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参考にって何ですか

「というと、何かあったのでしょうか」

 穏やかな表情のままエリアスが尋ねると、カールがうなずいた。


「今までは借金の肩代わりをちらつかせる人が多かったが、効果がないと気付いたんだろうね。最近では権力を盾にして強めに迫ってくることが増えてきたよ」


「なるほど。……この手紙を拝見しても?」


 カールがうなずくのを見て、エリアスは手紙に目を通し始める。

 ちらりと覗いてみると、確かにノーラを夜会に招待したいと書いてあった。


「強めに迫るというのは、脅すということですか? 私にも教えてくれれば良かったのでは?」


 ノーラの歌くらいでそんなことになるとは信じ難いが、家族が嘘をつくとも思えない。

 キリがないというのは理解できるが、それでもノーラだけがのうのうと過ごしていたというのは申し訳なかった。


「姉さんに言えば、うちのために歌おうとするだろう? どうせ一過性のものだろうから、暫くの間あしらっていれば終わると思ったんだよ。でも……終わるどころか過熱してきてさ」


「だから、公認歌姫というのは正直助かったんだよね。ノーラの歌は王家のもの、という大義名分ができたから断りやすくなったし。実際、ほとんどは引き下がってくれた」


「ということは、それでも諦めていない者がいるのですね」

 エリアスは手紙をテーブルに戻しているが、山のように積んであったものが綺麗に並んでいる。



「ありがとうございました。とても参考になります」

「……まさか、この手紙全部に目を通したのですか?」

「名前と簡単な内容だけね」


 何ともないという口ぶりだが、二十以上はある手紙の名前と内容をこの短時間に確認し終えるのは、おかしくないだろうか。


「……参考に、というのは」

「参考だよ」


 何の参考にするつもりなのか気になるが、屈託のない笑みが怖くて聞きづらい。

 思わず眉を顰めるノーラを見て微笑むと、エリアスはカールに視線を向けた。


「『紺碧の歌姫』が王家公認の歌姫となった以上、招待したければ国王か宰相の許可が必要になります。しつこい場合や脅迫めいた態度を取るようなら、私からも宰相にお伝えします」


「うん、ありがとう。とりあえず波が引いてきたところだから、様子を見るよ。あまりにも酷い態度や長く続くようなら、お願いしていいかな」


「もちろんです」

 思わずため息が出るほどの眩い笑みだが、何となく怖いのは気のせいだろうか。



「招待したければって……今後、私は夜会のたびに許可が必要なのですか?」


 もともとはろくに行かなかったから問題ないとはいえ、今後エリアスの婚約者としてそういう社交の場に慣れるためにも参加する機会は増えるだろう。


 毎度毎度確認をするというのは、なかなか面倒である。

 いちいちそんな報告を受ける国王と宰相も迷惑ではないのか。


「まさか。ノーラが自分で参加するぶんには問題ないよ。あくまでも『紺碧の歌姫』として歌ってほしいという場合だね」


 公人と私人とは別扱いということか。

「難しいですね」


「行きたければ行っていいよ。歌わなければ問題ない。面倒な場合は『国王か宰相の許可が必要』と断ればいいだけだよ」

 普通、夜会に招かれた場で歌うことはないので、その点は問題ないと言えばないのだが。


「……それは、都合が良すぎませんか?」

 形式にのっとっているようで、気分次第のようにも聞こえる。


「俺が同行すれば、許可的には何ら問題ないよ」

 確かにノーラが夜会に出るのならば、パートナーとしてエリアスが同行するだろう。

 宰相補佐となったエリアスが同行するのなら、それを承認したということにもなる。


 だが、やはり都合がいい雰囲気は隠せていない。

 ノーラとしてはありがたいが、果たしてこれで周囲は納得するのだろうか。



「それから、陛下の命でノーラさんには護衛が付きます。まだ選考中ですが、それまでの間は今まで通り私か弟が送迎をさせていただきます」

「ありがたいけれど、エリアス君も忙しいだろう?」


 エリアスは現在宰相補佐として、宰相のそばでその業務を学んでいるという。

 初めての仕事を一から学んでいるのだろうから、負担は大きいだろう。

 まして国を支える宰相職なのだから、忙しくないはずもない。


「アラン様だって暇ではありませんよね? ペールと一緒でも問題ないと思うのですが」


 正直に言えば、ペールの送迎すら必要ないと思う。

 とはいえ公認歌姫という職に就いた以上は、安全確保も仕事のうちだろうと諦めがつく。


 まして国王であるトールヴァルドの命でもあるのだから、断ろうとは思っていない。

 だが、以前のように悪い噂が出ているわけではないのだから、同行者がいれば十分なのではないだろうか。


「今までクランツ男爵に圧をかけていた連中が、国王と宰相の名で全員引けばいいけどね。諦めずに次の行動を取るとすれば、陛下達に掛け合って正式に権利をもぎ取るか……あるいは、こっそりノーラ自身に訴えるか」


「訴えられても、結局は許可を取ってくださいとしか言えませんよね?」

「そうだね。でも、向こうはそうは思っていない。手荒な手段に出ないとも限らないから、護衛は必要だよ」


 優しく諭されれば、ノーラもうなずくしかない。

 それを見ていたカールは、何故か嬉しそうに微笑んでいる。



「ノーラはね。歌は上手いし、料理も掃除も洗濯も手際がいいし、裁縫に畑仕事に大工仕事までこなせる、自慢の娘だよ」

「お父様。それは貴族令嬢としては自慢になっていません」


 それらすべては本来使用人の仕事であり、蝶よ花よと育てられた生粋のご令嬢ならば一生関わらないこともあるだろう。

 個人的には不満はないが、名門侯爵家の御令息相手に自慢する内容としては、少しおかしい気がする。


「でもしっかりしているようで思い込みが激しいところもあるし、さすがに男性と真正面から腕力勝負になったら勝てない。これで結構心配なところもあるんだ」

 ペールがうなずいているところを見ると、どうやらカールと同意見らしい。


「ノーラをお願いするよ、エリアス君」

 カールはいつも通りの穏やかな表情だが、何となくその中に寂しさのようなものが見える。


「はい」

 エリアスはカールに返事をすると、麗しい空色の瞳を細めて微笑んだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] いやいや、畑仕事や大工仕事まで出来るのは十分に自慢出来る要素でしょ 万が一没落しても安心
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