011 私はツユ。ツユ・ロレイブだ。
ダンジョンに向け、町を出てトボトボと歩む。
この女神に勝てないと悟った俺は、されるがままに引っ張られていた。
「ねぇ、本当に行くの? 俺嫌なんだけど」
だってまともな攻撃手段が無い。
さっき教えて貰ったばっかりの魔法くらいだ。
実戦経験だってゼロなのに、いきなりダンジョンなんて潜るべきじゃない、はずなのだが……。
「いくじなしだなぁ。参加するだけだよ、参加するだけ。しかもそれだけで10000ルン! こんな簡単なクエスト見逃すなんて勿体無い!」
どうやらこの女神は脳みその考えるところが欠如しているらしい。
ちょっと考えればわかるだろ! うちらどう考えても足手纏いだって!
というかそもそも、討伐クエストに行くのに参加するだけで何もしないってさ、それこそ冒険者としてダメだろ。
自分の命が心配である。
後ろを向くと、木々の隙間から町が見える。
あぁ……あんなに遠くに町が……。
俺達の住む町は高台の上にある。
いくつかの場所に階段があり、別の場所は急勾配で、人が登るにはかなりの労力が必要だろう。
そのおかげか、防壁はかなり低く、1mほどの高さだった。
この位置からでも三階建てのギルドのてっぺんがよく見える。
あそこに戻りてぇなぁ。
そんなことを思いながら木々の間を進むと、やがて開けた場所に出た。
何人かがそこに集まっている。
その足元には、地下へと続く階段のようなものがあった。
意外にも幅は広く、五人程の人が横一列で入っても問題なさそうだ。
というか地下か……。
ということは、俺が今踏んでいるこの地面の下には魔物がうじゃうじゃと?
ひあぁ恐ろしい……。
「リメア? 今からでも引き返した方が……」
「しつこい。参加しただけでお金がもらえるのよ? ほら、この紙ちゃんと見て」
リメアがクエストの紙をひらひらと示す。
「ダンジョン内の魔力をしばらく体に浴びれば、その痕跡で参加証明できるらしいよ。それにそのダンジョンは今私達の足元。ここで引き返すの?」
「でも……」
「私が教えた魔法があるでしょ? だから大丈夫だって」
あぁもう!
「わかったよ。行く。でも俺は何があっても知らないからな!」
半ばヤケクソだった。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。危なくなったら逃げれば良いだけだし」
この女神様はやはり危機管理能力が欠如しているらしい。
俺一人だったら絶対来ないのに……。
「お主ら、今からダンジョンに入るのだろう? 私も同行させてくれないだろうか」
突然、背後から声をかけられる。
少し驚きながらも、声の主の方向へと振り返った。
俺より二歳ほど歳下だろうか。
そこには、ショートヘアにアホ毛がちょこんと立った、ジト目の少女が立っていた。
背中にはその少女が収まってしまいそうな程大きなバックパックを背負っている。
「なになに? お仲間追加イベント!?」
リメアが目を輝かせながらその少女を見る。
てかお仲間追加イベントて。
すっかりゲーム感覚じゃねぇかこの女神は。
「俺達、弱いよ。ダンジョンとか入るのこれが初めてだから。悪いけど他を当たった方が良いと思う」
そう、俺達は実践経験のないカスなのだ。
むしろこの娘の足を引っ張りかねない。
「ねぇミツル。弱いとは何よ。私は女神。そこらのザコなんか瞬殺なんだから」
「さっきカラスに襲われたばっかりじゃないか」
「うっ」
「と、いう訳だ。冒険者なりたてだから、戦闘経験的にも君の方がある。むしろ俺達が足を引っ張っちゃうと思う。それに俺はバッファー、リメアはクレリックで、どっちも戦闘職じゃない」
真実を伝える。
というか、この娘が俺達と同行したい理由が分からない。
一人でここまで来たんだったら、この娘の方が強いのは確実だ。
「私の職業は探検家だ。だからサポート職のお主らでも問題はない。職業柄共に戦闘をしてくれる味方が居た方が動きやすい」
ん? 探検家? ジョブとしての? 職としての?
「探検家はこの世界ではステータスカードにも記載される、れっきとした冒険者の職業よ」
俺の心中を察してくれたのか、リメアがそう耳打ちをしてくれる。
てか"職業"って呼び方やめて頂きたい。
魔法持久力と魔力とか、職業とか、本当にややこしい言い回しが多いなこの世界は。
「私はツユ。ツユ・ロレイブだ。お主らの名は?」
「俺はミツル。えっと……ミツル・スズキ、で、良いのかな? よろしく」
ファミリーネームがおそらく後に来るだろう。
「私はリメア。リメア……」
尻すぼみに声が小さくなるリメア。
「どーした?」
「私、苗字ってあるんだっけ?」
え!?
知らないよそんなの!
てか分からないなら苗字名乗りそうな雰囲気出すなよ。
ほら、ツユが続きを待ってるぞ!
「ええっと……リメア・オケノスです。よろしく」
お父さんの名前で乗り切ったぁ!
リメアがこちらを見てぽりぽりと頬を掻く。
俺はその仕草に苦笑いで返答した。
「あぁ、よろしく」
こうして俺達三人は、ダンジョンの入口へと向かったのだった。




