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過去を後悔し、未来を見失う

作者: 鮎魚

別れを選ぶのが苦しいのなんてわかってた。

「さようなら」

この言葉を耳にするのは何度目だろう。そして、何故この言葉が自分の口から聞こえてくるのだろう。


僕はいつも通り、母に「いってきます」と声に出し、家を出る。僕が家に出るのは他の人に比べると少し早いのだろうな。僕はそう思いながら、日常である景色を横目に集合場所へと歩みを進める。

「遅い!」

少し怒った声が上の方から聞こえてくる。「ごめん」と僕が口にすると、公園の遊具の上にいた彼女は笑いながらこう言う。

「謝ったならよし!じゃあ、行こ。」

遊具から降りてきた彼女と僕は学校へ歩みを進める。ずっと前から日常になっている他愛ない会話をしながら。学校へまもなく着く、というところで彼女は少し焦った声で言った。

「あっ!忘れ物した!…あれなかったら先生に怒られるよね。とってくる!」

僕の前から走り去ろうとする彼女に僕は「ついていくよ?」と声をかける。すると、彼女は言った。

「いいよ。君も遅刻したら駄目でしょ。だから先に行っておいて!」

そういって、僕の次の言葉を聞こうともせず、彼女は走り去っていった。


僕は一人で学校へと歩みを進める。そうするとすぐに教室の自分の机についた。そして、ため息をはく。自分のものであるはずの机には落書きがされ、ご丁寧にも花が置かれていた。それは……親友である彼女の机にもあった。僕は彼女の机の方へ行き、花をどけ、落書きを消していく。そうしていると、どこからか「そおれっ!」という声が聞こえ、僕の頭から水が滴る。またか、と思っていたら、外から大声が聞こえてくる。

「私の創真になにするんだ!」

彼女の声だ。外からはバタバタという暴れる音がしばらく聞こえ、急に静かになったと思うと、彼女が入ってくる。

「大丈夫?」

そうまだ消えきっていない自分の机の落書きを気にもしないように彼女は僕に声をかける。

〜〜〜


「……ぇ!…………ねえ!てばっ!」

僕は耳元に響く大きい声に目を覚ます。

「なんで寝てるのよ…」

夏菜の言葉に僕は「ごめんね。疲れてて。」と反射的に返す。夏菜は僕のその言葉に呆れたような顔でこう返す。

「疲れてるのはわかってるわよ。いつも聞かされてるんだから。でも、私と喋ってたのに…」

僕は「そっか。ごめんね。」と夏菜に返しながら、さっき見ていた夢のようなものがなんだったのか考える。そうすると、夏菜は勢いよく僕に抱きついてくる。「どうしたの?」と僕は言う。

「……また、考えてたでしょ?」

僕は少し、ドキッとする。そして、「何のこと?」と口にする。夏菜は訝しむような目をするが、しばらくするとため息を吐いて言う。

「ううん。やっぱ何もない。」

夏菜は絶対離さないとでもいうように僕を強く抱きしめる。「痛いよ」と僕が口にすると、夏菜はふくれっ面で

「知らない!」

と言う。僕はごめんね、と心のなかで思いながら、再び思考の波に飲まれていく。

〜〜〜


彼女と出会ったのはいつだっただろうか。……僕は昔からいじめられっ子だった。彼女はそんな僕を助けてくれたヒーローだった。孤独に怯える日々に一見すれば土足で踏み込んでくるように彼女は入ってきた。でも、それは僕にとって唯一で、最高の救いだった。そんな出会いをしたのは幼稚園のころだ。


僕は一人、壁を見つめながら立ちすくんでいた。

「ねえ、そんなところで何してるの?」

彼女は急に近づいてきて、そう言う。興味深そうな目をして、僕の沈黙をぶち破るかのように彼女は僕の顔を覗き込んで再び言う。

「何してるの?」

僕は強気でマイペースにも見える彼女の行動に少し気圧されながら、「ボール、取られちゃって」と答える。そうすると、彼女は急に僕の手をとって、引いていく。そして、言うのだ。

