028 今だ! 撃て!
ツユの投げつけたそれは、ビッグスライムに命中。
中で弾けて、当たった側面が茶色に濁った。
ビッグスライムは驚き、軽く怯んだあと体を震わせる。
「こっちこいやぁぁぁ!」
カゲトが岩陰から飛び出すと、盾をロングソードで叩いて音を出す。
その音に反応してか、偵察スライム達が一斉にカゲトに向かっていった。
「今だ! 撃て!」
ツユの合図が聞こえる。
「OK、いくよ!」
「おりゃ!」
リメアと俺の放ったマジックボールが、偵察スライム達を殲滅していく。
「ほっ! それ!」
カゲトも、スライム達の猛攻を華麗に避けながら、確実に斬撃を叩き込む。
真っ二つになったスライムが、地面に落ちて溶けていく。
と、ここで、消化を終えたビッグスライムがジュポン、ジュポンと音を立ながら、俺達の方に向かって来た。
「お主はまだ大人しくして……ろっ!」
ツユの投げた泥団子が、再び命中。
体を震わせて、消化を始めた。
「今のうちだね!」
「おらっ!」
「それ!」
三人の総攻撃によって、偵察スライムの殲滅に成功した。
残りはあのデカいのだけ……。
そう思った矢先。
──ヒュン!
「おわっ!」
なんとビッグスライムが、自身の体の一部を飛ばしてきた。
飛んできたビッグスライムの一部が、偵察スライムとなり、俺のプロテクトに貼り付く。
「このやろ!」
俺は剣を抜くと、偵察スライムを串刺しにする。
プロテクトがこっちの攻撃を貫通してくれる仕組みで助かった。
外側に張り付かれたら、どうしようもないもんね。
と言うか……。
「ツユ! こんなの飛んでくるなんて聞いてないんだけど!」
「お主も見ていたではないか。奴が分裂して偵察スライムを産み出す所を」
いやいや、狙いを定めて撃ってくるのは聞いてないんだが!?
泥団子を消化し切ったビッグスライムが、俺を目掛けてマシンガンのように偵察スライムを飛ばしてくる。
「えっ! おわっ! ちょっ! 助けっ! 無理っ!」
なんとか避けるも、地面に落ちた偵察スライムは、そのまま俺に飛びかかってくる。
「スラッシュ!」
プロテクトで守られていない、背後から飛びかかってきたスライムを、なんとかスキルで撃破する。
「ちょっと! キリがないよこれ!」
偵察って名前やめた方が良いって! これ奇襲スライムだって!
プロテクトにこびりついた何体ものスライムを、滅多刺しにしながら。
「アハハハ! ミツルがスライムまみれなんだけど!」
あのバ神様、笑ってやがる。後で覚えてろ。
「ミツル! 大丈夫か!?」
走ってきたカゲトがロングソードで、俺のプロテクトに張り付いたスライム達を薙ぎ払ってくれた。
「ありがとう……」
カゲトぉ……怖かったよぉ……。
「ミツル、焦るな。スライムごときで、私のプロテクトは壊れない」
カゲトの攻撃でヒビが入って焦ってた癖に。
そのせいで、ツユの言葉の信頼度が俺の中で少し下がったんだからな。
「次の泥団子だぞー。それっ」
ようやくツユが投げてくれた泥団子によって、ビッグスライムの動きが止まった。
「よっしゃ! あのでっけぇの叩くぜ!」
カゲトが、嬉々としてビッグスライムの元に駆ける。
「的が大きいと助かるね!」
リメアも、ここぞとばかりにマジックボールを連射。
「やはり、私の雷魔法は不要だったな」
ツユに至っては、腕を組み、遠目で傍観している。
もぉ……なんで皆そんなに元気なのぉ? 魔物とか、こわくないわけぇ?
