笑う君に恋をした。
『笑うと幸せになるよ』
君は口癖のように、僕に会うたびそう言ってきたよね。イジメられて元気がなかった僕を唯一気に掛けてくれて、いつも隣で笑ってくれたよね。
僕にはそんな君が眩しかったんだ。
自分の手では君に届かなくて、でも君は手を差し伸べてくれて僕は這い上がれた。クラスの連中にイジメられることも無くなった。ご飯も美味しく食べられる様になった。笑う事も出来る様になった。
これも全部、いつも笑顔で隣に寄り添ってくれた君のおかげなんだ。そこで気付いた。僕は君に恋していたんだ。
だから僕は、思い切って君に告白した。そしたら君は、考えさせてって笑顔で僕に言ってきたよね。
でもその次の日に、君は笑わなくなったよね。僕に会うたびに目を逸らして、何処かへと行ってしまって。
僕は君に嫌われたのかと思ったよ。当然ショックだった。好きな人から避けられたら誰だって傷付くと思う。これが告白の答えなのかって告白した自分を殺したくなった。
でもそこで気付いたんだ。僕のイジメが無くなった原因は、イジメの対象が切り替わっただけなんだって。イジメ自体は無くなっちゃいなかったんだ。
でも、クラスの連中に聞いても『分からない』の一点張り。だから僕は、勇気を出して君に聞く事にした。
逃げる君の手を捕まえてね。
『イジメられてるの?』
そしたら君はハッと目を見開いて、『もう関わらないで』と叫んだよね。
それが僕には耐えられなかった。
僕が好きな君は完全に無くなっていたんだ。眩しくて届かない存在だった君に手が届いてしまったんだ。
我慢の限界だった僕は、僕と君をイジメていたイジメっ子と派手に喧嘩して、僕は見事にボコボコにやられた。
そもそも勝てていたら、イジメられる事もないから当たり前の事だろうね。そんなことも分からなくらいその時は怒りで一杯だった。
『元の君を返せ』とか、『僕が君を守る』とか、そんな事を叫んだ記憶があるよ。今思えば物凄く痛いセリフだよ。
それからはまたいつも通りの生活に戻った。君はまた笑顔になって、僕は笑顔を無くした。
君はもう、僕と関わることは無かったよね。僕とじゃなくて、他の友達と喋っていたのをまだ覚えてるよ。
でも僕は、それで良かったと思うんだ。君の笑顔が僕の支えだったから。君が笑顔だったらそれで良かったんだ。
泣く君なんて見たくない。
僕は笑う君に恋したんだ。その姿が一番輝いて見えたんだ。
君に別れの言葉も言えなかったけど、今の君はこの出来事を覚えていてくれているかな。
君は今何歳だろう。どんな見た目をしているのかな。笑って生活しているのかな。毎日そればっかりが気になって仕方がないよ。
そういえば、告白の返事は結局どうなったんだろう。
まぁ断られたのかな。僕が居なくなっても君は笑って過ごしていたから、僕の事なんて本当はどうでも良かったのかもしれないね。笑い話に出来るかな。
……おっと、そろそろ時間か。
君への未練はもう無いよ。告白は断られたんだ。何というか、清々しい気分だね。これでやっと君を諦められる。
でもまぁ、欲を言えば最後くらい君の笑う姿が見たかったよ。
──あれ、もしかしてそこに居るのは君かな。何だ、歳をとっても変わらないね。
『告白の返事、まだしていませんでしたね』
おや、口調がだいぶ変わってるじゃないか。やめてくれよ。僕と君の仲じゃないか。
『あの時は本当に嬉しかったんですよ』
あぁ、そうかい。なら良かった。こんなにも悩む必要なんてなかった。君を信じていたらこんな事にならなかったのに、本当に僕は駄目な人間だ。
『それとごめんなさい。あたしはね、あの時イジメから助けてくれた事が本当に嬉しかったんだよ。でも君は居なくなった。怖くて今日までこれなかったのよ』
いや、むしろ謝るのは僕の方だ。無駄に僕という足かせを付けて今日まで生きてきたんだから。
それに、何十年経とうと、来てくれた事が僕は嬉しいんだ。
『だからいまここで伝えます。あたしはまだ君の事が好きよ』
──あぁ。あぁそうかい。ここまで粘って来て本当に良かった。その言葉を聞くためだけに僕はここに残っていたんだ。
ありがとう。これで本当に未練はなくなったよ。
だから泣かないでほしい。君は笑っている時が一番輝くんだ。それが僕の支えなんだから。
『笑えば幸せになる』
あぁその通りだ。僕は今、物凄く幸せだ。笑顔ってこんなにも気持ちのいいものだったのか。
お、君も笑ったね。やっぱり君はそれが一番だ。
じゃあね、君。僕みたいな最後じゃなくて、笑って最後を迎えられるよう天で祈っているよ。
本当にありがとう。これで僕は楽になれる。
本当に、本当にありがとう──
初投稿がてら短編を投下しました。
制作時間約二時間の即興超短編小説ですが、如何だったでしょうか。
主人公である『僕』が『君』の事を本当に好きなんだなぁって感じで大丈夫です。そんなに深い意味は多分ありません。




