015 次は真面目にやってぇね♡
スキップで進むリメアの、服の襟元をツユが掴む。
「ふぎゃぁ! いったたた……」
「さっきも言っただろう!! お主ではまだダンジョンは無理だ、引き返すぞ!」
「でもでも、もうこんなところまで来ちゃったし……」
だから……二人とも速すぎ……体力が……。
「リメア……ツユ……待って……」
俺は息切れしながらも、なんとか追いついた。
「とにかく、一旦戻るぞ」
「キシャアアアアア!!!」
うおっ! 死角からスケルトン! しかも剣持ってる!!
「マジックボール!!!」
咄嗟に放った俺のマジックボールが、スケルトンに直撃。
「グギャ!? ギシャアア……」
スケルトンは手に持っていた剣を落とし、紫の灰になって消えた。
おぉ……俺、こんなに素早く反応できたの、生まれてはじめてだ……。
命の危険を感じたからか、思いの外素早く反応した俺の体に感激する。
てか、弱っ。
さっきのスケルトンは俺の魔法じゃびくともしなかったのに、こいつは一撃で倒れたぞ。
「危なかった……」
俺はそう呟き、剣を拾った。
片側の刃が少し欠けているが、まだまだ使えそうだ。
左手に握ってそれを観察していると、リメアがキラキラした目でこちらに寄ってくる。
「ミツル、それちょっと貸して」
「え、良いけど、なにすんのさ」
リメアは剣を受け取ると。
「ほらツユちゃん、武器だよ! 武器! これでもっと奥に潜っても良いよね!」
いや、良くないだろ。
なんてこと言うんだこのバ神様は。
俺はこんな怖いとこ今すぐに出たい。
「ヂューー!!」
うおっ! 今度は両手に双剣持ったネズミみたいな魔物!
「マジックボール!!」
「ヂャァァァァ!」
今度はリメアが仕留めると。
「お、こっちは双剣じゃん! ミツル、はいこれ、返す」
「え、あ、はい」
俺は勢いのまま、リメアから返却された剣を受け取ってしまった。
リメアは先程手に入れた双剣を両腰のベルトの隙間に刺すと……。
「これで良し!」
……って、違う違う! 『これで良し』じゃないぞリメア!
「ほらツユちゃん! これで私もミツルも武器を持ってるよ!」
確かに武器は持ってるけども違う! 俺、剣術ワカラナイ!
「だ、だが武器の扱い方は……」
そうそう、ツユ様の言う通りだ。
俺がしきりに頷いていると。
「シャアアァァァァ!!」
再び飛びかかってくる、新手のスケルトン。
「神聖術階位四・神速」
しかしリメアは、そんなスケルトンをみじん切りにすると。
「……ほら、これで合格でしょ?」
……強いんすね、リメアさん。
今、ほぼほぼノーモーションだったぞ。
スケルトンが悲鳴を上げる暇もなく消滅したぞ。
てか、しれっと初公開したその神聖術、なんだよ。
神速ってか? 凄まじいな。
「あ、あぁ、合格……?」
「ようし、そうとなったらダンジョン探索続行よ!!」
ツユ、めっちゃ戸惑ってるじゃないか。
「……というか合格ってなんだ。私はテストした覚えなどないのだが……」
ツユの困惑した声が聞こえる。
「なぁミツル、リメアはいつもこう強引なのか?」
「さぁ……。俺も最近知り合ったばかりだし」
「そうなのか、てっきり私は幼馴染的な仲なのだと思っていたぞ」
ツユは困惑した顔で軽く笑うと。
「まぁ私も、あの肝の座り具合、嫌いでは無いがな」
そう言って先を行くリメアを足早に追った。
……ちょっとぉ、俺は嫌なんだけどぉ?
***
それからしばらく、いろいろな魔物に遭遇したが、ツユの戦闘技術とリメアの双剣さばきのお陰で難なく進む。
「リメアってさ、もしかして双剣使ったことあるの? 天界でそういうの習ったりとか?」
「いや、特には」
「その割には強くね?」
「まぁ、これがセンスってやつかしら」
なんか腹立つけど、なにも反論できない。
俺なんて、絶賛懐中電灯持ち役だぞ。
実質荷物持ち。
ちまちまマジックボールを打ったりしてるけど、威力が雀の涙すぎて話になってない。
くやしい。
俺だって剣で無双したりしてみたいのに。
「キシャアアアアア!」
「グァァァァァア!!」
正面から再びスケルトンが。
「はぁぁ!」
リメアが二匹の内、一匹を仕留めるが。
「やばっ、一匹逃した。ミツル、そっち行ったよ」
えっ、こっち来んなし!
「マジックボール!」
俺の放ったマジックボールは、スケルトンに命中するが。
うん、やっぱり倒せない。
やはりさっき倒せたスケルトンは最弱決定だな。
って、そんな無駄な事を考える余裕があったら、剣を抜け、俺。
剣を抜くと、構えた。
「うおりゃ!」
──カキィィン!!