「じゃあ、私と一緒に遊ぼう!」

自分なんかと遊んではいけないと思った僕は「駄目…です。僕はいじめられていて…」と言うが、それを遮るように彼女は言う。

「知ってる。さっきまで近くで見てたもん。」

僕は少し前のめりになり、「なら!」と反論しようとすると、彼女は

「助けられなくてごめんね。次は絶対助けるから。だから、友達になって?」

僕は彼女が何を言っているのかわからなかった。そもそも彼女が僕に謝る必要はない。普通、何も知らない他人を助けようとなんてしないだろう。友達になろうという言葉もよくわからない。なんで、僕みたいな無価値な人間と友達になりたいと思ったのだろうか。わからないことばかりで困惑する僕を気にもしないように彼女は僕の手を引いて進んでいく。そして、彼女は僕に言うのだ。

「あっ、そういえば名前聞いてなかった!君の名前は?」

〜〜〜


僕は自分のベットから飛び起きる。被っていたベッドのシーツは汗だらけで重くなっていた。僕はフラつきながら洗面所へと歩いていく。軽い目眩と、頭痛がする。洗面所につくと、鏡に映る自分の顔が目につく。少し青ざめている。顔を洗ってリビングに行く。テレビのリモコンを片手に、スマホを覗き込む。スマホには夏菜からの連絡があった。

『どう?体調。』

僕は返事を打ち込む。

「別に」

送ってすぐに返事が返ってくる。

『嘘。絶対よくないでしょ。看病したいから今から家行っていい?』

夏菜はいつも僕の異常に一番に気づいてくれる。そんな夏菜に僕は惹かれたのだ。だか、理由はそれだけではない。けど…もう一つの理由は言えないことだ。夏菜の優しさに少し嬉しくなり、申し訳なくなりながら僕は返事を打つ。

「大丈夫。心配してくれてありがと」

またすぐに返事が返ってくる。

『当たり前でしょ。心配するに決まってる。……まあそこまで言うなら行かないではおく。』

普通ならいつ見限られてもおかしくない。そんな僕の態度をこうやって返してくれる。やっぱり夏菜はいい子だ。そんな夏菜に隠し事をしてることが本当に心苦しい。実は、体調はあまり良くない。特に精神面が良くないのだ。最近、意識が薄れてきたと思うと彼女のことを思い出す。これは…本来消えたはずの記憶なのに。それに惑わされ、辛くなる。何故、今この記憶を思い出したのか。理由はわかっている。きっと、あのことなのだ。

〜〜〜


「さようなら」

そう僕の口から言葉が出ると、周りの空気が重くなる。自分の心臓が動く音が周りに聞こえるのではないかというぐらい音を鳴らしている。誰も言葉を発そうとしないのを見かねて、再び僕は喋り始める。

「さようなら…この言葉をもう変えることはありません。僕はもう限界なんです。これ以上、限界以上の仕事をし続けていたなら倒れてしまうでしょうし、他の人に比べて仕事量が多い現状も不満なんです。だから、辞めます」

僕は自分の口が冷徹に、時には悲しげに言葉を紡いでいくのをどこか客観的に感じていた。そして、言葉をそれ以上紡ぐことを辞めてほしいと思っても止まらない。まるで……他の誰かが自分の体を動かしているようだ。僕がそう考えている間にも話は進んでいく。僕は2年近く積み上げてきた友人たちとのグループとしての活動を辞めようとしていた。

どこに不満を感じていたかと聞かれるなら、すべてと答えるだろう。その場所に自分の居場所を見つけれなくなったのだ。そして……このとき既に自分を見失っていた。僕が何人かいるかのような気がしていた。この選択を選んだときも僕ではない誰かが決断をしていたかのように思える。止められなかったのかと聞かれるだろうが、はっきり言おう。僕を止めれる人間はいなかったのだ。誰もが僕を止めれるだけの権利を持ってない、と放棄した。これでよかったのかと聞かれると正直よくない。でも、正解ではあったのだ。僕の立ち位置、グループのこれから、どれを考えたって。

〜〜〜


……最近のことだ。今思い出してもやはり曖昧にしか思い出せない。はっきりあのときの景色を思い出すことはできない。俺は…いや、僕はいったいどうしたかったんだろう。

部屋にテレビの音だけが響き続ける。手に持っているスマホからは通知が来ているということを示す明かりが点滅している。僕はそれを見ないようにしながら再び眠りにつこうとする。



