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110 ふざけんじゃねぇ!!

「ふぅ。なんとか間に合いましたね」


 オーヴィムさん……!!!

 俺が安堵していると、さらに後ろからもう一人、こちらに駆けてくる人の影が。


「ナイスだオーヴィム!」


 その正体は、全身真っ黒な衣服に身を包んだアイラさんだった。

 アイラさんは走りながらシルルを指差し、大声で叫ぶ。


「皆さん!! 今、です!!!!」


 その合図と同時、立ち並ぶ屋敷の屋根から、三人の斥候が姿を現した。


「おらぁぁあ!!!」

「ふっ!!」

「でやぁ!!!」


 三方向から一斉に飛び掛かり、攻撃するが。


「マルチシールド」


 シルルが魔法を発動すると、周囲に三つの輝く盾が生成される。

 盾は三人の攻撃位置に合わせて、移動した。

 全ての攻撃は、ほぼ同時に受け止められる。


「監視部隊、か」


 シルルは一言、呟いた。


「貴殿らの監視対象は私では無いはずだが」

「ふざけんじゃねぇ!! まさかアンタが転移事件の犯人だとは!!」

「貴方を信じていたのに……」

「現行犯ですよ、騎士団長シルル……!」


 監視部隊と言われた三人の斥候は、各々が感情の籠った言葉をシルルに投げる。

 しかしシルルは、表情のひとつも変えずに一言、唱えた。


「神聖術、階位二──」

「まずい!!!」


 俺は咄嗟にマジックボールを生成し、シルルの妨害を試みる。

 しかし再び、剣で弾かれた。

 剣を振った反動で、シルルの懐からメモ帳の様なものが宙を舞う。


「──オールテレポート」

「待て!!!」


 魔法陣が光り輝く。

 眩い閃光に、一瞬目が眩む。

 ──次の瞬間、もうそこにはシルルと三人の斥候の姿はなかった。

 周囲の人々や、周辺の屋敷内部に隠れていた人々も一緒に転移してしまったらしい。

 辺りが一瞬、静寂に包まれる。

 ──逃げられた。


「ヴヴヴアァア゛ァ゛ァ」

「ミツル、危ねぇ!」


 立ち尽くす俺に襲いかかるゾンビの攻撃を、カゲトが盾で受け止める。


「大丈夫か!?」

「お、おう、助かった」


 俺はハッとして、周囲を見渡した。

 ツユとオネエさん、それにカゲトが、アンデッドの残党と戦っている。

 残りはスケルトン、ゾンビ、ゴースト共に一体ずつ。

 そしてその少し後方には、意識のないリメアを介抱するアイラさん、オーヴィムさん、ロイにメロエ師匠の姿があった。


「リメア!」


 俺はリメアの元へ駆け寄る。


「リメアは!?」

「焦んなって。俺が回復魔法掛けたから」


 焦んなって言われても……。

 すごい勢いで吹き飛ばされたもんだから、とても心配である。

 脳震盪とか、起こしてないよな……?


「傷はもう大丈夫だから、後は目が覚めるまで待つだけだって」


 ロイが俺の肩に手を置いて言ってくる。


「大丈夫よぉミツルくん。これでもロイくん、結構腕利きのクレリックなんだから♡」

「これでもってなんだ! 何か含みを感じるぞ!!」

「だってロイくん、まだかわいい男の子だしぃ」

「子供扱いすんな!!!」


 ……なんだか二人のやり取りを見ていたら、だんだんと落ち着いてきた。

 俺がそのやり取りにほんわかしていると。


「──!?」


 突然辺りに、異様な感覚を覚える。

 その異変の元を探して、辺りを見回す。

 カゲトとオネエさん、ツユが対峙しているアンデッド。

 数はスケルトンとゾンビが一体ずつと減っていたが、その二体の様子がおかしい。


「アイラさん。リメアさんをお願いします」

「お、おう、わかった! オーヴィム、無茶はするなよ!」


 オーヴィムさんに言われ、アイラさんがリメアをおぶる。


「皆さんもですよ!」


 アイラさんは俺と師匠、ロイに向けて言いながら、物陰へ身を潜めた。

 俺達四人は、武器を構える。

 アンデッドの前方にカゲト、ツユ、オネエさん。

 背後に俺、オーヴィムさん、師匠、ロイ。

 いつでも、挟み撃ちにできる。


「ヴヴヴ……ヴァアア゛ァア゛ァ!!!」

「ギギギ……ギシャァァァァアアア!!!」


 ゾンビとスケルトンがほぼ同時、咆哮を上げた。


「……っ!」


 直後、身体から力が抜けるような感覚を覚える。

 辺りを包む異様な感覚が、強くなる。

 魔力乱流だ。

 周囲の魔力を、吸っている。

 これは、クエスタの時と同じ──!


「先手必勝だぜぇぇぇ! おうっっりゃぁぁぁああ!!」


 カゲトがロングソードを構えると、二体のアンデッドに突撃する。


「カゲトちゃん、待っ──」


 オネエさんの忠告。

 しかしそれは、言い終わるよりも前に。


「ヴヴヴヴヴァァアァ」


 ブルブルと身を震わすゾンビが、片腕をカゲトに向けると。


「ァァァ……」


 その掌から、強力な魔力の波動が放たれた。


「なっ!?」


 カゲトは軽く吹き飛ばされるが、受け身を取って着地する。


「早とちりするなカゲト。何をしてくるか見当もつかない相手なのだぞ!」

「わ、悪ぃ」


 ブルブルと身を震わせていたゾンビは、突然ドロドロと溶け始める。

 スケルトンも同様に、融解し始めた。


「おいおい……あんなん見たことねぇよ……」


 ロイが、驚きと畏怖の混ざったような声を上げる。


「俺も、初めて見た……」


 確かに俺は、初めて見た。

 だけどこんな不可解な現象、きっとクエスタと関係がある。

 ……そんな気がしてならない。


「アアアア……」

「ググググ……」


 ゾンビとスケルトンの体は、溶けた部分が互いを欲するように、融合を始めると。


「ヴヴグヴググ……ギャラリャリ゛ャャアァ゛」


 やがて完全に融合し、一体のアンデッドと化した。


「なんなのだ……あれは……」


 ツユの、絞り出すような声。


「私も……あんな魔物、見たことありません」


 オーヴィムさんの、緊張の混じった一言。


「ギヤギャギャギャ……」


 そいつの頭上に、白と黒が流動する天使の輪が現れる。


「皆、気を抜いちゃダメよ……!」

「ミツル君、ロイ君……」


 オネエさんも師匠も、見たことの無い表情を浮かべていた。

 さながらゾンビ化した天使のような風貌。

 ──コイツは、おかしい。

 本能がそう、告げている。

 背中から一対の翼が出現する。

 小さな翼だ。でもあれはきっと、空を飛ぶためのものじゃない。

 周囲の魔力を吸いあげているから。


「ギャラリャリャァァァァリャァァ!!!」


 そいつは咆哮ののち、自身の正面で対峙する三人に飛びかかった。

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