115 おかわりお願いしま……
「ご飯〜♪ご飯〜♪」
リメアったら、スキップなんかしちゃって。
とりあえず怪我は心配なさそうだな。
とにかく、元気で良かった。
「うまそーな店ばっかだなぁ! 俺、どこでも良いぜ! どこ入っても腹いっぱい食える自信ある!」
カゲトもはしゃいじゃって。
ディテクのギルドは、アドベルンのギルドと違って、独立した食堂階があるわけでは無い。
武器屋や防具屋、そして飲食店などが、テナントとして何店舗も連なっている。
階段を登り二階に到達して、その最奥が飲食店の連なるエリアというわけだ。
「しっかし、どれも美味しそうだなぁ……」
ピザ、ラーメン、カレー屋に肉料理屋、トムヤムクン屋なんてのもある。
……本当にいっぱいあるよな。
ディテクに来てから何度かここで食事をしているが、いつもバリエーションの多さに圧倒される。
地球においての世界各国の料理屋さんが一挙に連なる姿は、いつ見ても慣れない。
町はヨーロッパ風なのに、お米がいつでも食べられるってのも変な感じだし。
推測だが、俺より前の転生者や転移者が、この世界に色んなものを持ち込んでくれた結果だろう。
いやぁ感謝感謝。いつでもご飯が食べられるってのは、そう簡単な事じゃ無いからね。
「わぁ、美味しそう! 私、ここが良い!」
リメアがぴょんぴょんと跳ねながら指を指すお店には、コートレットと書かれている。
「美味そうだな! ……でもなんなんだ? コートレットって」
「日本食にトンカツってあるでしょ? あれって、この料理を日本人がアレンジしたものなの。確か地球の……フランス発祥だったかなぁ」
へぇ、そうなんだ。知らなかった。
「決まったか? では、入ろうか。私もすっかり腹が減ってしまった」
言うなり、ツユが店内に入っていく。
俺達も、それに続いた。
それぞれが注文を終える。
少しの時間、皆でだべっていると。
「お待たせしました、ご注文の──」
それぞれの注文したコートレットが、テーブルに並べられる。
「美味しそう……!」
思わず垂れそうになったヨダレを、慌てて服の袖で拭う。
良い匂いが、鼻を刺激してくる。
「うっひょー! うまそー! いただきます!!」
カゲトがそう言うなり、コートレットにかぶりつく。
「うんんんっめぇぇぇぇぇ!!!」
幸せに満ち溢れた表情で頬張るカゲト。
「私も私も! はぁむっ! んん〜〜〜〜♡」
リメアも口いっぱいに詰め込んで、至福の表情を浮かべている。
ツユに視線を移すと、肉汁を顎に滴らせながら、目をキラキラさせて頬張っていた。
「じゃ、俺も……いただきます」
俺も両手を合わせると、フォークで一突きして口に運ぶ。
「──んんっ!?」
な、なんだこの美味しさは!? たっぷりの肉汁と言い、サクサクの衣と言い……!!
「はむっ……んん〜! んっふもふも」
俺は目の前のコートレットを、五分足らずで食べ尽くしてしまった。
「「「「すいませーん!!」」」」
俺達四人の、店員を呼ぶ声が重なる。
「「「「おかわりお願いしま……」」」」
そして、同じタイミングで、固まった。
「おかわりなら、聴取の後でも良いですかな?」
そこには、何か含みのある笑みを浮かべた副団長。
そして、先程俺が資料を吹き飛ばしたギルド職員と騎士団員が、立っていたのだった。
***
「困りますよ皆さん。確かに、貴方がたはこの町の救世主とも言えますが……。勝手な行動は極力控えて頂きたいものです」
ギルドの、多目的執務室と呼ばれる部屋。
その部屋のソファで、俺達は小さくなっていた。
「す、すいません……」
「ごめんなさい……」
「すまない……」
「すんません……」
俺、リメア、ツユ、カゲトが、各々謝罪する。
「おもしれーなお前ら」
「私達は、ひと足先に失礼するわね」
「みんなぁ、またね〜♡」
オネエさん一行が、わざわざ俺達の謝罪を見た後に、部屋を出て行く。
「ふむ……では早速ですが、本題に入らせてもらいます。今回の事件での出来事を、できる限り詳細に教えてください」
副団長の取り仕切りの元、聴取は行われた。
俺達は、無理のない範囲で、情報を提供した。
ゾンビ、スケルトンや、シルルとの戦闘。
転移魔法の大きさや、波動攻撃による妨害。
アドベルンで戦闘したクエスタとの関連性についての推測も、話せる範囲で話した。
だけど、シルルを尾行していた事については一切触れなかった。
後が怖いからだ。国の重鎮を尾行だなんて、どう考えても怪しいからな。
たとえその尾行していた人物が、実際に事件の犯人だったとしても。
「──情報の提供、ありがとうございました」
副団長とギルド職員、騎士団員が頭を下げる。
窓から差していた陽は、もうすっかり街灯の灯りに変わっていた。
俺達は多目的執務室を出ると、扉を閉める。
「はぁ……疲れたぜぇ……」
それとほぼ同時、カゲトが地面にへたり込んだ。
「アンタ何にもしてないじゃない」
リメアが呆れたように肩をすくめる。
確かにまぁ、基本は俺とツユが質問に答えていって、その補足で時々リメアが答えるって感じだったからね。
「ただ座ってるのだって疲れるんだぜ? 俺、今ケツの感覚がねぇぞ」
「私も無いぞ」
「私だって」
「俺もヒリヒリしてる……」
俺達は伸びをしたり、痛むお尻をさすったりと各々、体の調子を整える。
「うげっ、もう七時か」
カゲトがギルド壁面に掛かる時計を見て、声を上げた。
「俺達、四時間も話してたんだね……」
そりゃお尻の感覚が無くなるわけだ。
いくらクッション性のあるソファに座っていれども、四時間もぶっ通しはなぁ……。
「うがー疲れた。皆、メシいこうぜメシ!」
さっき食べたばっかりじゃないか。
……なんてツッコもうかと思ったが、確かにお腹空いたな。
「さんせ〜い」
リメアが、気の抜けた声で返事をする。
そんなわけで、カゲトを先頭に再び飲食店エリアに向かったのだった。




