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公認の恋人でした

 目を開けると、ベッドの中にいた。

 天井に描かれた草花が咲き乱れる絵に目を奪われ、周囲を見渡せば調度類が豪勢で落ち着かない。

 上半身を起こしてみると、椅子に座った美しい女性がこちらを見て微笑んでいるのに気付いた。


「目が覚めたのですね。気分はどうですか?」

「……ここ、どこですか?」

 見慣れない部屋に、見たことのない美女。

 何が何だかよくわからなくて、混乱してしまう。


「ここは王城です。舞踏会の途中でここに来たのだけれど、覚えていませんか?」

「覚えて……ます」

 会場から連れ出され、エリアスに水を飲まされて吐かされたのだ。

 でも、エリアスの姿はないし、この女性は誰なのだろう。

 橙色の髪に萌黄色の瞳の女性は品があって美しく、上位の貴族であろうことは間違いない。



「私は、アンドレア・メルネス。一応、王妃候補の一人です」

 そう言うと、ノーラの肩にそっと毛布を掛けてくれる。

 メルネスの名はノーラでも聞いたことがある。

 カルム侯爵家にも劣らぬ名門侯爵家だ。


 微笑むアンドレアのドレスは品の良い黄色で、袖のレースが美しい。

 どこかで見たことがあると思ったら、エリアスの秘密の恋人のドレスの袖と同じだ。

 そして、マルティナがエリアスと親しいと言っていた名前が、アンドレア。


 ということは、トールヴァルドの嫁候補と、アレなのか。

 トールヴァルドと親しそうだったのに、酷い話だ。

 だからノーラを隠れ蓑に使っているのだろうか。

 それとも、彼女とはどうしようもないから、いっそどうでも良い身分の低いノーラに興味を持ったのだろうか。


 というか、本命のいる部屋にノーラを入れるとは、何とデリカシーのない行動だ。

 色々複雑ではあるが、美人だし、胸が大きいし、侯爵令嬢だし、胸が大きいし、優しいし、胸が大きいし。

 正直、ノーラが男ならアンドレアを選ぶ。

 これが完敗と言うやつだろう。

 すると、じっとノーラを見ていたアンドレアが微笑んだ。



「……エリアスは、本当にあなたが大切なのね」

 何を言っているのかわからず、思わず眉間に皺が寄る。

 大切な隠れ蓑、という意味だろうか。


「あなた、薬を盛られたのですよ」

「ええ?」

「睡眠薬とワインで隠してあったけど、間違いなく毒物」

 それで、あれだけ水を飲んで吐かされたのだろうか。


「あの。それは、もう大丈夫なのでしょうか」

「陛下の舞踏会で即効性の毒を使うほど、あちらも馬鹿ではありません。遅効性の毒ですが、もう解毒剤を飲んでありますから大丈夫。ちょっと副作用で興奮状態になるかもしれないけれど。そもそも毒自体は、ほぼ体外に出してありましたからね」


「何の毒が入っていたなんて、わかるんですか?」

「エリアスの趣味は、毒見ですから」

 親し気に名前を呼び捨てにしているのも、アンドレアが秘密の恋人だからだろう。

 確かに、エリアスは残りのワインを飲んでから顔色が変わった。

 あのグラスの中に毒が入っていた、ということだろうか。

 そこまで考えて、ふと恐ろしい可能性に気付く。


「メルネス様、大変です。あのワインの中に毒が入っていたのなら、リンデル様が危険です」

 給仕がワインのボトルを開けた所をノーラは見ている。

 ワインに毒が仕込まれていたというのなら、彼女もまた毒を飲んだということだ。

 だが、アンドレアは困ったように眉を下げると、ノーラに水を差しだした。


「のどが渇いたでしょう? どうぞ。……マルティナの方は、エリアスが()()に行っていますから、大丈夫ですよ」

「でも、毒がわかっても、都合よく解毒剤なんてありませんよね?」

「ええ。でも、持ってきてありましたから」


「解毒剤って、一つあればそれでいいようなものなんですか?」

「まさか。何種類もあるし、計量も調合も必要ですよ。だから、事前にこの部屋に用意しておきました」

 アンドレアの細くて美しい指が示した先には、小瓶が沢山乗った机がある。

 明らかに、普通の光景ではない。



「ここ、何なんですか? それに、何で解毒薬を用意しているんですか?」

「この部屋は、私の支度用にと陛下が用意してくださった部屋です。エリアスは万が一に備えて解毒薬をそろえていきました。一部は私のものですけれど。エリアスに部屋を用意すると目立つし、陛下もこの方が良いだろうと仰って」


 王妃候補の部屋に解毒薬を用意するって、何だ。

 それに、アンドレアの口振りでは、エリアスとは公認の関係ということか。

 上位貴族って、わからない。

 嫁と恋人は別ということか。

 だから、いつでも気軽にポイ捨てできそうなノーラを、隠れ蓑にしたのだろうか。


 そんな扱いのノーラにさえ、好きだの何だの言ってあれだけ迫ってくるのだから、本当に上位貴族なんてわからない。

 嘘ばっかりだ。

 トールヴァルドはエリアスがノーラに心底惚れているとか言っていたが、あれも結局は嘘か。

 貴族は腹芸を覚えてなんぼと聞くが、とても理解できない。


「……お世話になりました。戻ります」

 ベッドから出るノーラに、アンドレアが少し慌てて使用人を呼ぶ。

「エリアスを待たないのですか?」

 問いかけられたが、返事はしない。

 アンドレアの口からその名前を聞くのが、何故だか無性に嫌だ。

 使用人の女性が乱れた髪とドレスを直す間も、ノーラからアンドレアに話をすることはなかった。

 


 そのまま部屋を出て廊下を歩きながら、ノーラはため息をついた。

 そもそも、何故ノーラは毒を盛られたのだろう。

 狙われたのはマルティナで、ノーラは巻き込まれたのだろうか。

 それに、何故エリアスはそれを見越して用意していたのだろう。

 毒を盛られると分かっていたのなら、言ってくれればいいのに。


 いや、何も口にするなとは言われていた。

 約束を破ったのはノーラだ。

 でも、隠れ蓑のためにわざわざ解毒薬を用意するなんて、まめと言うか暇というか。

 ……もう、よくわからない。


 アンドレアに指示されたらしい使用人が後ろをついてきているのはわかったが、話をする気にもなれない。

 結局、無言のままノーラは舞踏会の会場へと戻った。

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― 新着の感想 ―
[一言]  飲むな食べるなと言われて毒入りワインを飲んだり、話題に躍らされて仮恋人を追いかけショックを受けたり、主人公が馬鹿に見える。。。  馬鹿じゃダメだ馬鹿じゃと昔、親に言われた。  主人公が馬…
[気になる点] 辛口です。 お気に障りましたら、見なかった事にしてください。 [一言] 流石に、主人公の視野の狭さが鼻に突き始めてきました。 突発性難聴ハーレム野郎が主人公の話を読んでる時に感じる不自…
[一言] 勘違いが加速していってる! エリアスさん! 早く誤解を解きに行ってください! 一人芝居してごめんなさい 頑張ってください、応援してます!
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