019 クッキング・ファイア!!
「んぁ〜〜! 良い空気!」
俺は大きく伸びをする。
「木々の香りに爽やかな風〜!」
リメアも鼻をスンスンしながら、久々の地上に感動していた。
「お主ら……」
ツユが呆れている。
「フフッ」
ヒスイさんが、そんな俺達を見て小さく笑った。
いやぁ、生きてるって最高だなぁ。
召喚獣と死闘を繰り広げた後だからこそ、そう思う。
太陽は沈み始め、空は淡くオレンジ色に染まっていた。
ギルドには医務室が存在し、クエストで魔力切れや体力を酷く消耗した冒険者をそこで休ませることが出来る……らしい。
医務室なんてあったかなぁなんて思ったが、ツユやヒスイさんがそう言っているので、俺が見落としているだけだろう。
***
ダンジョンを出てからは、細い道を行く。
町まで伸びている道だ。
舗装はされておらず、獣道。
町へと上がる階段を目指していたのだが……。
「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」」」」
俺達は朝、リメアが攻撃したカラスの群れに襲われていた。
「ガー! ガー!」
「此奴らは何故我らを襲うのだ!」
ツユがリメアの背中で揺られながら、俺達に訊いてくる。
「あのカラス達は……多分……朝リメアが……魔法で攻撃した……奴らじゃ……無いかな……ゼェゼェ」
もっと鍛えておけば良かった。
体力の無い俺は、息を切らしながら走る。
きつい。
めっちゃきつい。
そんな俺とは対照的に、カゲトを背負って走っているのに一番余裕そうなヒスイさんが声を荒げる。
「何故カラスなんかに攻撃したんだ! 奴らが執念深いということを忘れたのか!?」
「しょうが……ないじゃないですか……ミツルが……魔法を教えて……欲しいって聞かなかったんですよ……ハァハァ」
ツユをおぶって走っているリメアも、かなり体力がやばいようだ。
「俺は別に……カラスを的にしろなんて……言って無いぞ……」
「じゃあ何? ……私のせいだって……言うの?……」
「どう考えたって……お前の……せいだろ……」
「あぁ……今ミツルが……ミツルが私のせいだとか……言った……!」
俺とリメアは、息を切らしながら取っ組み合いを始める。
するとツユが、今まで見たことない剣幕で。
「お主らはこんな時でもケンカか! 良い加減にしろ!!」
と言い放った。
「「ご、ごめんなさい……」」
俺とリメアは突然のことに驚きながらも謝る。
「プロテクト!」
と、魔力が少しだけ回復していたヒスイさんが防衛魔法を発動させた。
「一応全員守れているようだな……よし、このまま町まで走るぞ!」
ヒスイさんの職業は魔法剣士。
得意とするのは防衛魔法だ。
町へと上がる階段を駆け上がる。
「ゼェ……ゼェ……」
や、やばい……死にそう……。
「ハァ……ハァ……」
しかし、ツユをおぶって階段を駆け上がるリメアはもっとキツそうだった。
「すまないリメア、もう少しだ」
ツユはリメアに言う。
そして後ろを振り返り。
「と言うかミツル。お主は何も背負って無いのだから、もう少し頑張れ」
そんな無慈悲な言葉を吐いて来た。
なんかムカつくな。
よし、インドア文化部の全力見せてやる!!
「ゼェ……ゼェ……っ……!」
俺は足に力を込めると、全力で駆け上がる。
「っ……っ……!」
息できねぇ……!
リメアを抜かそうとしたその時。
「ハァ……ハァ……!」
なんとリメアもペースを上げて、俺と並走してきた。
くそっ! 俺に先へ行かせないつもりだな……!!
カゲトを背負ったヒスイさんが先頭に見える。
「お前ら、もうすぐだ。頑張れ!」
「ガー! ガー! ガー! ガー!」
後ろにはプロテクトをつついてくるカラス。
前には応援してくれるヒスイさん。
そして横にはツユを背負ったバ神様。
絶対にこの女神には負けない……!!
「ゼェ……ゼェ……!」
「ハァ……ハァ……!」
階段は登り切った!
あとはギルドまで走るだけ……!
一番前を走っていたヒスイさんがギルドのドアをバタンと勢いよく開ける。
俺とリメアは最後に駆け込むと、カラスが入ってくるギリギリでドアを閉める事に成功。
ドアの向こう側では、バタバタとカラスの落ちる音が。
「ゼェゼェゼェゼェゼェゼェ」
「ハァハァハァハァハァハァ」
ギルドの入り口で、俺とリメアは壁にもたれていた。
い、息が……。
死ぬ……。
ギルドの職員が何人か駆け寄ってきた。
その職員のうちの一人が。
「ヒスイさん、とりあえずその方を医務室に」
と、息一つ切らしていないヒスイさんと、未だ気絶中のカゲトをギルドの受付の中まで連れて行く。
医務室はどうやらギルドの受付の奥にあるらしい。
通りで今まで気づかないわけだ。
隣では、ツユが職員にギルドカードを見せていた。
あれっ、なんかギルドカードのデザインが違うな。
この町で発行したステータスカードじゃ無いからかな?
俺とリメアのところには、いつもの受付の男がやってきた。
「ミツルさん、リメアさん、一体何があったんですか? 町まで魔物が入ってくるとは思えませんけど、ドアの向こうで一体なにが……」
多少息が整ってきた俺は、男の質問に答える。
「カラスが……襲ってきて……」
「カラスですか?」
職員の男は少し怪訝な顔をしたあと、ボロボロで運ばれていくカゲトと、立てない様子のツユを一瞥する。
「あぁなるほど、それは災難でしたね」
眉を下げて言った。
そして続ける。
「まぁミツルさん達はまだ冒険者成り立てすからね。ちょっと見ててくださいよ。飛んでる敵との戦い方を」
男はそう言うと、ギルドのドアを勢いよく開けて……
「クッキング・ファイア!!」
炎の魔法を放った。
「ギャァァァァ!?」
それはカラスの群れに命中し、地面に落ちていた奴らを全て焼き鳥にする。
「ギャー! ギャー!」
上空でホバリングしていた奴らが、驚いて逃げてゆく。
「こうやって、広範囲魔法を放ってあげれば良いんですよ」
平然とした顔で、言い放つ。
「この魔法、もともとはお料理するために食材に熱を与える魔法だったんですがね。火力を強くすれば、攻撃魔法として応用できる事に気づいたんですよね〜」
「……凄いですね」
俺はあまりの驚愕で"凄い"以外の感想が出てこなかった。
料理のための魔法でカラスを殺生してしまうとは。
この人、受付なんかしてないで冒険者やればいいのに。
「まぁこれで害鳥も駆除したことですし、一緒にいた探検家の子も医務室に連れていかれたみたいすから、お二人も医務室まで案内しますよ」
こうして俺達は、受付の男に連れられ医務室へと向かった。




