022 えへ、えへへえへ
俺達はギルドの外に出る。
外は快晴で、冷えた空気に風がそよいでいた。
「よし。ではまず、腕力増強の支援魔法からだ。カゲトは少しそこで待っていてくれ」
「おう、分かった」
カゲトはギルドの壁にもたれ掛かる。
「腕力増強は、腕に魔法をまとわりつかせるイメージだ」
ツユはそう言うと、右腕の服の袖をめくって見せる。
腕は、少しずつ赤色に輝いてゆく。
「こんな感じだ」
いや、こんな感じと言われても。
見ただけじゃ分からん。
「お主は脚力増強の支援魔法が使えるのだから、その要領でやればすぐのはずだぞ」
……ん?
「俺、脚力増強の支援魔法なんて使えないけど」
「ウソをつけ。昨日階段を駆け上がっていた時に使ったではないか」
そんなことない。
魔法なんて碌に使い方分からんし。
「……まさか、無意識に発動していたのか?」
無意識に発動することなんてあるのか。
いやいや、無いだろ。
ついこの間まで、魔法のない世界で生きていた人間だぞ?
「昨日、カラスから逃げていた時と同じように、脚に力を込めてみろ」
「……こう?」
俺は言われた通りに、昨日の状況を思い出しながら脚に力を込める。
すると、両脚が淡く赤色に輝きだした。
「お? なんか力が湧いて来たぞ?」
「それが、脚力増強の支援魔法だ。本当に無意識に発動していたようだな。いやはや、ミツルにそんな才能があったとは」
ツユがやれやれと息を吐く。
ポケットに入っているステータスカードを取り出すと、たった今、"脚力増強"と刻まれた。
「ねぇツユ、このスキル、今ここに刻まれたんだけれど」
「ステータスカードは所持者の保有スキルを表示できる優れものだが、表示されるには条件がある。本人がその魔法を自覚していることと、スキル名を知っている、決めていることだ」
へぇ。
ここに来て新事実発覚。
「スキル名は、そのスキル発動時の意思によって名づけられる。今回の場合、私が"脚力増強の支援魔法"として教えたから、そうカードに刻まれたというわけだ」
つまり、俺がこの魔法を"脚力増強"という魔法だと認識したから、ステータスカードにそう刻まれたのか。
……ありゃ? つまりこのカード、俺の意思を読み取ってるってこと? ってことは……。
「人の意思を読み取る魔法とか、あるの?」
気になる。
というか、あったら怖い。
俺がやらしいこと考えてるとか、ゲスいこと考えてるとか、筒抜けの可能性があるってことだろ? それは嫌だ。
「あるにはあるが、とても高度な魔法だ。人間一人の力では、まず発動は無理だな」
そうなんだ。
とりあえず一安心だ。
ある……らしいが、今は気にする必要ないだろう。
「で、だ。稽古の続きに戻るが、次はその脚力増強の魔法を腕にかける感じでやってみてくれ」
言われた通りに、両腕に魔力をまとわりつかせる。
すると両腕が、淡く赤色に輝き出した。
ツユが驚いた顔で拍手をしてくれる。
「凄いなミツル。一回で成功させるとは。流石、無意識に新しい魔法を発動するだけのことはある」
え、俺って実は凄い?
「そ、そうかなぁ、えへ、えへへえへ」
…………なんだよ。
なんかツユが引いたような目で見てくるんだけれど。
「ミツル、その顔はなんだ」
そう言われ、顔がふにゃっとなっているのに気づく。
「え、いや、別に? 俺、魔法のセンスあるのかなぁなんて思って……」
「そ、そうか……」
なんだよその反応! 俺、そんなに変な顔してるのか!?
