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エリアス・カルムの利益

「……私がいる意味、ありましたか?」


 エンロート公爵に連れられてヴィオラが姿を消すと、ノーラが小さく息をつく。

 ずっと声を出さないようにしていたから、疲れたのだろう。


 ヴィオラが犯人であることはわかっていたし、国王と公爵に任せて処罰してもらうのも可能だった。

 それをわざわざノーラを伴ってエリアスが問いただしたのは、簡単に言えば報復だ。



「もちろん。ノーラが話せなければ、毒を飲ませたという安心感で油断するだろう。それに、ノーラと俺が親しいところを見れば動揺する」

「……だから、あんなことしたんですか」


 ノーラが言っているのは、頬から鎖骨にかけて指でなぞったことだろう。

 あれはヴィオラにも効いていたようだが、ノーラも相当驚いた顔をしていた。

 声を出せないという設定を守ろうと、必死に堪える顔が可愛かった。


「そうだね」


 あくまでも作戦だというエリアスに、ノーラは納得したようだ。

 何より着飾ったノーラと一緒にいたい、というのもあったが、それは言わないでおく。

 ノーラが話せないのをいいことに、ボディタッチが多めだったのも内緒だ。

 もちろん作戦ではあるが、私的な感情が多く含まれているのは否めない。



「ヴィオラ嬢は俺にひとめぼれしたとか言ってきたが、どうだろうね。気位が高いから、自分の思うようにならなかった俺を服従させたかったんじゃないかな。俺の想い人が男爵令嬢というのにもこだわっていたから、身分の低い者に負けるのを認めたくなかったんだろう」


「私が美人の王族だったら、違ったということですか?」

「結局、みてくれと肩書しか見ていないんだろう。自分自身がそうとしか見られていないのかもしれないな。大体、書類の名前を変えたり、ノーラに毒を飲ませたところで、俺の気持ちが変わるわけがない。まして、ヴィオラ嬢に向くはずもないのにね」


「色々もっているのに、もったいない人ですね」

「陛下に関わる犯罪にまで手を染めたのだから、公爵家もかばいきれない。王族との縁談は当然流れるだろうし、彼女の持っていたものはだいぶ失われるだろうね」



 本当は、エリアスの手で引導を渡してやりたいくらいだったが、()()に止められた。


 ヴィオラのためにエリアスが手を汚す必要はない。

 エリアスに固執しているヴィオラにとって、一番つらいのはエリアスに相手にされず、自分が見下していたノーラに敗北すること。

 だから、ヴィオラの前でいちゃついてこいという命令が下った。


 ノーラは『お友達』なので、見せつけるほどいちゃつくというのは難しい。

 なのでこんな形になったが、それでもヴィオラには効いているようだった。


 あとは、()が書類を改ざんした罪を正当に裁いてくれる。

 ノーラの件を加味すると辛口にならざるを得ないと言っていたから、相当重い罪になるのだろう。


 事が一段落したら、久しぶりに()とノーラの歌を聴きに行く約束もした。

 ノーラは大丈夫でも、アランにはさすがに変装がばれるだろう。

 素性を明かすべきか否か、今から悩むところだ。




「……あの人、本当に私に毒を飲ませるつもりだったんですね」

「ああ。止められて、良かったよ」


 エリアスの前でジュースを飲もうとしなければ、止めることはできなかった。

 これに関しては、運が良かったとしか言えない。


 もしもノーラが毒を飲んでいたら、()()やエンロート公爵が何を言っても、エリアスは相応の報復をしただろう。

 これからはもっとノーラの身の回りに気を付けなければいけないな、と肝に銘じる。


 エンロート公爵に事前に()()したおかげで、ヴィオラ個人に直接の報復はこれ以上できない。

 だが、そんなことをしてもエリアスの一時の自己満足にしかならないので、構わない。


 どうせ放っておいても国王からの断罪があれば、王族どころか縁談そのものが難しくなるし、周囲の目は冷たくなる。

 自身の身分と美貌に自信を持っていたヴィオラにとって、屈辱なのは間違いない。


 それに、国王と公爵がノーラへの謝罪として、アランとの婚約破棄での書類上の傷を消し、公式の場で名誉回復に努めると約束した。

 公爵という()()ができたのは収穫だし、ノーラが一応無事だった以上、今回のことは公爵家に貸しにしておいた方が得だろう。

 



「可愛らしい瓶だったので、見せようと思ったんですけど。……運が良かったんですね」

「見せるって」


 そう言えば、あの時ノーラはジュースの瓶が可愛いと言ってテーブルに持って来た。

 あのテーブルにいたのは、エリアスとアランだけだ。


「……俺達に?」

「え。いえ、その。前にクランツ領に投資という話をしたじゃないですか。うちは葡萄が特産なので、ジュースの瓶もこだわったら良いかな、と思って。意見を伺いたくて」


 ……なんだ。

 てっきり、自分が可愛いと思うものをエリアスにも見せようとしてくれたのかと期待したのに。


「勝手なことを言って、すみませんでした」


 落胆する気持ちは表情に現れたらしく、ノーラが慌てて謝罪している。

 どうも、だいぶエリアスの認識と差が開いているようだ。


 そもそもエリアスにとってクランツ領に投資して得られる一番のものと言えば、ノーラの笑顔だ。

 それに、特産品の売り上げ向上のためとはいえ頼りにされているのなら、それは嬉しい。


「いいよ。今度、瓶のデザインについて話そうか」



「……このドレスもそうですけど。毒のことも。エリアス様に、お礼をしないといけませんね」


 柔らかく微笑むノーラの姿に、エリアスの悪戯心が頭をもたげた。




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