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ピンク  作者: 中川篤
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♡5(つづき)

 ハムハム君の家での過ごしかたは、そりゃあもう、大人しいものでした。これまでのあの口うるさかったハムハムが、まるで嘘のようです。ですがチコちゃんには、それがどこかもの足りません。あと三日しかないのです。その三日をどう過ごすか、これは今のハムハム君にとってとても重要なこと――何よりも重要なこと――にチコちゃんには思われるのです。そう思って、チコちゃんはハムハム君に声をかけます。「ねえ、あと三日しかないんだよ? 何もしなかったらつまらないよ」しかしハムハム君はというと、パパの部屋から持ってきた本の表紙を、じっと眺めているようです。そのシンプルなカバーを見ながら、ハムハム君は微動だにしません。「おもしろい?」チコちゃんはハムハム君にききます。

 「たいくつだよ」

 ハムハム君は本をひらくと、ものすごいスピードでページをめくっていきました。その速さがあんまり速いので、チコちゃんはてっきりハムハム君は本の内容を読まずに文字を目に入れているだけかと思いました。そこでチコちゃんは、ハムハム君を試すようにいいました。「内容おしえて」

 ハムハム君はめんどうくさそうな態度をくずしませんでしたが、本を置くと、チコちゃんに話の説明をしました。「ゴドーっていう男が出てくるんだ。でも出てくるって言っても、人の話のなかにでてくるだけで登場はしない。みんなはゴドーを待ってる。でもゴドーは現れないんだ」

 「それだけ?」

 「それだけだよ」

 「変な話」

 チコちゃんはハムハム君にいいました。ハムハム君は大事な――ちょうど今、大事なものになったようですが――本をくさされて、少し傷ついているようでした。チコちゃんは悪いなあと思いながら、あとぐされのないようにいいました。「ごめんね、でもわたし、あんまりその本には興味が持てないみたい」

 「わかるよ。チコは本とか読まないもんな」ハムハムはいつもの調子に戻っていいました。しかし戻ったのは言葉の意味だけ、口調はハムハム君のままです。チコちゃんは少しなつかしさをおぼえ、嬉しく感じましたが、ふと、「ハムハムだってそうじゃん!」、ということに気づきました。慌てて反論すると――いつもなら言いかえしてくるハムハムですが――今日に限っては、

 「そうだね」というだけで、いつものはりあいがありません。きょうに限ってのことでもないのでしょう。これからはずっと――残りの三日、ハムハムが天寿を全うするまでの時間はこの調子がつづくのでしょう。チコちゃんはハムハムに元気を出させようと、

 「ファイト」

と、いいます。

 その言葉がまるで宙に浮いたように感じられて、チコちゃんはかっと赤面しました。


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