107 限界だ、オーヴィム。私もう無理
「今っ度こそ! 尻尾掴んでやるんだから!!」
早朝、リメアが鼻をフンッと鳴らして宣言する。
「ミツル、ハイド・ザ・マジックは!?」
「バッチリだよん」
リメアに向けて親指を立てる。
「よっしゃ! じゃあ皆、準備は良い!?」
「良いぜ!」
「勿論だ」
皆の返事を聞いて、リメアは力強く頷く。
「よーし、じゃあ皆、作戦行動開始ーー!!」
「「「おーー!!」」」
かくして、俺達の作戦は幕を開けた。
***
その周囲には、三人の影があった。
アサシン、ニンジャ、そして盗賊。
三つの職業で構成された、ディテク公国の客人監視部隊。
ミツル一行の行動に合わせて的確に後をつける彼らは、今日もミツル達四人の同行を追っていた──。
***
ミツル一行の背後。
周囲を囲うディテクの監視部隊三名よりも、僅かに距離を置いた位置。
「居たわよ」
ここにもまた、三つの人影があった。
「あの子達ったら、一体何する気なのかしら」
ジェーンが一行を凝視しながら、顰めっ面で独り言を呟く。
「なんか私ぃ、ミツル君達ったらぁ、何か危ない事に頭ぁ突っ込んじゃってるような気がするんだよねぇ」
メロエが答える。
「あっ……メロエちゃん、ロイちゃん、あそこ見て」
突然ジェーンが、左前方にある建物の屋根を指差した。
「何か居るわ」
「嘘ぉ」
「何も見えないが」
メロエとロイはジェーンの指差した方向を凝視するが、よく見えない。
「う〜ん……何かぁいるようなぁ……?」
メロエが手で庇を作りながら。
「魔力で認識を阻害してるのよ、きっと。やっぱりあの子達、誰かにつけられてるんだわ」
ジェーンは腰の辺りで拳を握る。
ミツル一行と共にクエストを行っていた時の違和感の原因。
それを見つけたと、そう確信していた。
「おいジェーン、メロエ。ミツルがハイド・ザ・マジックを使ったぞ!」
ロイが慌てて声を上げた。
このままでは見失ってしまう。
「メロエちゃん、こっちもやるわよ!」
「任せてぇ♡ハイド・ザ・マジックぅ」
ジャラジャラと杖を振り回し、魔法を発動する。
魔力の膜が体を覆い、やがて周りからの認識を阻害した。
***
「今度こそ、犯人の尻尾を掴んでやろうじゃないか!」
北東貴族住宅街に位置する、小さな公園。
その公園に設置されたベンチにあるは、二人の男女の姿。
「…………あの、本当にこの格好でよろしいのでしょうか……?」
オーヴィムは自身とその主人の格好を見て異議を申し立てる。
なぜなら──。
「よろしいとはどう言う意味だ? 完璧な変装だと思うぞ、オーヴィム」
真っ黒な中折れ帽に、白いシャツの上から羽織った真っ黒なジャケット。
真っ黒なレザーパンツに、レンズの真っ黒なサングラス。
「いつもの、いかにも探偵な格好だと怪しまれるだろう?」
変装のつもりか、全身真っ黒なアイラが平然と言い放った。
「ですがこれは……」
オーヴィムもまた、アイラに渡された変装をしている。
赤い無地Tシャツの上にデニムジャケット、その上からさらにレンガ色のダウンベストを羽織り、下にはジーンズ。
オーヴィムは、自身もまた目立つ格好であることに不安を覚えていた。
「なんだ、何か不満があるなら言ってみろ」
「私はこの格好、むしろいつもより目立っていると思うのですが……」
オーヴィムは自身とアイラの格好を交互に見て、続ける。
「真っ黒もどうかと思いますが、何より何故私は赤だとかオレンジだとか、そう言った色ばかりなのですか? これでは──」
オーヴィムが文句を言っていたその時。
「ちょっと待て、オーヴィム。あれを見ろ」
アイラに手で制され、口を閉じる。
アイラの凝視する方向に、オーヴィムも視線を向けた。
「あれは……騎士団長のシルルさんですね」
シルル・ハクワイト。
公国騎士団の団長。
そしてその背後には、非常に微細ではあるが、幾つかの気配があった。
「アイラさん。彼女の背後に、何か……」
「よく気づいたな、オーヴィム」
視線をシルルに向けたまま言う。
アイラは冒険者としての職業も、同じく探偵。
捜査系スキルを得意とする職業である。
アイラはその探偵スキルの一つである『魔力阻害耐性』によって、気配を消すスキルに対してめっぽう強かった。
「後ろに居るのは……依頼人一行じゃないか」
「ツユさん達ですか?」
オーヴィムは何かの気配を感じ取る事はできたものの、その数、姿を捉える事はできないでいた。
「あぁ、間違いない。その後ろは……うーん……魔力阻害の練度が高くて、上手く見えない……」
アイラは目に力を込める。
「サーチアイ」
瞳に魔力を循環させ、魔力認識の精度を上げる魔法。
「三人いる……どれも斥候職みたいだ……しかしありゃ、相当な手練れだぞ。私のスキルを持ってしても、よく見えない」
アイラは視線をさらに後ろに移す。
「あっちにも三人いるな。オーヴィム、わかるか」
「いいえ、すみません。私、捜査系のスキルは習得していないので……」
「そうだったな、すまん」
アイラは更に目を凝らして、魔力を込める。
「あれは……冒険者パーティーか? 武闘家、クレリック、それにバッファー……」
ここでアイラは目をギュッと瞑る。
「あー……限界だ、オーヴィム。私もう無理」
そして、オーヴィムの肩にもたれ掛かった。
「アイラさんは私より魔法持久力が低いのですから、あまり無理はなさらないでくださいよ」
「うるさいぞオーヴィム! アサシンにはこの芸当は不可能なんだから、黙ってて!」
「はい、分かりましたよ」
言いながらも、オーヴィムはシルルから目を離さない。
──一体彼らは何の為に、誰を対象に尾行しているんだ……?
オーヴィムは考えを巡らせる。
「アイラさん、そろそろ離れてください。騎士団長さんが死角に入ってしまいます」
オーヴィムでは、認識阻害のかかった人物を追う事は出来ない。
アイラのスキルにも限界がある今、姿を隠していないシルルを見失ってはならなかった。
「本当か」
アイラは勢いよく立ち上がり、大きく伸びをする。
「よし! 私達も尾行開始だ!」
「はい」
こうしてまた、後をつける者達が一組増えた。




