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どんな変態ですか

「何よそれ、面白いわ。一昔前のアラン様なら、絶対に言わないでしょうね」

「……それって、私の気持ちはエリアス様に全然伝わっていない、ということですよね」


 本人はどう思っているのか知らないが、アランはエリアスのことが結構好きなのだと思う。

 そのアランから見ても、ノーラの接し方では不足だということなのだろう。

 となると、エリアスにも十分に気持ちが伝わっていない可能性が高い。


「一応、頑張ろうとはしたのですが、顔の良さに阻まれまして。それに、気持ちって……難しいです」

「難しいって? エリアス様のことは好きなんでしょう?」

 今日の楽譜を手に取りながら、ノーラは小さく息をついた。


「以前にアラン様が、お試しで『好きだ』って私に言ったんです。あとは、エリアス様がアンドレア様と陛下公認のいかがわしい関係なのかと疑ったこと。この二つが気持ちを自覚する後押しになりましたね」

 ノーラの言葉でフローラが手元の楽譜を取り落とし、床に散らばった。



「……何、それ。どういうこと?」

「どちらの話ですか?」

「り、両方よ」

 動揺した様子のフローラはそう言うと床に落ちた楽譜を拾い始めたので、ノーラも手伝う。


「王妃候補で陛下の幼馴染のアンドレア様と、陛下公認のいかがわしい関係かもしれないと思った時……衝撃だったんですよね」

「……それは、衝撃ね。色んな意味で衝撃だわ。誤解でしょうけれど」

 確かに、倫理観が悲鳴を上げる事態である。

 もちろん、誤解だったが。


「アラン様は……私がよくわからないと言ったら、試してみようかって。『好きだよ、ノーラ』って耳元で囁かれました。これをエリアス様に言われたと考えてみろ、って」

「……そっちも衝撃なんだけど」


「本当ですよね。びっくりしましたよ。でも、確かに同じ顔で同じ声なのに、違うなあと思ったんですよね」

「……ノーラの反応も衝撃だわ」

 フローラは呆れるというか若干引いているようだが、事実なのでどうしようもない。

 コップに入った水を一口飲むと、フローラは深いため息をついた。



「エリアス様の押しに比べたら目立たないのは、仕方ないとして。それでも、あれだけ断っていたものを承諾したんだから、わかっているはずよ。公衆の面前でベタベタに甘えるような性格じゃないのも、わかっているだろうし」

 公衆の面前でベタベタ……それは確かに、とても実行する気になれないし、できない。


「それは、そうですが」

「……気持ちを、伝えたいのね?」

 フローラの笑みに、ノーラは素直にうなずく。


「そうですね。いつも貰ってばかりというのは、何だか申し訳なくて」

「それを言うだけで、十日はエリアス様の機嫌がいいでしょうね」

 それはちょっと大袈裟だとは思うが、好意を伝えたら喜んでくれるのだろうというのは、何となくわかる。

 わかっていて実行しようとしたが、顔の良さに阻まれたというだけで。


「……とりあえず、王城でバイトすることになりました。アンドレア様の身の回りのお世話か、下働きなのかはまだわかりませんが。何にしても、お金を稼ぎつつ貴族の振舞いを勉強できますので、ありがたいお話です」

「ええ? 借金はもうなくなって、歌のバイト以外は辞めてなかった? わざわざ働く必要はあるの?」


「確かに借金はなくなりましたが、余分なお金はありませんから」

 普通に慎ましく生活するだけならば問題がなくなったので、家族の要請でバイトは整理した。

 だが、それでは自由に使えるお金は結局ないのだ。

 すると、フローラは何かに気付いたらしく、にやりと笑みを浮かべた。



「それで。そのバイトで稼いだお金はどうするの?」

「いつも色々貰ってばかりだから、何かお返しをしたいなと思いまして」

「プレゼント?」

「はい」

 誰にとは言わずとも察したらしいフローラは、ため息と共に肩を竦めた。


「はあ。それを言うだけで、ひと月はエリアス様の機嫌がいいでしょうね」

 さっきから大袈裟だとは思うのだが、ありえないと言い切れないのが怖いところだ。

「それで、何をあげるの?」

「そこが悩みなんです。私は元々、そういうのがよくわからないですし。エリアス様はアレですから。もう何でも持っているでしょうし」


 何せ、名門侯爵家の御令息なのだから、金銭的に不自由な思いをしたことなどないはずだ。

 その上、持っている物も恐らくは一流の物。

 ノーラが用意出来るものなんてたかが知れているので、安易にプレゼントしていいものなのか悩んでしまう。

 だが、フローラはまったく気にする様子もない。


「ノーラから貰えるのなら、ゴミでも喜びそうよ」

「……どんな変態ですか」

「ほぼ、変態よ。躾の行き届いた、美しい猛獣の変態。敵には回したくないわね」

 だいぶ酷い評価だとは思うのだが、何だか否定しづらいのが切ないところだ。


「何がいいでしょうね……」

「あら。そういう時には、ちょうどいいのがいるじゃない。しかも、今日」

 フローラは悪戯っぽく笑うと、コップの水を飲み干した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 綺麗な変態でもよさそう、ふと思ったのは内緒です。
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