表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/147

けじめの真実

「姉さん、今日もまた可愛いドレスですね。素敵ですよ」


 フローラと共に支度を終えて部屋を出ると、ペールが笑顔で褒めてきた。

 弟でなければ照れてしまいそうな笑みだが、もしかしてペールもエリアスのように女性に攻撃しているのだろうか。


 手当たり次第に声をかけるような人間ではないとわかっているが、本人にそのつもりがなくても攻撃になっている可能性は高い。

 容姿が整っている人は、それはそれで大変そうだ。


「ピンク色よりは、落ち着きます」


 そう、今日のドレスは紫色が基調だ。

 スカート部分は淡い紫色の生地が幾重にも重ねられ、腰回りから膝近くまで赤と紫の薔薇の刺繍が大胆に配置されていて、華やかだ。


 対して胸元は濃い紫色の無地の生地でぐっと大人っぽく、その生地で作られた大きなリボンが背部に揺れる。

 ウエスト部分には赤紫色の細いリボンもまかれていて、後ろで大きなリボンとともに優美に垂れ下がって揺れていた。


 首元には大粒の真珠、手袋は淡い紫でスカート部分と同じ薔薇の刺繍が施されている。

 髪にも薔薇の刺繍のリボンを緩く編み込んで垂らしており、ところどころには真珠も散らされていた。



「可愛らしさと大人っぽさのバランスが絶妙ね。さすがはエリアス様だわ」

 そう言ってうなずいているフローラは、淡い緑のドレスだ。

 艶のある生地と繊細なレースが美しく、とても似合っていた。


「二人とも、お似合いです。今日は俺も両親も招待されていますので、歌と演奏を楽しみにしていますね」

「私は着替えるので、このドレスではありませんが」

「着替える?」


 ノーラとフローラの分の紅茶を差し出しながら、ペールが不思議そうにしている。

 普段は紅茶で『どこまでいけるか白湯チャレンジ』を開催しているクランツ家だが、客人に対してその参加を強要したりはしない。

 花の香りの紅茶を一口飲むと、ノーラは小さく息をついた。


「男装の麗人ですしね、小道具として小さな(くわ)も用意されています。見た目も大事ということで、男性の服を用意してくださっています」

「へえ、本格的ですね。でも、姉さんなら似合いそうです」


「そうですね。試着した時も、胸に布を巻きつけて潰す必要がないと褒められました」

「……そ、そうですか」


 本来、男装をそれらしく見せるためには、胸に布を巻いて少し潰すことになる。

 だがノーラは何と一切の布を巻かずに、それを着こなしてしまったのだ。

 大変に不本意かつ情けないのだが、何故か服飾係の女性達は大興奮で、意味がわからなかった。



「もう、本当にどうにかならないでしょうか。うっかりエリアス様にまで胸がないと言ってしまいましたし」

「あら、言ったのね。それで、反応は? 気にしていなかったでしょう?」


 フローラの言う通り、確かにエリアスは気にしていない様子だった。

 だが、これはエリアスではなくてノーラ自身の気持ちの問題である。


「エリアス様は胸を大きくする方法を知っているそうなので、頑張ります」

「何それ」

 ノーラの言葉にフローラばかりか、ペールまでもが紅茶を飲む手を止めた。


「何でも、必ず結果が出るわけではないそうですが。結婚したら試してみることになりました」

 フローラとペールは顔を見合わせると、同時に眉を顰めている。


「ノーラ。それ、何故結婚後なのか、聞いたの?」

「一応のけじめと言っていました」

 今度は二人同時にため息をついたが、何なのだろう。


「姉さんは、それをどういう方法だと思っています?」

「侯爵家の美味しい料理で胸か全身のどちらかが大きくなる、一か八かの作戦ですよね」


「何故ですか。それのどこにけじめが必要なんです?」

 ペールは呆れたと言わんばかりに勢いよく紅茶を飲んだが、その理由がよくわからない。


「どうにもならない程丸くなっても、結婚後なので簡単には返品できないということですよね」

「違います、全然違います。あれだけ各地でバイトをしておいて、よく今まで下世話な話の一つも聞かずにいられましたね!」



「……下世話な話、なのですか?」

 しかも、ペールは知っていて当然という口ぶりだし、様子を見る限りはフローラもわかっているようだ。

 一体どういうことなのか、ますます混乱してしまう。


「俗に、胸は揉めば大きくなるという話があるんです」

「――ええ⁉ それなら、揉みます!」


 まさか、そんなお手軽な方法があったとは。

 ペールも知っていたのなら、もっと早く教えてくれればいいものを。

 思わずドレスの胸元に移動しかけた手を、隣に座っていたフローラが慌てて押さえた。


「自分じゃなくて、恋人とか夫です」

「え?」


「つまり、『胸を揉んであげる』ということです」

 真剣な表情のペールに見つめられ、ノーラは瞬いた。



「……エリアス様が、ですか?」

「そうです」


「私の?」

「そうです」


「それで、けじめ……」

「そうです」


 やっとわかったかとため息をつくペールを見ていたノーラは、自分が犯した失態にようやく気が付いた。




※「そも婚」好評発売中!

売り切れだったメロンブックスに再入荷!

既に残りわずかです。

詳しくは活動報告をご覧ください。


※次の連載について、活動報告でご連絡しています。



第8回ネット小説大賞を受賞作

「婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない」(略称・「そも婚」)

6/11に宝島社より紙書籍&電子書籍同時発売!

(活動報告にて各種情報、公式ページご紹介中)



次話 真実を知ったノーラのもとにやってきたエリアス……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] それは失態ではなく、ご褒美をあげただけです。
[一言] そっちか()
[一言] 確かに街に出てた割には下世話な話に疎い これはむしろエアリスが遊びまくってた証拠! まあフローラはともかくペールも知ってるからやっぱりノーラが疎いだけか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