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きんぽうげ

作者: ながたたかし

彼女がどこか静かな場所に行きたいと言ったので、「ささやきの森」に来た。

車の中でも会話らしい言葉はなかった二人だが、車を降りて森の中央にある、ブランコとベンチだけの小さな公園にやってきてからも、しばらくは黙り込んだままの時間が過ぎた。 


「タバコ・・・さまになってきたね。」と、彼女が言った。


「そうか・・・」


「どうして、タバコなんか吸いはじめたん?」


「なんでかな・・・」


俺は言おうとしたけどやめた・・・「おまえが嫌いなタバコだから・・・。」


しばらくすると、彼女は遊歩道と書かれた小路をひとり歩き出した。

俺はついて行こうともせず、ただ彼女が森の中に消えていくのを見つめていた。


15分くらい経っただろうか。

彼女は、手に何かを持って、僕の後ろから歩いてきた。


「ぐるっと、後ろに路が続いてた・・・心配した?」


「ちょっとはな・・・。」


「ほら、これがキンポウゲ・・・毒草らしいけど、かわいい花。」


「甲斐バンドのあの、きんぽうげ か?」


「そう・・・」


「手、洗わんな、危ないんちゃうの?」


「ふふふっ、そうやね。 洗ってくる・・・」


戻ってきた彼女は、やっと俺が座るベンチに腰掛け、きんぽうげ を口ずさんだ。


俺は彼女の声が好きだった。 特に、こうして遠くを見つめながら歌を口ずさむ時の声が・・・


「わたしね・・・やっぱり無理なの・・・」


「え・・・?」


「わたしね・・・やっぱり・・・無理・・・出来ない・・・。」


「・・・・・うん、いいよ。」


「ごめん・・・ね、本当に、ごめんね・・・ごめ・・・ん、ごめんなさい!」


泣き崩れた彼女を抱きながら、俺はただ髪を撫でるだけで・・・それだけで精一杯だった。


何度もため息をこらえた。

悲しさと、悔しさと、そして、崩れ落ちる何かが頭の中で灰のようになって・・・ため息といっしょに、吐き出されるような気がした。


若い日・・・それは残酷な時の流れでもあり、自分をいちばん知っていた日々でもある。

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― 新着の感想 ―
[一言] デビューおめでとうございます! とてもせつないです 確かに歌詞にもこの雰囲気が出ていたりしますね 次作も期待しております
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