表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/147

何者ですか

「雷に打たれたようとは、ああいう状態を言うんだろうな」

「トール、やめてください」

「いいじゃないか」

 珍しく焦りを見せるエリアスを片手で制すると、トールはノーラに微笑む。


「絵に描いたようなひとめぼれの瞬間だったよ。見ているこちらが面映ゆくなるくらいの、ね」

「……はあ」

 何を言っているのかよくわからず、気の抜けた声が出てしまった。


「あれ、気付いていない? ひとめぼれって、君にだよ。『紺碧の歌姫』ノーラ」

「――ええ?」

 びっくりして思わずエリアスを見ると、気のせいか少し顔が赤い。


「……前にも言っただろう?」

 確かに、そんな話を聞いた気がする。

 ということは、トールが言っているのは真実ということか。


「その時にエリアスは二度目のひとめぼれをして、ノーラを調べ、初恋のノーラと同一人物だと知った。それから父親に婚約を打診するのだが……その後のごたごたは君も知っているね。エリアスはまあ、ちょっとアレだが、君に心底惚れているのは間違いない。俺が保証するよ」

 にこりと微笑まれたが、保証よりも『ちょっとアレ』の方が気になって仕方ない。

 とはいえ、聞いて良いものなのかと思案していると、トールは美味しそうに葡萄ジュースを飲んでいる。


「いわば、俺は恋の架け橋、キューピッドだ。……ということで、俺のお願いを聞いてくれないかな。今度うちでパーティーがあるから、そこで歌って欲しい」

 キューピッド云々はともかくとして、トールは古参のファンだし、恩もある。

 何より、お店以外の人前で歌う機会などそうはないので、面白そうだ。


「私で良ければ、歌います」

「ありがとう、ノーラ」

 その時、笑顔のトールの背後から、見慣れた灰茶色の髪の青年の姿が現れた。



「遅くなったな。今日はエリアスの友人が一緒だって……」

「やあ、こんばんは。アラン・カルム」

 トールが振り返ってアランに挨拶をするのと、エリアスが立ち上がるのはほぼ同時だった。


「え? は? ――何でこんなところにへ……」

 アランの口を素早く押さえたエリアスは、そのまま空いていた椅子に押し込むように座らせる。

「大きな声は迷惑だよ、アラン」

 そう言って手を離すが、アランがその手を掴む。


「おまえが連れて来たのか? どういうつもりだ」

「エリアスは悪くないよ。俺が自分で来たんだ。というか、この店を見つけたのは俺だよ? 感謝してほしいな」

 アランの顔が目に見えて強張っているが、それを見るトールは楽しげだ。


「……護衛は、いますよね?」

「一介の歌姫ファンにそんなものいないよ?」

「ふざけないでください、へい……」

「トール、だよ。アラン」

 再びエリアスに口をふさがれたアランは、心底嫌そうにエリアスを見るとうなずいた。


「……ではトール様。一体何をしにここへ?」

「トールでいいよ。君達と一緒さ。『紺碧の歌姫』の歌を聴きにね。それから、うちのパーティーにお誘いしたところだよ」

 ノーラには話が見えないが、少し引っかかることがある。


「あの。トール様は、何者ですか」

「何って?」

 邪気のない笑顔で答えられ、ノーラの中の疑念はさらに深まった。


「装いや振舞いからして貴族階級以上なのはわかります。でも、アラン様の様子からして、下位貴族ではあり得ません」

「いい線だね。じゃあ、ヒントをあげよう。トールというのは偽名だ。本来の名前の一部を名乗っている」


 考えるノーラの横にエリアスが着席した。

 やはり顔面レベルが恐ろしいことになり、周囲の視線が痛い。

 トールを見れば、楽しそうにノーラの答えを待っている。

 これは、自分で考えてみろということらしい。



 トールが入る名前で、上位の貴族で、護衛がつくのが当然の立場の男性。

 これだけだと、漠然としている。

 大体、知っている貴族の名前など限られているのだから、どうしようもない。


 そこまで考えて、何か引っかかった。

 さっきトールは『この店を見つけたのは俺』だと言った。

『友人にも勧めた』とも言ったし、『エリアスが君の歌を初めて聞いた時の様子を、見せてあげたかった』というからには、勧めた友人というのはエリアスのことなのだろう。



『彼は『紺碧の歌姫』のファンでね。そもそも俺をあの店に連れて行ったのも、彼なんだ』



 エリアスは、ヴィオラにそう言った。

 あの時言っていた、『彼』とは、つまり――。


「トールヴァルド・ナーヴェル様。……国王陛下」

「正解」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