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118 よくぞお越し下さいました!!

 俺達がギルドの多目的執務室なる部屋で、四時間座りっぱなしと言う新手の拷問を受けた翌日。

 探偵のアイラさんとその助手、オーヴィムさんに呼び出された俺達は、リメアの天界への定期報告ののち、探偵社へと赴いた。


「呼び出しって事は、アイラさんとオーヴィムさん、何か掴んだのかな」


 呼び出すって事は、何かあったのは確かだろう。


「犯人の居場所を突き止めたとか!?」


 リメアが興奮気味に答える。


「落ち着けリメア。兎にも角にも、会って見なければ分からんぞ」


 ツユが、そんなリメアを宥める。


「さっさと捕まえて、とっちめてやろうぜ!」


 おうおう、カゲトもやる気満々なようで。

 狭い路地を通ると、やがて探偵社の前に到着した。

 俺はドアに手をかけると、ゆっくりと押し開ける。


「よくぞお越し下さいました!!」


 顔、近っ!!!

 真正面にアイラさんの顔が現れたので、大きく仰け反る。


 そしてそのまま、真後ろに居たリメアに衝突した。


「うわぶっ!」

「あ、ごめん」


 リメアが鼻を押さえて、こちらを睨んでくる。


「皆さん、お揃いのようですね」


 アイラさんの後ろから、オーヴィムさんが顔を出した。


「早速ですが、中へお入り下さい。転移事件について、皆さんにお話したい事が──」

「お邪魔しまーす!」

「入るぜー!!」


 お、おいおい、リメア&カゲトさんや。

 余りにも無礼だぞ。


「おいお主ら! ……すまない、うちの仲間が……」


 ツユが謝るので、俺も一緒に謝る。


「いえいえ、お二人も、とにかくお入り下さい」

「さぁさぁ早く早く! 皆さん、驚きますヨォ!」


 アイラさんまでテンションが高い。

 そんなハイテンションアイラさんと、いつでも冷静なオーヴィムさんに促されるまま、俺達はソファに腰掛けた。


「それでは、早速、本題に入りたいと思います。単刀直入に言いますと──」

「オーヴィムが次の犯行現場を完全に予想したんです!!!!」


 興奮気味のアイラさんが、顔をぐいと近づけて言い放った。


「本当ですか!?」

「マジですかそりゃ!?」


 リメアとカゲトも負けじと身を乗り出す。


「落ち着いてくださいアイラさん」


 オーヴィムさんがアイラさんの服を掴み、引っ張ってソファに再び座らせる。


「リメアもお座り」

「カゲト、しっかり座るのだ」


 俺はリメアを、ツユはカゲトを座らせた。


「……で、次の犯行現場がわかった、と言いますと……」


 俺はオーヴィムさんに続きを促す。


「えぇ。結論から言いますと、転移事件の主犯と見られる、ディテク公国騎士団団長のシルル・ハクワイト……。彼女が狙う次なる地は──」


 オーヴィムさんは、テーブルに大きな地図を広げた。

 その地図は、赤いペンで直線や丸がたくさん書き込まれている。

 その線や丸が、一番集中している位置を指差し、こう告げた。


「グロードア帝国、帝都。グロウディアスです」

「「「「帝都、グロウディアス……!?」」」」


 俺達四人は、口を揃えて言う……が。


「「「……って、どこですか?」」」


 その後、ツユを除いた三人で再びハモった。


 ──ガタッ。


 アイラさんとオーヴィムさん、ツユのズッコケる音がする。


「お主ら、知らぬのか。帝都グロウディアスを」


 いや、知らん。

 なんだっけ、俺達の今いるディテク公国って、『帝国領土分割統治政策』とやらによって分離した国だとか何とかって聞いた気がする。

 帝国……公国……ハッ!


「なるほどね!」


 おぉ、点と点が繋がるとはこの事か。


「何がなるほどなんだ?」

「私、何もわからないんだけれど」


 目が点の二人に、頭の良い俺が丁寧に説明してあげる事にした。


「良い? ディテク公国は、公爵の治める国。何で王や皇帝を名乗らないかと言うと、きっとより上位の存在がいるからだ。つまり──」


 俺は溜めると、自分で導き出した結論を言った。


「帝国の皇帝から、公爵に任命され、国を名乗る事を許された……という事だ!」


 どうだ……!!

 ほれほれ、リメアもカゲトも、俺を尊敬の眼差しで見つめているぞ……!


「おぉ!」

「よく分かんないけど、凄いね!」

「でしょ? えっへへへ……」


 羨望の眼差しに浸って気持ちよくなっていると、ちょっと引くような目でツユに肩を叩かれて我に帰った。


「ミツル。悪いが、ただ一般常識を述べただけでは無いのか……?」


 え? そ、そうなの?


