113 手、まだ握ってるの
目を見合わせたままで、しばらくの沈黙。
……先にこの沈黙を破ったのは、リメアだった。
「ええっと……おはようございます?」
俺の体も、徐々に機能を取り戻し、思考を再開する。
「リメア……リメア! 良かった! どこも痛く無い!? 大丈夫!?」
俺はリメアの両手を強く握ると、質問攻めした。
「だ、大丈夫大丈夫! どこも痛く無いし、多分大丈夫だよ!」
「良かったぁぁ……」
俺は安堵のあまり、膝から崩れ落ちた。
「凄い勢いで吹き飛ばされたから、後遺症とか残ったりしないかなってすっごく心配したんだから……」
俺はリメアの手を握ったまま、言う。
「心配かけたね、ミツル」
リメアは申し訳なさそうに答えた。
「それで、ええっと、ミツル……?」
「ん? どうした?」
「あのー、手、まだ握ってるの……?」
あっ、ヤベッ。
俺はギュッと握りっぱなしの両手に気づいて、慌てて離した。
顔が何だか熱い。
「なぁに、ミツル君。案外可愛いじゃない」
「う、うるさい! 本当に心配だったんだからな!!」
その小悪魔的微笑をやめてくれ! 不覚にもドキッとしちゃったじゃないか!!
「で、ミツル、ツユちゃんとカゲトは何処に行ったの?」
「あぁ、あの二人なら、さっきトイレに……」
俺はそう返答しながら、ドアの方に目を向け……。
「「……何やってんの?」」
ドアの隙間から俺達を覗きこむ、ツユとカゲトの姿があった。
***
「いやさあ、邪魔しちゃ悪りぃかなって」
「二人で楽しそうに話していたからな」
勘違いですよ。
「それで、どうなのだリメア、調子は」
「全然へーき! ほら!」
意気込んだリメアは肩をブンブンと振り回し。
──ゴンッッ!
「痛ぁ!?」
壁に激突して、痛みに悶えた。
「バ神様」
「違うわ! うぅイタタタ……」
うん。バ神様、降臨である。
まぁ何にせよ、いつも通りみたいで良かった。
俺が安心していると、何処からかグゥーと音がする。
「あはは、私お腹空いちゃった」
どうやらリメアのお腹の音だったらしい。
時刻は現在午後二時三十分。
確かに、かなりお腹が減った。
「よし、今から何か食べに行こう。立てるかリメア」
「もっちろん! ご飯ご飯〜♪」
俺達はツユに率られ、医務室を後にした。
***
医務室のドアの隙間から、こっそりと外の様子を確認する。
本来なら、リメアが目覚めたらすぐに聴取を受けなければならない。
だが、今はそんなことよりお昼ご飯を食べたいのだ。
「ハイド・ザ・マジック」
俺は全員に、気配を消去する魔法を付与する。
「……うむ、騎士団員らしき人物は居ないな」
ツユを先頭に、こっそりと部屋を出た。
そのまま通路を直進し、センターコートに出る。
「止まれ!!」
「うっ!」
「ぎゃっ!」
「うへっ!」
ツユが突然立ち止まるので、カゲト、リメア、俺の順番で玉突き事故を起こした。
「急に止まんなよな」
「お主らが前を見なさすぎなのだ」
全く持ってその通りである。
何も反論できない。
「……あそこを見ろ」
ツユが柱越しに指差す方向。
公国騎士団の鎧を身に纏った数名が、ギルド職員と何やら話し込んでいる。
そしてその横には、二階へと続く階段が。
「どうしたものか」
ツユがうーむと唸る。
「ミツルの"ハイドなんちゃら"が掛かってるから大丈夫なんじゃねぇのか?」
「そうとも限らない。騎士団には、そういった魔法を見破れる団員もいる」
まぁそりゃそうだよな。
国を守るのが役目なわけだし、そういうのもあって当然だろう。
「……どうする?」
俺は皆に尋ねる。
「うーん……しばらくあそこを動く気配はないね……」
リメアのお腹が、再び音を鳴らす。
「ううう……お腹減った……」
