双子が思いの外優秀でした
ノーラはすぐに立ち上がって礼をするが、トールヴァルドはそれを手で制し、指を動かして座るよう指示した。
「建国祭という国でも重要な催しで、歌を捧げたんだ。もう、ただの歌い手ではない。詳しくは言えないが、建国祭の歌い手にはそういう意味がある」
「では、レベッカさんにも護衛が?」
昨年までの建国祭ではレベッカが歌っていたし、数年同じ歌い手だったとも聞いた。
ということは、レベッカにも同様に国からの護衛がつけられていたのだろうか。
いつの間にかメイド長が用意した紅茶がテーブルに置かれ、トールヴァルドはそれに口をつける。
「後援のリンデル公爵がつけていたな。ただ俺の知る限り、他国から引き抜きの声がかかった歌い手はいない。だから公認歌姫に任じた。護衛をつけるのは俺の命令でもある」
鋭い視線に、ノーラの脳裏にアランの『偉い人からの命ならば、受けるしかない』という言葉が浮かぶ。
ノーラが必要性を理解しようがしまいが、これは決定事項なのだ。
「はい。わかっています」
頭を下げるノーラを見たトールヴァルドは、表情を緩めるとティーカップを置き、クッキーを口に放り込んだ。
「とはいえ、まだ決定していないんだよ。エリアスのこだわりが酷くてね。大体、自分と同等かそれ以上の剣の腕で、ノーラに邪な気持ちを抱かず、信頼できる男なんて、そうそういるものではない。自分が護衛になりたいとか言っていたが、さすがにそれは無理だしな」
困ったものだと軽く流されたが、何だか妙な言葉が混じっていた気がする。
「あの。自分と同等かそれ以上というのは、一体?」
護衛をつけるというのだから、当然剣の腕なり体術なりが優れた人物なのだろう。
だが、それとエリアスの腕を比較する意味がわからない。
最低限の強さとして貴族令息よりは上という意味に聞こえるが、それだと護衛の人間を厳選するまでもない気がするのだが。
「うん? ああ、ノーラは知らないのか。エリアスは、色々と優秀なんだよ」
「では、エリアス様は剣を使えたのですね」
以前にノーラに迫ってきたファンの男性を殴り飛ばしたので、それなりに体術は身に着けているのだろうが、剣も扱えたのか。
感心するノーラに、トールヴァルドはアンドレアと顔を見合わせて苦笑している。
「使えるも使える。あいつがその気になれば、騎士に混じっても何ら遜色ないはずだよ」
「え⁉」
「本気で手合わせしたことはないだろうが、恐らくかなり上位に食い込む。アランも同様だ」
「ええ⁉」
騎士というのは要するに、剣を使う本職の人間だ。
その中に混じって上位に食い込むなんて、おかしすぎる。
しかもエリアス一人でも十分にわけがわからないのに、アランまでとはどういうことだ。
「だから、エリアスの条件を満たして、かつ通常業務から離れてノーラ専属になれる者というのは、かなり限られていてね。更にエリアスが色々うるさいものだから。……まあ、それでもさすがにもうじき決まるだろう。それまでは今まで通り、カルム兄弟と行動するように」
「……はい」
返事をしつつ、何だか驚きすぎて落ち着かない。
おかげで、護衛の必要性や恥じらい云々がすっかり吹き飛んでしまった。
エリアスが優秀らしいことは聞いていたが、まさか剣の腕まで優れていて、アランも同様だとは。
美貌の侯爵令息はただ麗しいだけではないらしい。
何とも恐ろしい双子である。
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