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色々仕込まれているようです

「それで(くわ)を持つ約束をしたのですね?」

 次期王妃であるアンドレア・メルネス侯爵令嬢は、悩まし気なため息と共にティーカップを置いた。


 今日はアンドレアに誘われて王城の庭でお茶会に参加している。

 お茶会といっても、参加者はノーラとアンドレアだけ……のはず、だった。


「面白いね。もともとその小説を取り上げる予定だったし、カルム侯爵夫人の案でいいんじゃないかな?」


 黒髪に朱色の瞳の美青年は、この国の国王であるトールヴァルドだ。

 二人きりのはずのお茶会にしれっと参加しているが、当然文句など言えるはずもない。


「では、そのように手配させましょう。ノーラは、それでいいのですね?」

「はい。精一杯歌って、鍬を掲げます」


「……まあ、仕方ありませんね。それよりも、そんな話をしたということはカルム侯爵夫人に会ったのですか?」

「はい。先日、カルム侯爵家にご挨拶に伺いました」

 その言葉に、二人の表情が一気に柔らかくなる。



「そうですか。ご両親に挨拶も済ませたのですね」

「ようやく、だな。エリアスの長年の執着を見ているから、感慨もひとしおだよ」

 若干気になる部分もあったが、概ね喜んでくれているようなので、何となくノーラも嬉しい。


「今日もエリアスは宰相のところへ?」

「はい。王城までは一緒に来ましたが、毎日忙しいみたいですね」


 実際に何をしているのかはノーラにはわからないが、仕事は山のようにあるのだろう。

 それでもできる限り送迎は自分で行おうとするあたりは、エリアスらしいなと思う。


「宰相も張り切っているからな。長年待ち望んでいた、使える後継者候補だ。通常業務はあっという間に憶えてしまったからと言って、色々仕込んでいるらしい」

「仕込んで……」


 通常業務はあっという間に憶えたというからには、エリアスはトールヴァルドが望んだ通りの優秀さなのだろう。

 だが、色々仕込むという言葉が不穏に聞こえて仕方がないのだが。


「大丈夫。エリアスなら、さっさと習得するだろうよ」

「いえ、その心配はしていないのですが」


 どちらかというと、色々を学んだあとのエリアスが怖い。

 既に油断ならないのに、あれ以上進化するのかと思うと、本当に恐ろしい。

 何が恐ろしいって、トールヴァルドはそれを見越して期待しているのだろうと思うから、始末に負えない。



「そういえば、陛下にお聞きしたいことがあるのですが」

「何かな」


 トールヴァルドはクッキーを口に放り込んでいる。

 何気ない仕草も気品に溢れているのだから、生粋の王族というものはさすがに格が違う。


「私……というよりも『紺碧の歌姫』に関しての噂というものを聞きました。建国祭の歌姫の声に魅了された各国が、引き抜こうとしているとか。国王に打診している国もあるとか。その歌声は神をも癒すとか」


「うん。それで?」

 何となくトールヴァルドはノーラが言いたいことを理解しているのだろうなと思ったが、促されている以上は言わないわけにもいかない。


「家族の話では、建国祭の後から私を招待したいとか専属契約したいという手紙が沢山来たらしいのです。以前に陛下も他国のことを口にされていましたよね」


「それで? 本当に他国からの打診があるのか気になる?」

「打診そのものはどうでもいいのですが、陛下にまでお手数をおかけしていたのかと」


 貧乏男爵家に対してあの態度なのだから、国王に対してはさすがにもっと丁寧なはず。

 とはいえ、忙しいであろうトールヴァルドの手間になっていたのかと思うと、何だか申し訳なかった。


「そちらか」

 トールヴァルドは笑うと、紅茶に口をつけた。


「確かに、色々あるよ。国内の貴族はクランツ男爵に打診していたようだし、他国から『紺碧の歌姫』を招きたいという話も俺のところに来ている。だから、公認歌姫に任じたんだ」

 ティーカップを置くと、トールヴァルドは美しい朱色の瞳をノーラに向けた。


「前にも言ったが、個人的な理由だけではなく、国益も考えてある。だから、気にすることはない。……まあ、とりあえずは公認歌姫にしたことで落ち着くだろう。何かあればエリアスでもアンドレアにでも誰でもいいから、必ず報告しなさい。いいね?」


「はい」

 真剣な表情で返事をするノーラを見てうなずくと、何故かトールヴァルドの顔が綻ぶ。



「まあ、隠そうにも隠し切れないだろうけれどね」

「それは、どういうことでしょう」


「大体予想はつくだろう?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる美青年は麗しいが、言っている内容が少しばかり不穏だ。


「……エリアス様の、ストーカー的情報網ですか?」

 思いついたことを口にすると、高貴な二人が同時に笑い始めた。


「ストーカーって……」

「いや、正確な表現だろう。それにしても、それをわかっていて平気なんだ? 気持ち悪いとか思わない?」


 国王にして友人らしいトールヴァルドからこの言われようとなると、少しだけエリアスがかわいそうな気もする。


「初対面から顔のいい不審者でしたし。油断ならないのは知っていますし。それに、止めたところで変わるとも思えません」




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次話 懐かしい人と再会。そして王城のてっぺんを目指す……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 顔の良い不審者・・・ よく理解してくれる婚約者で良かったねー 紺碧の歌姫による華麗な鍬の演舞が披露されるなら世界中から客が呼べそうなのに
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