105 公王の苦悩③
少し短めです。
──コンコン。
「殿下、急ぎご報告があります」
夕刻、日もそろそろ落ちるであろう時刻。
宰相ローイルの声に、公王ライファルは答えた。
「入れ」
ローイルはひとつお辞儀をすると、入室する。
「例の"お客人"に動きがありました」
「それは本当か!?」
公王ライファルは身を乗り出す。
全く尻尾を掴む事のできない事件。
何一つ新しい情報を得る事ができていなかった公王にとって、その報告は一筋の希望だった。
「はい。監視を行っていた盗賊からの連絡です。どうやら彼らはハクワイト騎士団長を尾行しているようで……」
ハクワイトを尾行……か。
公王ライファルは思考を巡らせる。
目的はなんだ? 巡回警備に当たる騎士の監視……で、あれば、他の騎士を差し置いて団長のみを尾行する必要性は無いはずだ。
では、戦闘力の把握……? いや、町の巡回警備の任では、武力衝突などそうそう起こるとも思えない。
「ハクワイトには伝えたか?」
「いえ、彼らの監視下にある団長への接触はならないと、私の独断で判断いたしました。今は、シルル団長を尾行する客人の尾行、という形で監視を続けております」
「そうか……」
──コンコン。
再びのノック。
「殿下、ローイル様へのご報告が」
「許可する。入れ」
ローイルの部下が、一礼をして入室する。
「お客人に関する報告であれば、直接殿下に申すのだ」
「はい」
ローイルに促され、部下は説明を始める。
「監視を続けておりました客人が、ハクワイト騎士団長の尾行をやめたと報告が入りました。騎士団長には、独断で既に報告済みとの事です」
「そうか」
ライファルは、腕を組みながらローイルの部下に返事を返す。
「独断での行動への謝罪も述べておりました」
「いや、良い。正しい判断だ」
今度はローイルが返事を返す。
「はっ。引き続き、監視を続けるよう伝えて参ります」
ローイルの部下は、再び一礼すると、足早に部屋を去った。
「ふむ……」
公王ライファルは再び考える。
一体何が目的なのか。転移事件との関連性は──。
「殿下。私から意見具申があります」
「なんだ」
「監視の人員を増やしてもよろしいでしょうか。尻尾が掴めそうな今、より強固な体制が必要かと考えます」
監視人数を増やせば、その分客人に勘付かれる可能性も高まる。
しかし、多方面からの監視によるメリットも大きい。
リスクを取って成果を上げる、か──。
「そうだな。ローイル。……この件はお前に全権を委任しようと思う。ただし、私には都度、報告を怠らぬように」
公王ライファルは、宰相の手に監視を委ねた。
自身よりもローイルの方が適しているだろう、という冷静な判断の元での決定である。
「はっ。このような大役、私に託された事、幸甚に存じます」
宰相ローイルは深々と頭を下げると、部屋を後にする。
「…………」
公王ライファルは、一人立ち上がると、窓辺に佇む。
そして、公国と、その主たる帝国の行く先を案じるのだった──。




