003 あれ? おかしいな……
薬草採集の依頼は、中々の重労働だった。
徒歩で採集地まで向かい、山ほどむしって帰ってくる。
あと依頼人であるコンマさんも同行していたのだが、この人の体力にも驚かされた。
俺が息切れしていて限界寸前でも、ピンピンしていたのだ。
商人だと言っていたが、この世界の商人は皆あんなにもタフなんだろうか。
……というか俺、どのくらい働いたんだろう。
かれこれ五時間程は働いたのでは無いだろうか。
確か下校していた時は部活が無かったから、三時半頃だったはず。
この世界の時間って地球と連動してるのかな?
一日は二十四時間なのか?
というかそもそも、この世界に時計って存在するの?
……まぁなんにせよ外はすっかり暗くなり、フクロウのような動物の鳴き声が、ホゥホゥと夜闇に響いていた。
こんなに重労働をしたのは久しぶりだ。
まあ一番大変だったのは移動だが。
受付で地図をもらって依頼人に会い、そこから山奥へ採集に向かう。
お陰で2500ルン稼いだが、めちゃめちゃ疲れた。
「こちらが報酬の2500ルンです」
小柄なギルド職員の男が2500ルンを持ってくる。
依頼人は、報酬をギルド経由で渡さなければならないという決まりがあるらしい。
「あの、このままカード作成をしちゃっても良いですか?」
「分かりました。ではまず1000ルンを差し引いて1500ルンになります」
俺は1500ルンを受け取った。
「こちらがステータスカードになります。お手を添えて下さい」
言われた通りに手を添える。
するとカードが輝き、色々な数字が刻まれた。
受付の男はそれを見て、話し始める。
「筋力、持久力……ほとんどのステータスは平均以下ですねぇ。高いのは知能と……あなた、魔法持久力が凄く高いですね」
男は少し驚いた表情を見せた。
そもそも、魔法持久力ってなんだろう……魔法の持久力? MP的な?
てかなんで俺知能のステータス高いんだ。
学校では中の下くらいの成績だったぞ。
あぁあれか。
異世界基準だからか。
……自分で言っててなんだか虚しくなってきた。
「ですが魔力自体は低いので、支援魔法の職業がおすすめです」
なるほど……?
まだあんまり理解していないが、まあ良いだろう。
「あなたが就ける職業の一覧です。高いのが知能と魔法持久力だけなので、あまり多くはありませんが……」
まあしょうがないよね。
魔物なんて見たこともない、ただの高校生ですもの。
俺は男から渡された一覧表を見る。
印が付いている職業は
バッファー:得意 支援魔法
デバッファー:得意 状態異常魔法
メイジ:得意 攻撃魔法
の3つだった。
……今思ったが、この世界においての職業って何を指すのだろう。
職業とは通常、生計を立てる為に行う仕事の事を指す。
でもゲームだと、戦う為の役割のことを指すよな。
この"職業"とは、どちらのことを指すんだ?
まぁこの状況で職業を選ばされるんだから、普通はゲームの方の解釈だろう。
でもそうだとしたら、仕事としての職業はなんていうんだ?
考えれば考えるだけ、疑問が浮かんでくる。
……ああもう、めんどくさい!
考えても答えが出ないと感じた俺は、このシステムをとりあえず飲み込んでおくことにした。
ここでこれから暮らすのだ。
いずれ分かるだろう。
それよりも、俺には気になることがあった。
男から渡された職業の一覧。
その中には忍者や農家など、明らかに和風な職業だったり、戦えなさそうな職業だったりも記載してある。
……気になる。
いやいや、農家ってどうやって戦うんだよ!
ニンジンでも投げるのか!?
というか忍者て。
すでに地球の文化(というか日本の文化)もこっちに入ってきてるのか?
んがーー!! ダメだ、気になる事が多すぎる!!
