114 探偵と助手③
リメアさんをギルドまで送り届けた私達は、そのまま、現場での調査に向かった騎士団員に同行していた。
「ゾンビ化していた遺体の扱いには気をつけろよ。……あぁ、そっちの被害状況はどうだ?」
現場を忙しなく動く副騎士団長の声が、静かな住宅街に響く。
そんな中私は、一冊の手記を手に持っていた。
騎士団長シルルが、転移魔法を使用し姿を消した地点。
そこにこの一冊は、落ちていた。
転移魔法を発動した直後、シルルの懐から何かが落ちるのを、私は目撃していた。
「ふむ……」
私はその手記を大雑把に開けた。
『不当な搾取に苦しむ民は、この手で必ず救い出す』
そう書かれたページだけが、擦り減っていたために真っ先に開く。
「これは──」
私はその薄い手記をポケットにしまい込んだ。
騎士団にこの手記の事を報告しては、遺留品として持っていかれてしまうだろう。
この手記の事は、ブロンティナ様に報告しなければならない。
これは、帝国の行く末に関わるものなのだ。
「──それは本当か? ……うむ、そうか……」
少し遠くで、部下と会話を交わす副騎士団長の姿がある。
「何かあったんですか?」
部下と副騎士団長の会話に割って入ったのは、アイラ様だった。
「いや、すみませんが、これは国の者として貴方に話す事はできません」
「監視部隊の行方に関してであれば、私達が体験した出来事である程度説明ができますが」
私が副騎士団長の元に行き、そう声を掛けると、驚いた反応を示した。
「一体、何故それを……」
私とアイラ様は、事の経緯を説明した。
怪しい者を探していた矢先、騎士団長のシルルさんと遭遇した事。
そして近くに、ツユさん一行の後をつける監視部隊の皆さんを発見した事。
事件勃発の際、監視部隊の三名に協力を持ちかけ、ツユさん一行の助太刀をした事。
シルルさんの転移に巻き込まれ、彼らの行方がわからなくなった事。
ツユさん一行がシルルさんの後をつけていた事に関しては、言及せずに誤魔化した。
大事なお客様の身を脅かすような真似は、したいとは思わない。
それに、ツユさん一行が何らかの疑いをかけられては、それに協力していた我々も危うい。
「──そうですか……。貴重な情報を、ありがとうございます」
副騎士団長と握手を交わす。
「では、私達はお先に」
「失礼致します。行くか、オーヴィム」
アイラ様を先頭に、私達は足早に事務所へと歩む。
道中、アイラ様が声を潜めて。
「ナイスだオーヴィム! どさくさに紛れて、聴取回避成功だな!」
「えぇ、そうですね」
本来ならば、ギルドに残った聴取担当の騎士団員から、しっかりと受けなければならない。
しかし、先程副騎士団長に"ある程度"情報提供は行い、副騎士団長もまた、私達を止めなかった。
副騎士団長は聴取のプロでは無い。
だから、踏み込んだ事も訊かれず、長引く心配も無い。
そして、後日聴取担当の団員に文句を言われても、『副騎士団長に話した』と言い訳する事もできる。
──完璧だ。
「それで、どう? 何か有力な情報は得られたか?」
アイラ様が私に問いかける。
「えぇ、それはもう」
「良かった! 私もだ! さぁ、早く戻って、情報を整理しようか!」
アイラ様は、意気揚々と事務所に向けて進んで行く。
「そうですね」
私も笑みを返すと、アイラ様の後を追うのだった。




