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異能科講師の指導要領  作者: 餅月
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新任教師の能力とは?

初投稿ですので、出来が悪いのはあらかじめご了承ください。

暇つぶしになれば幸いです。

春はあまり好きではない。始まりの季節だからだ。

始まりは新しい何かをもたらす。新しい環境、新しい人間関係、新しい日常。それらを消化するには、時間も体力も必要だ。あまりに多いと心がもたれる。だから春は好きではない。花粉も辛いし。

ひたすらに憂鬱。おかげで体も瞼も重い。

そのせいで周りを歩く学生達に次々と追い越されていく。桜吹雪の中を大勢の同じ服が歩いている。

生徒達の顔はとても楽しそうだ。まるで、夢の国に遊びに行く子どものように目をキラキラとさせている。俺の濁った目には眩し過ぎる。ついつい目が細くなる。

校舎に近づくにつれ、話し声の数も増え、賑やかになっていく。

写真を撮ったり、友達と輪を作ったり、何だったりと、人でごった返していた校門を抜け、職員室前まで体を引きずる。

既に気力の大部分を持っていかれた気がした。

はぁ、と諦めの混じった吐息をもらし、扉を開ける。



職員室での挨拶を済まし体育館に移動する。

これから始業式が始まる。

体育館には既に生徒達が整列して座っており、ざわざわと話している。

時間になり、司会を務める先生が進行する。

流れはよくあるそれとほとんど変わらない。新学期の挨拶、連絡事項、校長先生のなが・・・ありがたいお話を聞く。

そしてその後に俺の挨拶が入るそうだ。

「それではここで、今年度から赴任される先生のご挨拶です。それでは司佐(つかさ)先生、お願いします」

指名を受け、壇上に歩いていく。生徒の視線がささる。息が詰まりそうだ。さっさと済まそう。

「えー、皆さん初めまして。司佐(つかさ)衛士郎(えいしろう)です。担当科目は『異能科目』です。あ、あと生徒指導も担当することになりました。よろしくお願いします」

言わんきゃならんことだけ言ってとっとと場を離れる。

ふー、緊張したー。どっと疲れた。

元の位置に戻ろうとする俺を見ながら、生徒達がやたらヒソヒソしている。

あれ、何か変なとこあったか?一応身だしなみはきっちり確認したんだけどな?

まさか、チャック開いてた?

さりげなく確認したが身だしなみに不振な部分は見当たらなかった。


その時は理由に気づいてなかったが、どうやら原因は俺の役職だったらしい。



始業式が終わり、入学式も無事執り行われ、いよいよ授業が始まる。

人生の中で、まさか自分がまた授業に出るなんて思ってもみなかった。しかも今度は教える側で。

『2-4』と書かれた教室の扉の前に立つ。

はぁ。何度目か分からないため息をこぼし、扉を開ける。

その瞬間、生徒達の視線が一気に集中する。距離が近い分、挨拶の時以上に視線が刺さる。体に穴が開くとはこういう感覚か。

「はーい、授業始めまーす。静かにしてくださーい」

とにかく言葉を発し緊張を紛らわす。生徒達は真面目なようで素直を従ってくれた。

「はい、ではこれから授業を始めたいと思います。最初なんで軽く授業の説明をします。」

「えー、僕の授業は挨拶の時言ったように『異能科目』です。皆さんは講義を1年生の時にやってきたということなので、僕の授業では、実技授業をメインにやることになりました。ひとつ間違えると、怪我をしてしまうかもしれない危険な授業です。皆さんどうか、集中して授業に臨んでください。」

