013 なんで土下座、してるの、うへっ
ダンジョン内部 通路
どうしよう。
ツユに武器を持ってないのを告げることなく、ダンジョンに潜ってしまった。
というか、武器の存在を忘れていた俺もバカだ。
言いだそうにもタイミングを見失ってしまった。
今更武器を持ってないだなんて言っても……。
「どうしたのミツル。懐中電灯の灯り越しでもわかるくらい変な顔してるよ」
こいつ!
リメアが考えなしにダンジョンに入るとか言わなきゃ、こんな事にはならなかったのに!
「不安なの? 大丈夫だよ、心配しなくても。私達には魔法があるじゃない」
呑気なことを言うリメアの腕を引っ張り、耳を俺の口元に寄せる。
「ひゃっ」
「いいかリメア、俺達はまだ、実戦でこの魔法使ったことないんだぞ」
コソコソと話す俺に。
「だから、今から試すんじゃない」
「威力が無くて倒せなかったらどうするの! 他の魔法も無いし、武器すら持ってないぞ」
「その時は退散だよ、退散。もう十分も潜ってれば、ダンジョンの魔力も体に残って、参加証明にもなるだろうし」
「あのねぇ、冒険者なのに武器を持ってないだなんて……」
「お主ら、何をコソコソ話しているのだ。懐中電灯の灯りと暗視で丸見えだぞ」
ゲッ、バレた。
「ななな、なんでもないよ?」
「ミツルが心配症なだけだよ。さっきから」
「ダンジョンが初めてで心配な気持ちもわかる。私も初めはそんなだったからな」
ツユが先輩風を吹かせながら続ける。
「だが心配するな。敵の弱点は私が把握しているし、二人はその指示に合わせて攻撃をすれば良いだけだ」
いや、その攻撃手段が一つしかないのだが。
ツユの職業、探検家の得意スキルは"フィールドスキル"というらしい。
フィールドスキルは主に空間把握や暗視など、ダンジョンや草原などで役立つ探索系のスキルが主だという。
本人曰く。
『探検家という職業は、お宝を集めるのに色々と便利なのだ。しかし攻撃系のスキルはそのほとんどを苦手とする。だから錬金術スキルで攻撃したり、魔道具や基礎魔法を使った搦手で対処する』
ということだそう。
……つまり、ツユの職業はゲームでいうところのサポート職。
俺達の職業と同じ位置付け。
居たら冒険が便利になるやつ。
それに探検家は攻撃スキルが"苦手"といった。
サポート職の俺達でも良いから共に行動したいと言ったという事は、探検家という職業はおそらく俺達の職業よりも攻撃が弱いという事である。
…………どうしよう。
俺の悩みなど知る由もなく、リメアはツユと会話をしている。
「ダンジョンの中ってこんなに息苦しいんだね」
「あぁ、ただでさえ空気が薄いのに、魔力濃度も濃いからな」
「そっか、だからピリピリした感じの空気感なんだ」
ツユは歩みを止めると、俺達の前に移動し再び空間把握を行なった。
「ここは右だな。ここを曲がったらしばらくは一本道みたいだぞ」
「わざわざ空間把握を使わなくても、暗視で見えないの?」
リメアが疑問を口にする。
「空間把握はかなり遠くまで把握することが出来るからな。暗視は昼間ほどよく見える訳じゃない。その懐中電灯より見える程度だ」
この世界の懐中電灯は、正直かなり微弱な光だ。
LEDとは似ても似つかない。
「空間把握は魔力波動で空間を把握するスキル。暗視は魔力を無理やり光の代用として使い、輪郭を写すスキルだからな。どちらも立ち止まらなければいけなかったり、効果が弱かったり、一長一短なのだ」
ほぉ、だから使い分けてるのか。
リメアと俺は、うんうんと頷いた。
それからも俺とリメアが前衛、ツユが後衛という形で五分ほど歩む。
しかしこのダンジョン、魔物が大量発生したんじゃ無かったっけ? 全然魔物に遭遇しないな。
まぁ弱々な俺達にとっては、ありがたいんだけどね。
「ねぇツユちゃんこのクエストの目的ってさ、大量発生した魔物の討伐だったよね?」
「そうだな」
「今のところ大量発生しているダンジョンに潜っている感じがしないというか」
リメアもどうやら同じ事を思っていたらしい。
ツユに疑問を投げかけた。
「おそらく、我らより先に入った冒険者達に狩られたのだろう。まだ魔法陣の魔力は感じるから、依頼達成はされていないと思うが……」
「魔法陣って?」
俺が放った言葉に、ツユが歩みを止めた。
怪訝な顔でツユがこちらを見ている。
「魔法陣ってのは魔物を召喚したりするあれだ」
「魔物を召喚したりする、あれ?」
「そう、あれだ」
その魔法陣と魔物の大量発生になんの関係があるのさ。