受け止められたー。
右腕頑丈すぎやしませんか? ヤベー……左腕のパンチ飛んでくる。
「ウォーター!」
「キシャアアアア……」
と、横からツユの水魔法が飛んできて、スケルトンを撃破してくれた。
ツ、ツユぅ……助かったぁ……。
「ミツル、お主、剣術の経験は?」
「無いです」
「やはり引き返そう」
うん、引き返そう。
俺がそう返答するよりも前に。
「ミィィィーツル!?? 小さい頃はあぁんなに剣術が得意だったのに、今日はどうしちゃったのさぁ」
おい、何だ急に。ヘタクソな演技だな。やめろ。
「お主ら、知り合ったばかりではなかったのか?」
「ミィィーツル! 次は真面目にやってぇね♡」
こいつ、どんだけ先に進みたいんだ。
「ダッシュ!」
「あ、おい! 走るな! ミツル、追うぞ!」
えぇ……またですか……?
***
少しして、リメアに追いついた俺達は、結局ダンジョン最深部目指して歩いていた。
「ツユちゃんツユちゃん、さっきから出てくる魔物ほぼスケルトンだけど、なんで?」
「召喚獣がアンデッド系の眷属を呼び出すタイプである可能性と、攫ってくるタイプの召喚獣がたまたま、スケルトンの群れに魔法陣を設置した可能性とが考えられるな」
「ふうん……?」
リメア、よく分かってなさそう。
まぁ俺もなんだが。
と、前方から何かの足音が聞こえてくる。
「懐中電灯を消せ。何かやってくるぞ」
俺は言われた通りに懐中電灯を消す。
「今度はなんだ……人型では無いな。スケルトンが呼び出されたのと同じ魔法陣では無いのか……?」
しばらく息を殺していると、そいつは姿を現した。
「……イノシシか?」
「イノシシ?」
あっちもこちらに気づいたのか、猛スピードでこちらに向かって走ってきた。
「まずい! 皆避けろ!」
「わっ!」
「やばっ!」
俺とリメアは咄嗟に避ける。
そのあと俺はすぐにマジックボールを生成し、イノシシに向けて放った。
「フゴォ!」
イノシシは暗闇で怯えていたのもあってか、慌てて逃げて行った。
「ダンジョンにイノシシが棲みつくとは考えにくい。召喚獣の種類は、別の場所から攫ってくるタイプで間違いなさそうだな」
そう言いながら、ツユがバックパックに入っているガラクタを取り出す。
「なにをするの?」
「錬金だよ。魔法陣が近そうだからな。魔法陣を消すポーションを作るんだ」
小さな鍋に『ウォーター』と魔法を唱え、水を入れる。
その中に砂やらなんやらを混ぜていた。
錬金術、か。
憧れるよな、こういうの。
夢があるっていうかなんというか。
「よし、出来たぞ」
空の瓶に、液体を入れていく。
手際良いなぁ。
まるで本物の錬金術師だ。
本物見たことないけど。
また少し歩くと、ひらけた空間に出た。
かなり大きい空間だ。
やはり暗いものの、消えた松明のようなものがいくつか刺さっている。
さらに三つほどの分かれ道があって、部屋の隅の床には魔法陣が張ってあった。
「魔力が濃いな。近くに召喚獣がいるかもしれないから気をつけておけよ」
と言いながらツユは消えた松明に魔法で火を灯し、魔法陣めがけてポーションを投げると──。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「プギャァ!」
魔法陣が消える瞬間。
中から、パーカーを着た青年とイノシシが二匹、飛び出してきた。
「な、なんだこいつらは! ……くっ」
魔法陣の一番近くにいたツユは咄嗟に避けるが、勢い余ってダンジョンの壁に激突する。
「ツユ!? 大丈夫か……って、うおおおお!?」
やべぇ、イノシシとそれに追われたパーカーの野郎がこっち来る!
「頼む! なんとかしてくれぇぇ!」
野郎が俺に助けを求めてくる。
「こっちくんじゃねぇぇぇぇぇ!」
俺とそいつは必死に逃げるが、もちろんイノシシの脚力に勝てるはずも無く。
イノシシの突進が俺達に命中しそうになった瞬間──。
「はぁぁぁ!」
リメアのマジックボールがイノシシ二頭に命中。
「これでも食らえ!」
続けてツユの投げた魔道具が大きな音を立てて破裂。
「プギャァ!」
イノシシ二頭は怯えて去って行った。
「まさか魔法陣が消える直前に転移してくるとはな」
ツユは額の汗を拭い、ため息を吐く。
「ツユ、壁に肩強く打ってたけど、大丈夫?」
「心配されるべきはお主の方だぞ。大丈夫か」
「ミツルー! 大丈夫〜!?」
ツユとリメアが小走りでこちらに寄ってくる。
「ありがとう。俺は大丈夫だったけど……」
俺は隣でぜえぜえと息を切らしている青年の方を見る。
青年、といっても俺より背も高く、年上に見える。
そしてなにより、その男は。
「ぜぇ……ぜぇ……まずは……ありがとう……ところで……あんた達は……一体……何者なんだ……?」
"日本語"を話していた。




