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チョロい音が聞こえました

「アラン、油断は駄目だよ」

「おまえに剣を渡したからだろうが。……それよりも、ノーラは凄いな。あの(くわ)を振り回すって、結構なものだぞ」


 アランの視線の先には、床に転がった鍬がある。

 せっかくなら騎士達に鍬を持って行ってもらえばよかった。

 結局はノーラが運んで片付けるしかないだろう。


「畑で一仕事すれば、あれくらいはいけますよ。それにしても、エリアス様もアラン様も強いのですね」

「まあ、人並みにはね」

「嘘をつけ」

 アランは心底嫌そうにしているが、エリアスは気にする様子もない。


「それで、他国って何だ」

「詳しくは、陛下がポールソン伯爵令息に話を聞いてから、まとめて説明するよ。それよりも、フローラが心配していたよ」


「いや、おまえがノーラのところに行けって言ったんだろう。……まあ、俺は戻るぞ」

 文句を言いつつもいそいそと戻ろうとするあたり、フローラのことが気になるのだろう。

 何だかその様子が可愛らしくて、ノーラの口元が綻ぶ。



「ああ、それからアランをノーラの専属護衛騎士に任命したから」

「――は!?」


 立ち去ろうとしたアランの足が止まり、驚愕の表情で振り返る。

 ノーラもどういうことだかわからず、エリアスを見上げた。


「何だそれ、勝手に」

「コッコ男爵家はフローラが継ぐだろう? 伴侶として手伝うだけじゃあ暇だろうし」


「いや、だからって勝手に。大体、フローラにも聞いてみないと」

「ちゃんと了承を得ているよ。領地経営の手伝いはさせるから、両立を頑張れって」

 楽しそうに拳を掲げて見せるエリアスは意外と可愛いが、今はそれどころではない。


「待て。何故、俺以外に話が通っているんだ」

「断らないだろう?」


「説明の一つもなしに、どういうことだよ」

 アランの言うことは正論なのだが、エリアスの笑みは崩れない。


「ノーラの護衛は、相応の実力に加えてノーラに手を出さない安全性も必須だ。ぴったりだな」

「だから、俺の意見を聞こうとしろよ!」

 当然すぎる主張に、エリアスは小さく息を吐くとじっとアランを見つめた。


「手伝ってくれると助かるな。アランだから頼めるんだ。……信頼できるからね」

「し、信頼……」



 今、ノーラのところまでアランが流される音が届いた。

 チョロチョロという、チョロい音が聞こえた。


 見ているこちらが恥ずかしくなるほど嬉しそうな笑みを浮かべたアランは、エリアスとノーラの視線に気付くと、慌てて咳払いをした。


「し、仕方がないから、引き受けてやってもいいぞ!」

「いや、もう任命したから。決定だから」


「とにかく、俺は行くからな!」

 スキップでもしそうなほど嬉しそうに立ち去るアランを見ていたら、何だかノーラまで楽しくなってきた。



「アラン様って、本当にアラン様ですねえ」

「可愛いだろう? チョロいのは、アランの美徳だから」


 それは美徳と言ってもいいのだろうかと疑問ではあったが、双子が共に楽しそうなので部外者が口を挟むことではないだろう。

 すると、微笑んでいたエリアスがそっとノーラを抱き寄せる。


「ノーラ、無事で良かった」

「はい。アラン様のおかげで助かりました。エリアス様も、ありがとうございます。……でも、一体何だったのでしょうか」


 フーゴはノーラをどこかに連れて行きたかったらしいが、エリアスの話だとそれはどうやら他国らしい。

 あまりにも縁がなさ過ぎて、どういうことなのかまったくわからない。


「ノーラにちょっかいを出していたから、フーゴ・ポールソン伯爵令息のことは随分前から調べていたんだ。背後に他国が絡んでいたが……フーゴ自身は捨て駒だろう。だから繋がりを追うのは難しいかもしれないな」


「あの、他国も捨て駒も衝撃ですが、それ以上に私にちょっかいを出していたから調べるというのが、驚きなのですけれど」

「うん? 大切な婚約者だよ。当然だろう?」


 花も恥じらう笑みで言われるとうなずきそうになるが、騙されてはいけない。

 エリアスのストーカー的情報はこうして得られているのかと少し感心しつつ、だいぶ引いてしまう。


 その反応に気付いているのかいないのか、エリアスはノーラの髪を撫で、髪飾りを突いて楽しそうにしている。



「俺は宰相補佐になったせいで、常にノーラのそばにいるわけにはいかなくなった。本当は護衛も俺が務めたいけれど、アランなら大丈夫だろうから。……でも、結婚すれば同じ屋敷だから顔も見られるし、だいぶ安全になるよ」


「結婚……するのですね」

 わかってはいたことではあるが、改めてそれを突きつけられると何だか不思議な気持ちだ。


「うん。書類はもう提出してあるよ」

「え、早くありませんか⁉」


 笑顔で放たれた爆弾発言に衝撃を受けていると、エリアスはにこりと微笑んだ。




※婚約者編も、明日で完結です!

夜の活動報告で、次の連載のタイトルを公開します。



第8回ネット小説大賞を受賞作

「婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない」(略称・「そも婚」)

6/11に宝島社より紙書籍&電子書籍同時発売!

(活動報告にて各種情報、公式ページご紹介中)



次話 ついに婚約者編完結……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アランはツンデレチョロイン。 確かに人から愛される美徳です。 そりゃあ、ノーラにちょっかいかけてくる相手のことを調べるのはストーカーとして当然のたしなみですよね。 何をいまさら驚いている…
[一言] アラン…可愛すぎる(笑) ある意味ヒロインよりヒロインだな! 遂にノーラも人妻かwww
[気になる点] あー、前科があるからとにかく提出と承認はさっさと終わらせたかったのね… 一度天国から地獄に落とされた上にその後も延びに延び、その間もノーラは面倒事に巻き込まれまくったからなぁ
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