「…………お主、掲示されてたクエストの内容、きちんと読んだのか?」
「あんまり。俺はリメアに引っ張られてここまで来たから、掲示板には目を通せてないよ」
「え、もしかして私のせい?」
リメアがこっちを見て言ってくる。
え、違うの? と言いたくなったが、喧嘩したく無いのでやめる。
「…………ねぇミツル、聞いてる? 聞こえてる?」
「聞こえてない」
「聞こえてるじゃん!」
「で、クエストの内容って?」
「話を逸らすなぁ!」
リメアの話を聞き流しながら、ツユに問う。
「ほれ、これを見るのだ」
ツユはバックパックからクエストの内容が書かれた紙を取り出した。
「右下に詳細と書いてあるだろう」
そう言って見せてきた紙にリメアが懐中電灯を近づけた。
俺はそれを読み上げる。
「なになに? 詳細。報酬はダンジョン由来の魔力又は魔物討伐、魔法陣消滅時に放たれる魔力が確認された場合のみに──」
「そこではない。もっと下だ下」
「ここかな? 今回の討伐クエストの成功条件は魔物増加の原因の一掃です」
「つまりだ。ダンジョンに魔物が湧くということは、何か原因があるだろう。それを潰せということだ。まぁ今回もどこかからやって来た召喚獣のせいだと思うが」
知らない単語が出て来た。
魔法陣の次は召喚獣。
なんだ? 召喚獣って。
話の流れから推測するに、そいつが魔物を大量発生させてる原因っぽいけど。
「召喚獣って、何?」
「私も知らないなぁ」
あれ、いつもは解説担当のリメアも知らないらしい。
「召喚獣を知らないのか? はぁ……世間知らずにも程があるぞ」
ツユにため息を吐かれた。
「だって私、この世界のことなんて軽く勉強させられたくらいだし……」
小声でリメアが呟く。
まぁ住んでる世界が違ったわけだし、知らなくて当然だよな。
俺なんてこの世界のこと、ほとんど何も知らずに転生してきたわけだし。
……てか、そうだよ。
リメアがこの世界の事勉強させられたのって、きっと俺みたいな転生者に説明するためだよな。
本来ならば、『貴方の転生する世界は──』的な説明があった事だろう。
「……リメア、職務放棄は良くないよ」
「は?」
俺の呟きに、何を訳の分からん事を言ってるんだとこちらを見るリメア。
そんなことをしていると、ツユが急に俺とリメアの服のポケットを弄りだした。
「えっ、ちょ、何して……」
「やめ、ツユちゃ……! くすぐったいぃぃ……」
俺とリメアは、突然のことになす術なく、まんまとツユにステータスカードを奪われた。
「ふむ……二人とも知能ステータスが低いわけでは無いのだな。これだけ冒険の知識が皆無で、一体なんの知能を数値化しているのだこのカードは」
ツユはそこまで言うと、何かに気付いて驚愕の表情を浮かべる。
「お主ら、これしかスキルを会得していないのか!?」
やべ、バレた!
俺は早急に土下座をかます。
「申し訳ありませんでしたぁ!!!」
「ミツル、その姿勢はなんだ?」
「私の国に伝わる、謝罪の意を示す姿勢です」
「そ、そうか……」
ツユの戸惑ったような声が聞こえる。
「ミツル、な、なんで土下座、してるの、うへっ」
ポッケを弄られてまだ変な笑い方をしているバ神様が、そんなことをかましてくる。
「ダンジョンに行こうなんて軽々しく言ってきたこの女神についてきたのがバカでしたぁ……。俺達、武器も持っていませぇぇん……」
「ちょっとミツル、なんかその言い方無礼じゃない?」
「あんたがここに連れてきたんでしょうが!」
「なんでミツルがキレてるのか知らないけれど、まずはその態度を改めなさい!」
「二人とも落ち着け、ここはダンジョンだぞ! 魔物に気づかれたらどうする!?」
ツユの静かなツッコミに俺たちはハッとする。
「「ご、ごめんなさい……」」
「女神とかなんとか、何を言っているのかよく分からんが──」
呆れたような視線を向けてくる。
「武器も無し、それにこれだけのスキル数でダンジョンに挑むなんて、いくらなんでも無謀すぎるぞ」
ツユのため息が聞こえた。
そうですよね……やっぱりそうですよね……。
「一旦引き返すぞ、話はその後に──」
……なんの音だ?
奥から、金属の擦れるような音が響いてくる。
「誰かが魔物と戦っている……」
「誰かが魔物と戦ってる!? 助けに行かないと」
ツユの呟きを聞き、音の方向へと走り出すリメア。
「ちょっと待て! お主一人では……。やむを得ん。ミツル、追うぞ!」
え、ちょっ!? 待っ──!?
こうして俺達は、ダンジョンのさらに奥へと進んで行くのだった。