俺、絶対に冒険者向いてないよぅ。
そんな確信を得てしまったのだった。
***
それからしばらくして。
「トドメだ!」
──ザシュ! ジュウウウ……。
偵察スライムの大きさにまで小さくなったスライムは、最後にカゲトの一撃を喰らい、真っ二つに割れて地面に溶けていった。
俺はそれを見て、ため息を吐く。
「はぁ……終わったね……」
「ほんと、長い戦いだったわ」
「弱いくせに、やたら時間がかかったな」
リメアとカゲトもクタクタのようだ。
「ふむ、良い感じだ。これなら、駆け出し冒険者を名乗れるぞ」
俺はツユに、口を尖らせて言う。
「ツユが『スプレッドサンダー!』って一言唱えれば、すぐ終わったのに……」
「す、すまんすまん。まぁ、これでこのパーティーがどのくらい戦えるか分かったから良いではないか」
まぁそうなんだけど……。
ツユのやっていることは、確かに正しい気がする。
冒険者としては先輩なんだから、これ以上の口答えはやめておこう。
「ミツル、お主は剣ではなく杖を使うのはどうだ」
「杖?」
「そうだ。杖なら、魔力の通りが良くなるし、より高威力の魔法や、支援ができる」
杖か。
そっちの方が良いな、絶対。
俺がこれからも剣を振って戦っていけるとは到底思えないし。
「お金が貯まったら武器屋にでも寄ってみようかな」
と、ここでリメアが話に割って入ってきた。
「ねぇ、洞窟の色変わって無い?」
ん? 洞窟の色?
俺は洞窟を見回す。
すると、先ほどまで青く光っていた洞窟が、薄紫色に変化していることに気がついた。
「本当だ。紫になってる」
「あぁ、スライムが完全にいなくなったから、人の魔力に反応して紫色になっているのだろうな」
スライムの魔力は青色で、人間は紫色って訳か。
「しかし妙だな……本来人しかいないこの洞窟はもっと濃い紫色になるはずだが……」
「今の色だと薄すぎるってことか?」
「あぁ……」
顎に手を当てて考えるツユに、リメアが一言。
「ツユさんや、私は人に似て非なるもの、女神リメアよ。私の魔力は白だから、紫と混ざって薄くなってるんじゃない?」
女神の魔力の色は白。
へぇ、そうなんだ。
確かに神聖術とか、いかにも白な感じはするけれども。
「まさか、ケサランパサランか!? しかしそんなレア生物がこんな洞窟にいるわけ……」
「ねぇツユちゃん、聞いてる? 白いのは私の魔力だって」
「いや、精霊という可能性も……」
「ツユちゃん? ツーユちゃーん」
「白い魔力の生物……一体どんなレア者が潜んでいるんだ!?」
「…………」
ついにリメアが話すのをやめ、泣きそうな顔でこちらを見てくる。
こりゃあツユ、わざとやってるな。
俺はリメアの肩に手を当て、憐みの目を向けてやる。
「ひどいよぅ……」
不憫だなぁ。
……ちょっと可愛い。
って、いかんいかん。
こいつが良いのは外見だけだ。
俺は決して面食いではない。
内面を見るんだ。
そんなしょーもないことを考えながら、ちらっとカゲトの方を見ると。
「売ったらいくらするんだろうなぁこれ」
そんなことを呟きながら、薄紫色に光る魔鉱石を拾い集めていた。
こんな石の値段なんて考えもしなかった。
コイツ、もしかしてがめつい?
……いや、この行動だけでそう判断するのは失礼だな。
「よし、では討伐も終わったし、ここから出るとしよう」
そんなこんなで、俺達は出口へと歩み始めた。
***
俺達はダンジョンを出て、依頼主の農家の方の住む家へと向かっていた。
カゲトは魔鉱石を両手いっぱいに抱えている。
「ねぇ、そんな抱えるほど魔鉱石いる?」
「お金になりそうなものはとりあえず持てるだけ持って帰った方が良いに決まってるだろ?」
がめつい。
「カゲトよ、魔鉱石は物にもよるが、基本金にはならんぞ?」
「え、マジ? 早く言ってくれよぉ」
と、言いつつも、魔鉱石を離さないカゲト。
そんな会話をしていると、俺のすぐ横を何かが凄い勢いで通り抜けた。
それがぶつかった木に、切り傷のような跡ができる。
風魔法…………?
俺はそれの飛んで来た方向を見る。
するとそこには。
「ガァー! ガァー!」
…………カラスが群れていた。




