102 お風呂
あのあとリメアは、俺達の事を三人に語った。
リメアが女神で俺が転生者、カゲトが転移者だという事。
神聖術の存在と、クエスタを追っている理由。
そして今分かっている事を。
──俺はディテク公国直営の浴場に居た。
桶にお湯を溜め、自分に掛ける。
石鹸の泡が体を伝って、流れた。
「ミツルー! 早くこっち来いよー!」
「おーう、今行くー」
カゲトに呼ばれ、俺はお湯に浸かる。
浴場は天井が無く、風呂は露天である。
タオルを畳んで頭に載せると、カゲトの横に座った。
「うへーぇ」
身体が暖かさに包まれ、今日の疲れが抜けていく。
「……なぁ、ミツル」
「…………何?」
「リメアが言ってた事……どう、思う」
「どう……か」
リメアが言っていた事。
オネエさん達に俺達の事を話した後、四人で宿に戻った。
そしてリメアは衝撃的な事をカミングアウトした。
──ミツルを殺したのは、私の母かも知れない。二つの世界の間で起こっている一連の流れは、全部お母さんのせいかも知れない。
と。
「俺は……違うと思うよ」
「何でだ? ……ミツルも、会った事無いんだろ? リメアの母さん」
「うん」
……でも。
「リメアって、何だかんだ優しいでしょ?」
「ん? おう、そうだな」
「……そのリメアのお母さんが、そんな事する人とは思えないっていうか……。お父さんも良い人だし」
「そうか、ミツルはリメアの父さん、会った事あるんだっけか」
「うん。死にたてホヤホヤの時にね」
…………少しの沈黙。
「……なぁ、ミツル。ちょっと話、変わるけどさ」
「何?」
「俺さ、思ったんだよ」
カゲトが空を仰ぎながら、続ける。
「この世界に転移してきて。リメアやツユや、お前にいっぱい助けられてきた」
それは──
「それは俺も同じだよ」
「あぁ、同じだ。ミツルはあっちで死んじまったし、リメアは母親が行方不明。ツユは長旅で暫く一人だっただろうし、俺も長野には帰れない」
カゲトの顔が、少し綻ぶ。
「でもよ、今となっては、お前らが家族みたいなもんだろ? 俺ら、自分達が思ってる以上に、仲間に助けられてるんじゃねぇかなってさ」
「なにさ、恥ずかしい事言っちゃって。俺らパーティー結成してからまだ二ヶ月だよ」
「でもだよ。俺一人じゃ、この世界でやっていけるはずがない」
それは──そうだ。
俺だって、仲間がいなきゃそこら辺の魔物に喰われて、死んでいるところだろう。
「はぁぁぁぁーー!!」
カゲトは大きく伸びをすると、立ち上がる。
「まぁ、なんだ。仲間を信じて歩めば、いずれ道はひらかれるだろう的な話だ!」
「なんだ、そりゃ」
俺とカゲトは体を洗い流すと、笑いながら脱衣所へと向かった。
***
同刻 女湯
私は桶にお湯を汲んで、体の石鹸を洗い流す。
髪を纏めてからタオルを頭に乗せ、お湯に浸かった。
「はぁぁ……」
お風呂は良い。一日の疲れを癒してくれるから。
私から少し遅れて、ツユちゃんがやってきた。
足から湯に浸かると、ゆっくりと体を下す。
「ふぅ」
短いため息から、ツユちゃんの疲れが抜けていく音がした。
…………少しの沈黙。
「なぁ、リメア」
ツユちゃんが目を閉じたまま、私に問いかけてくる。
「なあに?」
「あまり……一人で背負いすぎるでないぞ」
──バレていたか。ツユちゃんは鋭いなぁ。
「……うん」
「助けあいさ。私だけじゃなく、カゲトもミツルも助けてくれる」
ツユちゃんは目を開け空を仰ぐと、続ける。
「私はお主らとパーティーを組んで、良かったと思っている。皆には感謝しなければな……リメア、その、なんだ。いつもありがとう。私はお主に、沢山助けられているぞ」
のぼせたのか、はたまた照れているのか、顔を熱らせたツユちゃんが立ち上がる。
「私は先にあがるぞ!」
「え、ちょっと待ってよツユちゃん!」
私は足早に去るツユちゃんの背中を追うのだった。