「……まぁ良い。最後に、自分では無く仲間に支援魔法をかける場合だな。同時に何人も支援するとかなり魔力を消費するが、まぁミツルの魔法持久力なら問題ないだろう」
そういうと、ツユは座って待っているカゲトの元へ行き、バックパックから木剣を取り出し、握らせる。
「カゲト、それでこれを殴ってみろ」
そう言うとツユがプロテクトを発動させた。
カゲトの正面に、前回とは逆向きの防護膜が出現する。
「本来プロテクトは相手の攻撃のみを防ぐだろう? だがこのプロテクトは逆向きに付いているから、自身の攻撃のみを防ぐはずだ」
そんな応用もできるのか。
「よし、分かった。うおりゃあ!!」
カゲトが全力で振り下ろした木剣は、プロテクトにヒビを入れる。
「ほれ、ステータス無強化の状態だとヒビのひとつも……ウソ、ヒビ入ってる……」
ツユ、なんかめっちゃ動揺してるな。
口調もいつもと変わってるし。
てか、プロテクトにヒビ入れるカゲトスゲェな。
間違っても喧嘩は売らないようにしないければ……。
「職業が探検家であるとはいえ、魔力にはそれなりに自信があったのだが、少しショックだな……。まぁ、良い」
ツユがプロテクトに魔力を注ぎ、ヒビを修復する。
「ではミツル、カゲトに支援魔法をかけてみろ。相手の腕に魔力を込めるイメージだ」
言われた通りに、カゲトの腕に魔力を込める。
すると、カゲトの腕が淡く輝き出した。
「おお、なんだこれ! 力が湧いてくるぞ!」
「よし、カゲト、もう一度だ」
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
──バキィィィン!!
先程はカゲトの攻撃を耐えたプロテクトが、いとも簡単に割れてしまった。
「ミツル、上出来だ。これが、腕力増強の支援魔法。これでバッファーとして活躍できるな」
やった! 腕力増強と脚力増強。
一気に二つも支援魔法を取得してしまった。
「よし、次は剣だな。ミツルにもこれを」
ツユから木剣を受け取る。
「プロテクト」
俺の前にも、プロテクトが形成された。
「カゲトのプロテクトも正常な向きに戻しておいた。では、打ち合ってみろ」
え!? 打ち合えって、マジで言ってる?
「ツユ、ちょい待ち。さっきこの人、プロテクトにヒビ入れてたよね? 俺に当たったら結構まずいのでは?」
「大丈夫だ。万が一割れそうになっても、私が魔力を注ぐから、割れる前には修復する」
そ、そう?
「じゃあミツル、やろうぜ」
カゲトが木剣を構えてくる。
ねぇ、なんか凄く強そうなんだけど。
「お、お手柔らかに……」
俺も木剣を構えた。
「いくぞ!」
やば!? いきなり来た! 動きが速い!?
「くっ……」
正面から振り下ろされた木剣を、咄嗟に受ける。
木剣同士が掠れる音。
「お、重い……!!」
思わず声が漏れる。
強い!
「そいやっ!」
カゲトは木剣をしならせ俺の攻撃を受け流すと、そのまま突きを入れようとする。
「危ねっ!」
咄嗟に左に避け、回避するが。
「まだまだぁ!」
突いた木剣をそのまま、左に避けた俺に向けて横に薙いでくる。
「うわっ!」
俺は咄嗟に防ぐが、左手に持った木剣で無理に防いだため、そのまま木剣を落としてしまった。
「そいっ」
そのままカゲトが軽く振り下ろした木剣が、俺のプロテクトに当たる。
「勝負あり、だな」
そういうと、カゲトは誇ったようにフフンと鼻を鳴らした。
「ほら、木剣」
俺の落とした木剣を拾い、返してくれる。
「ありがとう。お前強いな。なんかやってたの?」
「柔道」
いや、柔道は関係ないだろ。
「…………剣術的な何かは? ほら、剣道とか」
「授業以外ではやったことねぇな」
やったこと無くてこれかよ。
コイツ、相当才能あるぞ。
「カゲト、凄いな! ミツルに魔法を覚える才能があると思えば、お主は剣術の才能か。型はめちゃくちゃだったが、あれなら初級モンスターは倒せるぞ」
「マジか!」
カゲトがわーいわーいと喜んでいる。
「ミツルも、気を負うでない。最初はそんなものだ。少しずつ覚えていくぞ」
「うん」
一応返事はしたが、別に気負いなどしていない。
…………していないとも、あぁ。
正直剣の才能とかめっちゃ羨ましいが、俺がアドリブであんな反応できるとは思えない。
堅実にいこう、俺は。
「カゲトも、型は学んでおいて損はない。よく聞いておくんだぞ」
「りょーかい!」
そんなわけで、次は俺とカゲトの剣の稽古だ。
ミツル君、実は左利きだったりします。




