020 回復魔法だよ
受付の男に案内され、のれんの奥へと入る。
九つほどの部屋があり、俺達はその一番端の部屋に向かった。
「ここです。では、僕は仕事に戻るので、また何かあったら声かけてくださいねー」
そう言うと、男はのれんをあげて再び受付へと戻っていった。
この人、仕事に戻るとか言いながら、またカウンターに突っ伏して昼寝しだしそうだな……。
そんな事を思いながら、ドアに手を掛け中に入った。
中では、ツユとヒスイさんが、椅子に座ってカゲトの様子を見ている。
「お主らか」
ツユは一言そう告げると、再び視線をカゲトに戻した。
「そろそろ魔剣も修理すべきか……では、私はこれで」
ヒスイさんはそう言って立ち上がる。
「「ありがとうございました」」
「お主には借りができたな」
「あぁ、いつかその借り、きっちり返してもらうよ」
サムズアップののち、部屋を出ていった。
「カゲトの状態は?」
「大丈夫そう?」
俺とリメアはツユに問う。
「さっき回復魔法をかけてもらった。あとは目が覚めるまで待つだけだ」
良かったぁ。
ツユの落ち着いた顔を見るに、命に別状はなさそうだ。
「「で、ツユ(ちゃん)は大丈夫なの?」」
リメアとハモる。
「ただの魔力切れだからな、少し休んでいれば治る」
俺はリメアと顔を見合わせる。
安心した表情で微笑むリメアに、微笑み返した。
「で、カゲトはこれからどうするの?」
疑問に思ったのでリメアに訊いてみる。
「そりゃあ"神隠し"の被害者なんだから放っておくわけにはいかないよ。私達のパーティーに加入してもらうかな」
まぁそれが妥当か。
カゲトも転移してきたばかりで、行く当ても無いだろうし。
「なぁリメア、ミツル」
突然、ツユが真剣な顔で言う。
「なぁに? ツユちゃん」
「どうした?」
「……考えたのだが、私もお主らのパーティーに正式に加入させてはくれないだろうか」
正式に加入?
……あ、そっか、そういえばツユって本来ダンジョンの探索の間だけって話だったんだっけ。
良いよ、むしろ俺達も助かる。
俺がそう言うよりも先に。
「もちろん! ミツルだけじゃ不安だしね!」
リメアが食い気味に答えた。
てか今、聞き捨てならんことを言ったぞ。
「なんでわざわざ俺を引き合いに出すんだ」
「だってミツルよりもツユちゃんの方が頼もしいんだもの」
それは反論しないが。
「しょうがないじゃないか。だって何処ぞの女神様から、魔法の説明ゼロでこの世界飛ばされたんだから。異世界転生ならチートの一つや二つ授かっても良いんじゃ無いか?」
俺は今まで思っていた事を告げる。
チーレムウハウハの俺の異世界生活は一体何処にあるのか。
「そんな都合良く強くなれるわけ無いじゃない。異世界転生できただけでも感謝しなさいよね」
「うっ…………」
確かにその通りである。
二度目の人生を歩ませて頂いている手前、何も言い返せない。
「……ふふっ」
ツユは、俺達の会話を聞いて小さく笑うと。
「これからの冒険は騒がしくなりそうだ」
と、嬉しそうに告げた。
「ところでツユちゃんさ、今までソロの冒険者だったでしょ? なんで急にパーティーに入ろうと思ったの? しかも私達みたいな弱小パーティーに」
確かに。
今までソロでクエストをこなせていたのなら、むしろ俺達は足でまといになってしまうのでは無いだろうか。
「もともとパーティーには加入したいと思っていたのだ。ダンジョンに行くたびに他の冒険者に『同行させてくれ』と声をかけるのも面倒だったからな。それに……」
ツユはカゲトに視線を向けると、目を細める。
「魔法やスキルの一つも使えない奴に、命をかけて守ってもらったからな」
続けて
「後はお主達がいつ何処でケンカして死ぬか、分かったものでは無いしな」
と言って笑った。
あれれ? ツユのカゲトを見る目が……。
よし、からかってやろう。
ぐひひひ……
「つまりはカゲトに守られたから一緒に居たい、と……」
ツユは俺の言葉を聞いて、ジトーっとこっちを見てくる。
「そんな怠惰な理由などでは無い。先も言ったように、お主らは放っておくと何をしでかすか分からんからな」
カウンターを食らった。
ちくしょう、ツユの慌てふためく姿が見れると思ったのに。
「それはミツルのせいだよ。基本」
なんだよ、リメアが喧嘩を売って来やがった。
「俺のせいだぁ? 何処がさ。考え無しのあなたのせいなのでは?」
「カッチーン。頭に来た。何その言い方! もうちょっとマシな言い方出来ないわけ!?」
「最初に喧嘩売って来たのはリメアさんですよ?」
「事実を述べて何が悪いのよ」
「なんだと!」
俺とリメアは互いに立ち上がり、手四つの体制で組み合う。
「……お主ら、そういうとこだぞ」
ツ、ツユさん。
そんな呆れたような表情で見ないでくれ。
「「ごめんなさい」」
そんな茶番をしていると
「う、ううん……」
カゲトが目を覚ました。
「ここは……?」
「おお! 目を覚ましたか! 良かった良かった」
真っ先に反応したのはツユだ。
続けて俺も
「カゲト、大丈夫?」
と言う。
「ここはギルドの医務室。もう安心して良いよ」
「ギルドの医務室!?」
リメアの言葉に、カゲトが跳ね起きる。
「アンタは……神様だっけか? アンタは同じ日本人の……あ! ツユさん! 無事だったか!」
カゲトはツユを見て言う。
「ツユさんなんてよそよそしい呼び方はやめてくれ。お主には迷惑をかけてしまったな」
「いやいや、良かったぜ」
カゲトは大きく息を吸うと
「で、ここはまだ異世界? 夢から覚めたわけでは無いのか……」
吸った息を大きく吐く。
「あれ、傷が治ってる」
「回復魔法だよ」
「傷を癒す魔法? すげぇな!」
リメアの言葉に、興奮するカゲト。
「興奮するな。また体を痛めるぞ」
そんなカゲトは、ツユに再び寝かしつけられた。
***
今日はもう医務室を使うことはないだろうということで、一日カゲトに使わせてくれるそうだ。
そんなわけで俺達三人はギルドの倉庫へと向かった。
「倉庫で寝るとか……無いわぁ」
リメアがなにやらほざいている。
「しょうがないよ。宿屋なんかなかなか取れないし」
「そうだぞ。冒険者なら文句はあまり言わないことだ」
「はぁーい」
俺は倉庫に着くと、寝よう……と思ったのだが、イノシシを踏み殺した時の感触を思い出して、良く眠れなかった。
冒険者……俺には向いてないかもなぁ……。