俺は溢れ出る疑問をなんとか一つに絞り込み、男に尋ねた。
「その職業を選んだら、ここに書いてある得意魔法以外は使えなくなるんですか?」
いま一番知っておくべき情報はおそらくこれだろう。
「いいえ、ただその魔法の威力が上がったり、効果時間が伸びたりするだけで使えなくなることはありませんよ」
なるほどなるほど。
「私はバッファーをオススメします。あぁあと、メイジはおすすめしませんよ? メイジは知能と高い魔力、魔法持久力が必要なのですが、魔力と魔法持久力は合計値で計られます。なので魔力が低いあなたですと、あまり戦力にはなれな……」
男は続けてそう言うと、途中で無言になった。
この人、俺があまり戦力になれないとか、結構失礼なこと言ってるのに気づいたな。
まあ、俺にはこんなアドバイスも有益な情報なので、むしろありがたいが。
てか戦力外なの事実だし。
本当はメイジになって魔法で魔物をドッカーーーン! みたいなことしたかったが、この男がオススメと言っていた支援魔法が得意なバッファーにすることにした。
生きるのが最優先だ。
自分に合わない職業になって死にました。
だと元も子もないからな。
それに、攻撃職じゃ無くたってオススメが魔法職なだけ良いじゃないか。
「じゃあ、バッファーで」
「かしこまりました」
そう言って男は、俺のカードの職業の欄にバッファーと書き込んだ。
そこは魔法で浮かび上がるとかじゃないんだね。
するとそのカードと、そして自分の体が淡く輝く。
「これで今日からあなたはバッファーです。では良い一日を」
そう言うと男はそそくさと裏に引っ込んでいった。
「ふぁぁー」
眠くなってきたので、ここの宿に泊まることにする。
そう思って、俺は木造の階段を登る。
「いらっしゃい! 半日500ルンで泊まれるよ!」
おぉ……ザ・定型分。
カウンターに佇む陽気なおじさんが言った。
その宿は5つほど部屋がある。
というか宿で半日500ルンって安くないか? と思ったが、ここは異世界だ。
ギルドで依頼とか俗に言う冒険者なる職業があるんだから、そりゃ売れるだろう。
お金の価値も日本と違うみたいだし。
「お客さんついてるねぇ。この時間に宿に来て一部屋空いてるなんて」
そうおじさんが告げる。
そりゃそうか、宿が常に空いてるわけ無いもんな。
外で薬草取りしたとき、冒険者や商人とは結構すれ違ったし、宿の需要は高いに決まってる。
「あんた、宿は早く取らないと」
「俺今日この町に来たばかりで……」
「そうか、見ない顔だと思ったら。てか、見ない顔だったらそりゃそうか。ガハハハ!」
豪快に笑うおじさん。
「この町には安く泊まれる宿がここしか無くてなぁ。冒険者は馬小屋やギルドの倉庫で寝るのもザラだと聞く。何せギルドが経営している宿がここしか無いからなぁ」
おいマジかよ。
馬小屋とか倉庫で寝るって……。
初日からそんなんじゃ無くて良かった。
「そこの角の部屋しか空いてないが、良いよな?」
「もちろんです。お願いします」
角の部屋でも大歓迎だ。
というか、角の方が好待遇な気が。
そもそも馬小屋や倉庫とは比べるのも失礼なくらいの待遇の差だろう。
「そういやあんた、この町が初めてだと言ったな。300ルンで泊まって良いよ」
ニカッと笑いながら、そんな嬉しい割引を提案してくれる。
「マジですか!? ありがとうございます!」
良いおじさんだ。
お陰で財布に1200ルン余った。
そういやご飯食べてないな。
……まぁ明日もあるし今日は我慢しよう。
眠くてぶっ倒れそうだし。
そんなことを考えながら、部屋の鍵を手に隅に向かい、そしてドアを開ける。
中には小さなテーブルとイス、そして一人用のベッドがあった。
個室トイレもあり、小さな井戸ポンプのようなものが付いた水浴び場まである。
そして部屋こそ小さいものの、手入れが施されていて綺麗だった。
俺はイスに腰掛けると。
「はぁ〜疲れたぁ」
そんな声を漏らす。
そういや転生した時から学ランだったな。
ずっと制服着たままじゃ目立つだろうし、明日はまた薬草取りに行って、お金稼ぐか。
薬草取りの依頼人であるコンマさんの依頼するクエスト。
あれがしばらく、俺の生命線になりそうだ。
ところで今頃、前世の俺の身体はどうなっているのだろうか。
俺は家族のことを思い出す。
……そして、涙が溢れてきた。
「あれ? おかしいな……」
天界では、一滴も流れなかったのに。
俺はベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めて泣いた。
異世界に来てから初めて学んだ事は、別れの悲しみは後から溢れてくる、という事だった。