「ここでじっと待ってたってしょうがねぇだろ。俺が先頭行くから、着いてきな!」
カゲトはキメ顔で宣言するなり、一つ先の柱に向けて静かに、素早く駆け出した。
「あぁ、おい、カゲト!」
ツユは呼び止めるが、その後仕方ないとばかりに俺達に。
「いいか、ゆっくり行くぞ」
と言って、カゲトの後を追った。
俺とリメアもそれに続く。
そして全員、柱に到達した。
柱を挟んで反対側には、騎士団員とギルド職員。
そして階段も目と鼻の先。
「良いか? まずは俺からいくぜ?」
カゲトは柱から体を出すと、タイミングを見計らってそろりそろりと階段方向まで歩いてゆく。
「ぷっ……クックック……な……なに、あの動き……クククク……」
リメアがカゲトを見て、笑いを堪えだした。
「動き? ……プッ」
いやいや、なんであんな歩き方になるんだ。
やばい、クッソ面白い。
「お主ら、笑うな……ヒヒ……。奴はアレで本気なのだぞ!」
ツユも笑ってるやん。
口角が上がってますけれども。
そんなこんなしていると、カゲトが階段に到達した。
そのまま駆け上がると、二階から手を振ってくる。
「次は私が」
二番手を担うのは、ツユ。
ツユもまた、抜き足差し足で階段へと向かう。
「クックックックックッ……!!! 何アレ…………!!」
「わ、笑うんじゃないリメア……ヒヒヒヒヒ……!」
ふざけてるのか? 絶対ふざけてるだろ! いつもあんな動きしねぇだろうが!!
「クックッ──アッハッハッっっ!!」
堪えきれずに大口開けて笑い出すリメアの口を、咄嗟に押さえ込んだ。
「バッカ! 耐えろ! お昼ご飯!!」
リメアも気づくと、仕切りに頷いた。
「全く──。次、どうする? 俺が行く? リメアが行く?」
「お、先行っても良いの? じゃあ私先に行くー」
言うなり、リメアが柱から顔を覗かせた。
「神聖術階位四──神・速!!!」
唱えると、すごい速さで階段まで到達。
そしてそのまま駆け上がる。
こちらに向けて、大きく手を振った。
「速ぇ……」
速すぎる。
アレで足音の一つたててないのも凄い。
さて。次は俺の番か……。
俺はゆっくりと、柱から身をのりだす。
カゲトやツユのようにふざけたりは決してしない。
というか、そんな余裕無い。
ゆっくりと階段を目指しながら、横目でギルド職員と騎士団員を見る。
ギルド職員の方は、大量の資料を抱えていた。
って、まずい──!
あっちに気を取られてたせいで、段差に気付かなかった!!! コケる!!!!
俺は咄嗟に両手を伸ばし、顔面からの激突を防ごうとする。
てか騎士団の人達、こっち振り向く!!!
絶体絶命じゃないか! ヤバいじゃないか!!
──ウインド!!
俺は心の中でそう唱え、咄嗟に風魔法を発動する。
風は、大量の資料を抱えたギルド職員目掛けて吹き抜け──!!
「あぁ! 資料が!!!」
ヒラヒラと舞う資料に、ギルド職員と騎士団員が夢中になっている隙に、なんとか階段に到達。そのまま登り切った。
「危なすぎ………ゼェ……ゼェ……」
めちゃめちゃ焦った。
「ミツルお前、ドンクセェなぁ」
「うるせぇ」
くそぅ、カゲトめ。
「だが、よくあそこで風魔法を発動したな」
本当に。よくあんな機転を利かせられたもんだと、我ながら感心する。
「まぁ、結果オーライだよミツル!」
リメアが、ニカっと笑って親指を立てる。
「そうだね」
俺もそれに、親指を立て返して返答した。
「しっかしまぁ、派手にやったもんだぜ」
カゲトが、一階を指差し言った。
俺達は、その方向に目を向ける。
「あー……ちょっと申し訳ない事しちゃったな……」
そこには、何百枚もの資料を拾い集める、ギルド職員と騎士団員の姿があったのだった。
残り8話で、第二章が完結となります。是非、最後までお付き合いください。