ここで生徒達から露骨にテンションが上がったのが感じられた。

それもそのはずだ。

ここ霞山(かすみやま)高校は、異能力者を育成するカリキュラムのある学校であり、しかも日本でもトップ1にランクインするほど異能力を持つ生徒が多い学校である。

その割合は実に9割以上。この学校では無能力者の方が珍しい程である。

そんな学校に通うのだ、そこの生徒達は皆自分の才能を開花させようという意識が高い。

異能力科目は主に講義と実技の2つに分けられる。

講義に関しては教えられる者がいたが、実技を教えられる者は限られている為、この学校では不在の状態だった。故にこのクラスでは講義だけを行っていたらしい。

その中で、異能力科目全般と生徒指導を担当できる教員はとても貴重な存在である。

「さて、ここからは主な授業内容と評価の仕方について説明していきます。まず─────」


『異能力』とは、20年前に突発的に起こった大規模火災事件によりもたらされた、人間が後天的に得た力である。

その性質は、ほとんどが解明されておらず謎が多い。どのようにして発現するのか、そもそも、何故こんなものが急に発言したのか、そのほとんどが分からない状態である。

唯一分かることは、まだまだ謎が多く、様々な可能性を秘めている、ということであった。



チャイムが鳴り、初めての授業が終わった。

授業と言っても、これからの授業の流れを説明しただけであった。本格的に始まるのはこれからだ。

人間新しいことを始めるとやたらと体力気力を消耗する。この時の緊張はホントに苦手である。常に気を張ってないといけない。

甘ったれた事に言うな、と言われればその通りなんだが、どうしても慣れないものなんだから堪忍してくれ。やることはしっかりやってるんだし。


誰にも聞こえないように言い訳をしながら廊下を歩いていると、目の前がやや騒がしくなっていることに気づいた。

「おい、『能無し』がランクBの俺に指図してんじゃねーよ」

そこでは、1人の男子生徒が手のひらから炎を放ち、目の前のもう1人の男子生徒に迫っていた。

問題発生。どうやら俺の仕事を増やしてくれたらしい。

「ったく、学級委員だからって偉そうにしやがって。学年が同じでも能力のランクっつー明確な差がある時点で、てめぇら『能無し』とは立場が違ぇんだよ」

どうやら問題児は能力者で、対峙している生徒は無能力者のようだ。

『能無し』とは、おそらく無能力者の蔑称のようなものだろう。

学校という場においては、能力の違いが差別を生む原因になると聞いた。

しかも、長い人生から見たらどうでもいいような価値基準によって。

普通の人同士でも起こるのだから、異能力者と無能力者であればそりゃあこういった問題も起こる。

「たしかに、今の俺は無能力者だよ!でもだからこそ、能力者になるためにこの学校に入学して人一倍努力しようって決めたんだ!」

いい子じゃないか。応援したくなる。

「ハッ、馬鹿かお前。この年齢で能力者じゃない時点で、能力者になれる可能性が絶望的ってこと知らねぇのか、なぁおい?」

無能力者の主張を、嘲笑い返す能力者。嫌な図だ。

しかもどうやらその発言は彼の地雷だったらしい。

屈辱に拳を震わせ叫ぶ。

「うるせぇ!!それでもやってみなきゃ分かんねぇだろうが!!」

震えた拳を振り上げ、飛び出す。

「そうかよ!なら、時間の無駄だから俺が今ここで諦めさせて──」

待ってましたと言わんばかりに、迎え撃つようにこちらも飛び出す。


「悪いが、そこまでにしときなね」

「「っ!?」」


今まさに火蓋が落とされようとしたその時に、襲いかかろうとする生徒の腕を掴み間に割って入る。

「はいはい、大人しくしなさいよ。こんなとこで喧嘩しちゃダメでしょーが。そんで能力者の君、校内で無断で能力を使用するのは校則違反だって知ってるよな?」

掴んだ腕の主を冷ややかに睨みつける。

視線の先には、掴んだ腕を解こうと抵抗している姿があった。そちらに集中していて俺の話を聞いていない様子だ。

仕方がないから離してやると、その生徒の矛先は俺に向いた。

「誰かと思ったら、新任の先生じゃないすか。邪魔しないでくださいよ。まぁいいや。・・・そういや先生は生徒指導担当だったっすよね」

ニヤリと笑い、改めて俺を標的に定めたようだ。

「いや、人の話聞けよ。校則違反だっつーの。」

「じゃあ、自力で止めたらどうっすかね?」

体制を低くし構え始める。

「いやまぁ、もう止めてあるんだけどね?」

「・・・はぁ?何言ってんだ?」

「まぁ、今に分かるよ。とりあえず生徒指導室に来てもらうぞ」

「黙って言うこと聞くとでも思って・・・っ!?」

ここでどうやら異変に気づいたようだ。

「っ!?!?はぁ!?何だよ、これ!?」

震える手のひら見つめ、額に汗を浮かべている。先程までとは別人のようだ。

「どうなってんだ!何で使えなくなってんだ!?」

その慌てふためき様は、大金の入った財布を落とした人間と似ている気がした。

しかしそんな状態でも、自身に起こった異変の原因を探ろうと混乱した頭を必死に動かしていた。中々冷静な子のようだ。

そしてその思考が、ひとつの答えに行き着いたようだ。

「おい!てめぇがやったのか!?俺に何しやがった!?」

化け物を見るような目でこちらを睨みつける。しかし、そこに先程のような余裕は伺えず、まるで怯えた小動物が威嚇する様な姿であった。

言葉で説明するより見せた方が納得するだろう。周りにも何人かの生徒が野次馬としているし、ちょうどいい。

「まぁこういう事だ」

手を胸の前に構える。すると、俺の手のひらから炎が上がる。目の前の問題児が先程までやっていたように。

それを見た俺以外の全員が息を飲む。その様相があからさまに伝わる。そりゃ驚くだろう。

なんせ、目の前で『異能力が他者に奪われた』のだから。

「悪いが、これは一時的に没収させてもらう。」

「返して欲しけりゃ、今日1日しっかり反省しろ。あ、あと反省文書かなきゃいけないらしいからそれも提出するように。分かったか」

と言ったものの、問題を起こした生徒含めその場の全員が固まったまま、今も燃え続ける俺の手のひらを凝視していた。


司佐の言葉は届いていないが、生徒達は理解した。

なぜこの男がこの学校に来たのか。そして、異能力を持った生徒たちがわんさかいるこの学校で『生徒指導』なんて役職を任されているのかを。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回はあくまでも序章のようなものですので、これから色々話を広げていきたいな、と思っています。(できるかどうかは別の問題ですが・・・)

次の話も読んでいただけるよう精進していきます。

良かったらまた覗くだけでもいいのでお願いします。

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