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逆に攻撃を提案されました

「……おまえら、こんなことを普通にしているのか」


「していませんよ。されているだけです」

「同じことだろう」

 心外なのできちんと否定するが、二人は呆れたと言わんばかりの様子だ。


「ということで。アラン様はフローラに対して、水飴ですか?」

「俺はこんな恥ずかしいことを人前でしない!」


 別にエリアスだって人前ではしない……いや、先日フーゴの前で普通にキスしてきた気がする。

 これはやはり、エリアスの水飴度が高いということなのだろう。


「名門侯爵家令息から見て恥ずかしいのですから、不要な水飴ですよね。エリアス様に、もっと水飴の糖度や粘度を下げるよう要請したいと思います」


「待て。それは俺の身が危険だから駄目だ」

 エリアスの水飴が弱まると何故アランが危険なのかわからず、ノーラは首を傾げる。

 アランは口を開きかけるが、何やら嫌そうな顔をして眉を顰めるばかりだ。


「大体、あいつが今更大人しくすると思うか?」

 そう言われれば、確かにしそうにない。


 フーゴの前でキスするし、アンドレアの前でも額にキスしている。

 あれを清く正しく慎ましい対応に変えるというのは、難しそうだ。



「では、結局あの色気と攻撃力にはどう対処するのが正解なのでしょう」

「諦めて、受け入れておけよ」

 フローラの椅子を元に戻しながら、アランが身も蓋もないことを言い出した。


「それでは、水飴でベタベタではありませんか。嫌です。そんなベタついた人生」

「あいつは多少アレではあるが、一部なら理解できなくもない。言葉よりも行動が欲しい時もあるだろう」

 何だか急にアランが大人びて見えて、釈然としない。


「では、アラン様もフローラに適宜水飴希望ということですね?」

「ええ⁉ いや、俺は」


 再び顔が赤くなる二人を横目に、ノーラは葡萄ジュースを口にする。

 言葉よりも行動と言うが、エリアスは同時進行で攻めてくるのでどうしようもない。


 だが、甘んじて受け入れていてはノーラの身も心ももちそうにないのだから困る。

 一体、何が正解なのだろう。


 葡萄ジュースを飲み干すと、グラスを置く音に紛れてため息がこぼれた。




「ペール。人はどうしたら水飴から水になると思いますか」

 クランツ邸で紅茶を飲みながら懸案事項を切り出すと、ペールはきょとんと目を丸くした。


「何ですか、それ。まず人は水飴じゃありません、人です。……そもそも水飴って何のことですか」

「色気の性質の話です」

 ノーラがアランとフローラとのやり取りを説明すると、次第にペールの眉間に皺が寄っていく。


「うわあ。アラン様にそんなことをしたんですか? 姉さんは本当にアレですね、かわいそうです」

「何ですか?」

 よくわからないので聞いてみるが、ペールは口元に手を当てて何やら考え込んでいる。


「……まあ、フローラさん公認だからいいのでしょうか。どうせ何も起きませんしね。あの二人にはかえっていい刺激かもしれません」

 今度はしきりにうなずいて何かに納得した様子だが、やはりよくわからない。


「とりあえず、姉さんは諦めて糖度高めの水飴に慣れてください」

「どうにかできませんか。……エリアス様が変わらないのなら、少し逃げるなり避けるなりして調整すべきでしょうか」


 物理的に距離を取れば、色気の威力も少しは軽減されるだろうと思って提案したのだが、ペールの表情は冴えない。


「それは、お勧めしません。たぶん、粘度云々じゃなくて、硬度が増しますよ」

「液状から固形に⁉」

 まさかの指摘に思わず声を上げると、ペールが苦笑している。



「姉さん、エリアス様のことが好きでしょう?」

「それは、まあ」

 好意があるから婚約しているわけで、当然好きではある。


「それなら、ある程度受け入れておいた方がいいですよ。円満な結婚生活のためにも。あとは周囲の平穏のためにも、ですね」

「別に拒絶したいというわけではありません。ただ、全部受け入れたら、何だか凄そうで怖いのですが」


 既に溢れる色気に甘い言葉に積極的なスキンシップを取られているとは思うが、何というか、まだ底が知れないのだ。

 受け入れますと宣言でもしようものなら、とんでもないことになりそうで恐ろしい。


「とりあえず、姉さんが逃げたら追われますよ。あの人の追い方は半端じゃないと思います」

「だから、恐ろしいことをさらりと言わないでください」

 現時点で若干ストーカー的なのに、この上本気で追われたら、ちょっとした恐怖だ。



「こうなったら、逆に攻撃したらどうですか?」

「逆に、攻撃……」

 その言葉に、今までエリアスにされてきたあれこれが脳裏に浮かぶ。


「私は、あんな初対面の人を鼻血まみれにしそうな色気は放てません! 顔が違い過ぎます!」

「顔だけの問題ではないでしょう?」


「胸もありません!」

「……いや。別に色気は顔と胸だけじゃないでしょう」


 呆れた様子でそう言うと、ペールはクッキーをつまんでいる。

 徹夜の大量生産で作った苺のジャムを乗せたクッキーだが、これが結構好評だ。

 べたつくので包装方法に工夫が必要だが、販路の拡大も検討したい。


「アラン様とフローラさんにした水飴の説明。あれを姉さんからやってみるというのはどうです?」

「それで、色気と攻撃は落ち着きますか?」

「……一瞬なら、効くと思います」


 本当だろうか。

 だが、一瞬でも攻撃を止められるのならば、やってみる価値はあるかもしれない。

 このままではベタベタ水飴生活なのだから、打てる手は打っておいて損はないだろう。


「……わかりました。頑張ってみます」

 拳を握って決意を新たにするノーラを見て、ペールは困ったように笑った。




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次話 特売に心躍るノーラの前に現れたのは……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 間違いなく返り討ちですねぇ…(笑) そして硬度と言うか…粘度が増すwww
[一言] 灯籠が斧などという言葉がありまして 返り討ちにあう未来しか見えない件 いや、万が一クリティカルヒットすれば倒せるか? 自爆ダメージでどうやっても相討ちまでかな
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