ーーー

彼は僕に喋りかけるんだ。

「君に俺を頼ってほしくなかった」

僕はその声にどこか懐かしさを感じ、胸が苦しくなった。

「君が俺に頼るということは……………迎え………崩壊……出してしまう……」

彼の声はところどころノイズ音で聞こえなかった。でも、彼の表情で何を話したいのかは少しわかったような気がする。彼の表情は悲しそうで、辛そうで、迷子の子供を探す親のようであった。

「未来が怖いのか?」

急にノイズ音が一切聞こえなくなって、その言葉が鋭利なナイフのように僕の耳を貫いた。僕は未来が怖い…のか。そういえばずっと考えてた。これからのことを。今の僕の選択が未来を良くないものに変えていってしまうのではないかって。

「怖いん…だな。そうか。頼った理由はそれか。」

彼はすごく悲しそうに続きの言葉を紡ぐ。

「俺のときと…同じ、か。」

僕がその彼の言葉を聞くと同時に心臓がありえない鼓動を刻み始め、頭の奥底に鋭い痛みが走った。彼と…同じ、ああ…やっぱり彼は…

〜〜〜



俺は目を覚ます。俺は少しまだ見慣れていない自分の家を歩く。しばらく歩くと洗面所につく。鏡を見てつい、一言言ってしまった。

「俺に任せろ。……だから僕は休んでろ。」

俺は鏡に映る自分を励ますように、そして、もう一人の自分を励ますように。

俺は再び歩き始め、リビングへとたどり着く。リビングに置いてある自分の携帯である薄い板は音を鳴らしている。俺は手にとり、思い出しながら携帯を触る。通知は夏菜からであった。

『ね!明日、一緒に遊びに行こうよ。う〜ん、あっ。最近、駅前にできたカフェなんてどう?』

そう送られてきている夏菜からのメッセージに、俺は少し"彼女"のことを思い出した。そうするとどこかから声が聞こえてくる。

「夏菜のこと、頼んだよ。」

その声にハッとした。そうだ。俺はもう俺なのだ。過去のことを見続けることはできない。…進もう。俺は携帯に「いいよ。行こうか。」と返事を打ち込む。"彼女"との別れを思い続けることはもう辞めた。俺は"彼女"の面影を持つ夏菜を好きなんじゃなくて、…俺にいつも笑いかけてくれる気が利く優しい夏菜が好きなんだ。

〜〜〜



"彼女"は俺のせいでいなくなった。俺の目の前からだけからじゃなく、誰からの前からも…永遠に。俺が"彼女"ともっと近くなっていれば、側にいれたのなら、過去は変わったかもしれない。でも、それは過去の話。俺も、僕も、前に進まないといけない。

未来を作っていかないといけないんだ。


こんどこそ





楽しんでいただけたでしょうか。これはあらすじにも書いてあるとは思うのですが、ノンフィクションでもあり、フィクションでもある作品です。詳しく言うと、ノンフィクションにフィクションを少し混ぜたものです。たくさん想像していただいて、それぞれの解釈をしていただければ私も嬉しいです。


少しでもいいと思った方がいたらブックマーク、ポイント、感想をお願いいたします。くださると作者の気力回復にも繋がりますw

長編に化ける可能性がある作品ではあります。まだまだ書き足りないと私自身は思っております。正直、読者の皆様に想像を任せすぎている気がしているのです。ただ、時間がないというのもありますが、これ以上の内容を書くことにまだ少し抵抗があるのです。前述した通り、この作品は作者のノンフィクションがかなりの割合で折り込まれております。その未練を切り捨てるため、そして私自身が忘れないため書いた作品です。まだ、作品としては未完成だからこそ、未完成のままで置いておきたいという気持ちと、完成させたいという気持ちが争うのです。作者自身は未完成であると考えているというのを理解していただけれぱ嬉しいです。

まあ、結局のところ読んでくださった皆様が楽しんでくださることが一番でございますので、ポイント、感想などはよければということで。

ここまで、長々とお付き合いいただき誠にありがとうございました。

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