の波動が、アンデッドの湧く森に広がる。
ダンジョンのように、障害物や濃い魔力に阻まれることなく、波動は広がっていった。
……軽く五万はいるな。
把握できるだけで五万。
目視でも一万はいる。
一体どこから湧いてきているんだ……。
うむ……確か東には、あのダンジョンが……。
***
「回復魔法の使える者は、手当てを急いでください!」
そんな職員の声が響きわたる。
ギルドの医務室に運ばれた冒険者は百を超えていた。
その八割が前衛職だ。
この町の冒険者は千人程。
実に十分の一の数の冒険者が、消耗していた。
状況は芳しくない。
駆け出しの目からも、そう見えた。
「そろそろベッドの空きが……」
ギルド職員の悲痛の声が聞こえる。
ここは女神としての出番だ。
私は一番近くのベッドに行き、唱える。
「神聖術階位三・グレイス・オブ・ゴッド」
ベッドで寝ていた怪我人の一人の傷が、みるみるうちに癒えていく。
「っ……。やっぱりここじゃ魔力を消費するんだね」
神聖力を魔力で代用した。
いくら神聖術と言えど、回復力が高い分、魔力も多く消費する。
これでは全員回復できるのだろうか。
でも、やらなきゃ。
私は一人一人、順番に回復をして回る……。
***
最前線では、厳しい戦いが強いられていた。
「グルァァァァァ!!!」
俺はそのガイコツの引っ掻き攻撃を盾で受け止める。
「っ…………!」
スライムとは格が違う。
その一撃で盾ごと吹き飛びそうになった。
「何やってるんだ! 押し返せぇぇ!」
後ろで指揮官ヅラしてるギルド職員に腹が立ってきた。
前衛職はこれしかいないのだろうか。
魔物と直接剣を交えているのは、俺を含めてたった二十人ほどだ。
狭い階段の上での戦いなのでかろうじて戦えているが、この数は魔物に比べて圧倒的に少ない。
しかも、バッファーが後ろで三人ほど支援魔法をかけてくれているにも関わらず、やっと攻撃が受け止められるくらいの強さだった。
「はぁぁぁ!」
隣の女剣士の剣が淡い紫色に輝き、正面のアンデッドを薙ぎ払う。
そうだ、俺もあの"スキル"ってやつを……。
握っていた剣に、力を込める。
シュィィィィィンと音を立てながら、淡く紫色に輝き出した。
よっしゃ! 練習の時と違って、ちゃんと光ってるぞ!
「はぁぁぁぁぁぁ!」
俺は吹き飛んで倒れていた正面のガイコツめがけて、渾身の一撃を叩き込む。
「グラァァ……」
俺の攻撃が命中した、正面のガイコツのうち三体が、黒い煙となって消える。
その後にどっと疲れが襲ってきた。
魔力が減った、と、いうのだろうか。
初めての感覚だ。
力が抜けるような感覚。
体力には自信があったが、今の一振りでかなり持って行かれた。
「そうだ! 良いぞぉ! 押せぇぇ!」
指揮官ヅラの職員の声が響く……。