「皆さん、初めてお会いした時から思ってたのですが、なかなかに愉快な方々でいらっしゃいま……フゴッ!」

「アイラさん! ダメです、失礼ですよ」

「な、何がば……は……離へ!」


 おいそこ、全部聞こえてるぞ。

 一般常識……て、マジ? いや、だってさ! 現代地球に帝国って無いじゃん! 公国……は、あったような気もするけど!


「とにかく、詳細を教えてくれ」


 ツユが話の内容を軌道に戻す。

 大事な話だし、考えてみれば茶番してる場合じゃ無いな。


「はい。では、気を取り直しまして……」


 オーヴィムさんは地図を指差し、説明を始めた。


「先ほどミツルさんが説明をなさった通り、現在我々がいるディテク公国は、グロードア帝国の東に位置する、帝国と強い結び付きを持った国です」


 強い結び付き、か。


「『帝国領土分割統治政策』によって、グロードア帝国は国防の重要地点を公爵に治めさせ、独立させました」


 難しい話になってきたな。

 領土分割の目的は、国防……ねぇ。


「北のノーゼス公国、南のサウシーリア公国、そして東がここ、ディテク公国となります」


 地図を見た感じ、帝国の西側は海が広がっているらしい。

 だから北、南、東の三方向なんだな。


「分割と銘打ってはいますが、この三つの公国はそれぞれ帝国の強い影響下にあるのです」


 細かいことはよく分からないが、グロードア、ノーゼス、ディテク、サウシーリア、四つまとめて帝国の支配領域って感じ……らしい。


「その上で、本題に入ります。公国騎士団の団長であるシルル・ハクワイト。彼女の出身は──」


 その後もしばらく、オーヴィムさんの説明を聞いた。

 曰く、団長シルルは、元々帝国の貧民街の出身……らしい。

 そして彼女が襲った貴族の家。その殆どが、裏金やら何やら、お金をよく無いことに使っている人達だったそうな。

 そこから動機はある程度予想がつく。

 貧民街の対処、インフラ整備が追いつかない要因、それが上流階級にある。そう彼女が考えていれば。

 ディテクへの犯行がほぼ不可能となった今、情報が帝国へと伝わるよりも前に、帝都を襲う可能性が高い……と。

 なんだか聞いていて、かなり穴のある推理な気がした。

 わざわざ帝都を襲わずとも、次はノーゼスやサウシーリアの貴族かもしれない。

 そう思ったが、オーヴィムさんの眼や言動は、かつて無いほどの自信に満ちていた。

 アイラさんの勢い任せ推理ならまだしも、オーヴィムさんがなんの確証もなしに俺達にこの話をするとも思えない。


「分かったんだけども、一ついいかなオーヴィム」

「なんですか、アイラさん」

「この推理では、些か根拠に欠けるのでは無いか?」


 アイラさんも同じ事を思っていたようだ。


「それは……」


 珍しく、オーヴィムさんが口ごもる。

 そんな様子を見て、アイラさんは深くため息を吐いた。


「……まあ良いか。皆さん、どうかオーヴィムを信じてほしいです。オーヴィムの推理は、外れた事は殆どありません。根拠が無いのか()()()()()()のかは不明ですが……」


 アイラさんはそう言うと、オーヴィムさんを睨みつけた。

 ……なんだかんだ、アイラさんもオーヴィムさんもお互いの信頼は厚いよな。

 初めてこの探偵社に依頼した時もオーヴィムさんが、アイラさんは勘も鋭いし実力もある、とか言ってたし。


「すみません。しかし、シルルが次に標的とするのは帝都で間違いありません。これは、本当です」


 うーむ……。まぁ、他にアテも無いしなぁ。

 俺は左に座るツユ、右に座るリメア、カゲトと順に目を合わせる。

 全員から頷きが返ってきた。

 ……うん。よし!


「ありがとうございます。何にせよ、僕達には他にアテがありません。……向かいます。帝都、グロウディアスに」


 俺の返事に、アイラさんもオーヴィムさんも安堵と感謝の入り混じった表情を浮かべた。


「ありがとうございます」

「お役に立てたようで、良かったです!」


 オーヴィムさん、アイラさんが、それぞれ返事をする。


「それと──」


 続けてアイラさんが、おずおずと。


「──依頼はこれで、完了という事になります。そしてこれは、私からの個人的な頼みなのですが……」


 アイラさんからの、個人的な頼み?


「私達も、帝都まで同行させては頂けないでしょうか」

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