112 ディテク公国騎士団副団長グレイ、ここに見参!
「ディテク公国騎士団副団長グレイ、ここに見参!」
あまりに突然の登場に、皆の思考回路が停止する。
「副団長グレイ、ここに見参!」
言い直すなや。
ちゃんと聞こえとるねん。
グレイと名乗る人物の背後には、百人前後の兵士が並んでいる。
何からすれば良いのやらと、俺は考えを巡らせる。
そんな中、沈黙を破って声を上げたのは、物陰から出てきたアイラさんだった。
「遅ーーーーーーい!!!!」
アイラさんはドシドシと足踏みしながら、グレイに迫る。
「アナタ達公国の騎士団なんでしょ! 町の! しかも住宅街で! 暴動が起きたのですよ! なぜ到着にこんな時間が掛かるんですか!」
ごもっともである。
自国の内部にも関わらず、なんでこんな時間が掛かるのだ。
「も、申し訳ない……! こちらも出撃に際して少しトラブルが……!」
「トラブルをなんとかするのが騎士団ってもんでしょーが!!」
ごもっともである。
国の守護者たる騎士団が、国のトラブルにすぐ駆けつけられなくてどうするというのだ。
「それってもしかしなくても、騎士団長が行方不明だからとかですか?」
俺はグレイと名乗った副団長に問いかける。
「え、えぇ、実はまぁ。というか、何故それを知っているのでしょうか?」
「この一連の出来事の犯人がアンタらの団長だからだよ!!!」
アイラさんがズバッと答える。
どうやら相当頭にきているらしい。
「ほ、本当ですか? いやいや、まさか……」
「この状況で冗談言うバカがいるとでも思ってるのですか!?」
そろそろ暴れ出しそうなアイラさんに。
「アイラさん、ひとまず、落ち着きましょう」
オーヴィムさんはそう言うと、冷静な口調でグレイに説明した。
***
「──とまあこう言った感じで、今に至ると言うわけです」
「うーむ……」
オーヴィムさんの説明に、未だ副団長は納得のいかない様子。
「あの、そんなことよりリメアをギルドの医務室に運びたいのですが──」
俺はリメアを指差し、言う。
吹き飛ばされて気絶したんだ、回復魔法を使用したとはいえ、心配である。
ここで長々と話してるのは無駄だし。
俺の問いかけに。
「そ、そうですな。まぁ、皆さんが戦ってくれていなければ、もっと被害が大きかったと思われます。ひとまず、深謝申し上げます」
そう言って、深く頭を下げた。
それに続くように、後ろに並び立つ兵達も続々と頭を下げる。
「貴方達が来てくれなかったら、私達がやられてたかも知れないわ。来てくれた以上、こっちも感謝してるわよ」
オネエさんはそう言うと、リメアを背負う。
「さぁ行くわよ、ギルドへ!」
皆が疲弊しているのを気遣ってか、オネエさんが意気揚々と歩き出す。
そんなオネエさんに救われたような気持ちになりつつ、俺達は騎士団と共にギルドへと向かった。
***
ディテク公国冒険者ギルド 医務室
「それじゃあ、私達は一旦出るわね」
「リメアさんの目が覚めたらぁ、すぐに教えてねぇ? かけつけるからぁ♡」
「じゃ、また後でな」
オネエさん一行が、ドアに手を掛ける。
「本当にありがとうございました」
「ありがとうな」
「ありがとう」
俺とカゲト、ツユはそれぞれ感謝を告げる。
それを聞いたオネエさん、師匠にロイは、ニコッと笑うと医務室を後にした。
騎士団の調査に協力するのだ。
なんせ最も事件から近い位置にいるからな。
ただの目撃者どころか、戦ってたんだから。
ベッドに横たわっているリメアと、囲むように椅子に座る俺、ツユ、カゲト。
事件後の医務室の、この雰囲気。
……デジャヴだな。いや、デジャヴって言うか実際似たような状況経験してるな、アドベルンで。
──あれはクエスタと初めて対峙した時。
もう一ヶ月も前なんだな。
ギルマスやミルドさんパーティーは元気してるだろうか。
コンマさんやピロードさんは……まぁ、元気だろうな、どうせ。
「なぁ、これから一体どうすんだ?」
カゲトが、沈黙を破る。
……確かに、これからどうするか。
シルルには逃げられてしまったし、テレポート先も不明。
正直、お手上げ状態だ。
シルルはもうこの国に戻って来ることは無いだろう。
本当に、どうしたものか。
「今、公国騎士団が調査しているだろう? それで何かがわかれば良いのだがな……」
ツユが顎に手を当て唸る。
公国騎士団の調査。
オネエさん一行もその調査の一環として、聴取を受けている。
リメアが回復したら、俺達も受ける予定だ。
あとは街の被害状況の確認だったり、戦闘後の残存魔力から何かが特定できないか探ったり、ゾンビとして蠢いていた死体の身元確認だったりをすると聞いた。
「まぁ、あれだけ派手に戦ったんだし、何も残ってない方がおかしいよ」
そうは言ってみたものの。
本当に何一つ掴めなかったらどうしよう……なんて不安に駆られる。
ううん、考えても無駄だ。今は待つしか無い。
大丈夫だ、大丈夫。
「……そういや、探偵はどこいったんだ?」
「アイラさんとオーヴィムさんなら、さっきまで一緒に──」
あれ、どこ行ったんだろ。
ここに来る道中までは、確かに一緒にいたんだけどな。
あとカゲトの一言で思い出したけど、あの二人めっちゃ変な格好してたな。
なんだったんだろうか。
全身真っ黒でサングラス掛けてたけど、あんなんほぼマ◯ケル・ジャクソンやん。
オーヴィムさんもオーヴィムさんだ。
オレンジ色の救命胴衣みたいなダウンベスト羽織っちゃって。
"未来に帰る予定"でもあるのか? ……てか、そっか、マ◯ケル・J・フォッ◯スか。
……いやいや、なんでマ◯ケル被りなんだ。
ここ異世界だぞ。示し合わせてやってるわけじゃ無いとしたら、そんなんもう奇跡でしか無いな。
「……ぷっ」
「なんだよミツル、急に吹き出して」
カゲトに訝しがられて、ふと我に帰る。
「い、いやぁごめん、ちょっと思い出し笑いを」
「変な奴だな」
いや、アンタには言われたく無いわ。
「おそらく探偵達は、騎士団の調査について行ったのだろうな」
確かに、ツユの言う通りだろう。
それにしても、探偵って仕事は大変そうだなあ。
あんな格好しなきゃならないんだもんな。
うん、大変だ。
「私は少し席を外すぞ」
ツユはそう言うと、席を立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「トイレだ」
「お、じゃあ俺も着いて行こうかな」
「来るな、いやらしい」
「ちっげーよ! 俺もおしっこしたいんだ!」
……そんな賑やかな会話を交わしながら、二人は部屋を出て行った。
「……すぅ……すぅ」
医務室には、俺とリメアの二人だけ。
リメアは未だベッドに横たわりながら、寝息をたてている。
「…………」
おれはなんとなく、リメアの顔を覗き込んだ。
「むにゃむにゃ……すぅすぅ」
にしてもコイツ、よくみると超絶美少女だよなぁ。
これで清楚系だったら、もっと良かったのに。
顎に手を当て思考したのち、再びリメアの方を見ると。
「うおっ!」
リメアの両目が、パッチリ開いていた。




