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イタズラ好きのリスの大失敗


リスはオオカミを嘘の案内で、森の奥深くまで連れて来ました。

木々の隙間は全く無くて、逆さまの虹も見えにくいどころか、陽射しすらあまり届きません。洞窟の様な暗さと、しんとした物寂しさを感じさせます。


「ほんとに此処を通り抜けたら帰れるの?」

「あぁ、もちろんだ! 此処を潜り抜けて、あと橋も渡って、潜り抜ければ……ふぎゃっ!?」


リスはオオカミとの話に夢中になってたせいか、またあまりの暗さに気付かなかった根っこに躓いて転びました。よく見ると、辺りで沢山の木の根っこが飛び出していて、それにリスはハッと気付きます。



「大丈夫……?」


転んだリスにオオカミは顔を近付けて、鼻の先で軽く突いて起こしてあげます。


「あ……、あぁ、大丈夫だ! 今のは話に夢中になり過ぎてたね! そうそう、前を向いて足元も見ながら、根っこに気を付けて進まないとね!」


あとは嘘を口にしなかったらきっと大丈夫だろうと。

其処は沢山の木の根っこが飛び出している為に、"根っこ広場"と呼ばれています。足元をよく見て動かなければ転んでしまうのも当然ですが、此処で嘘をついてしまうと根っこに捕まってしまうのです。



「うん、分かった。気を付けて行こう!」


オオカミは頷くと、根っこに気を付けながら、リスの後に続いて歩きました。

リスは出来るだけオオカミとの会話を避けて、広場を早く通り過ぎる事を願いながら歩き続けました。




※ ※ ※



気付いたらオオカミ達は根っこ広場を越えていて、今度は川に隔てられた吊り橋に差し掛かりました。此処まで着いてしまったオオカミを、可笑しい……と、リスは彼の目に触れないところで睨みました。


彼はほんとはこの森に住んでる奴じゃないかと、リスは疑います。初めてにしてはやけに歩き慣れてるという事が不思議だったのです。


「……この橋を渡れば、帰れるの?」


オオカミはリスに騙されているとも知らずに、彼はあどけない態度を向けます。


「……君って意外と心配性だなぁ。もちろんだ! もう少しだ!」

「でも……、ボロボロじゃないか」


オオカミの云う通りによく見ると、吊り橋は今にも落ちそうなくらいにボロボロになっていて、とてもですが渡れそうな状態ではありません。その事から、森に住む動物達からはその吊り橋を"オンボロ橋"と呼んでいるそうです。


「オオカミの癖に怖がりだなぁ。なら仕方ない、おいらが先に渡ってやるよ」

「えぇっ! 危ないよ!?」


明らかに無茶な行動に、オオカミは得意気なリスを心配します。


「大丈夫、大丈夫! 渡るのに少しコツがあるから、今から教え──」


内心で怖く思っているにも拘らず、リスは吊り橋の踏み板に何の躊躇も無く乗っかります。

彼が踏み板に乗っかっただけで、橋の綱は悲鳴をあげました。やがて──



「うわああぁぁぁぁ!!?」


吊り橋の綱はいとも簡単に切れてしまいました。

リスは悲鳴を上げながら、森の虹の様に真っ逆さまに落ちていきます。




「大丈夫……?」


オオカミの声に気付いたリスは、彼の頭上に乗っていました。

彼は地に一度軽く勢いをつけ、大胆で素早い跳躍でリスを自分の頭上へ拾い乗せるところまで助け出したのです。しかしその一部始終をリスは見ていませんでしたが、結果としてリスがオオカミの頭上に乗った状態で助かった事に変わりはありません。



「……一度だけじゃなく、二度も助けられるとは……ついてないな、全く」

「?」


リスはこれまでの事を反省し、考えていた事をオオカミに打ち明けます。


「……悪かったよ、今まで君を騙してたんだ。ほんとは君の元居た場所に、帰れるかなんて分からないんだ……ゴメン」

「……」


オオカミは目を丸くして、少し固まってしまいます。それからその意味を完全に理解すると、彼は険しい表情を浮かべました……。


これは彼に嫌われたのかもしれません。

しかし彼の険しい表情は時間が経つと崩れ、それから悲しそうな表情になっていきます。



「……そう」


暫く続いた沈黙の中、オオカミからやっと声が出ます。


「……僕が、オオカミだからいけなかったんだね……」

「そ、そういう意味じゃな……」

「でも君は怖がらず逃げ出さなかった。ずっと側に居てくれた事が嬉しいよ。どうもありがとう」


リスはその言葉を耳にして、オオカミはリスに頭を下げて礼を云います。

オオカミは道中でクマには出会ったものの、怖がられて、一緒に居る事はありませんでした。そしてリスに出会うまではずっと一人ぼっちだったので、嘘でも此処まで誰かと一緒に居た事が嬉しかったのです。


「……い、いいや、お礼言われる様な事をした覚えは……」


オオカミから予想だにしなかった言葉に、リスは戸惑います。




「嬉しかったんだ、誰かと一緒に居る事が」


オオカミはそう云って、今まででこれ以上に無いくらいの笑顔を浮かべました。



「……、そう」


彼のそんな顔で云われて、リスは恥ずかしそうにします。



「それは……おいらも嬉しい事かな!」


彼も今まででこれ以上に無いくらいの笑顔を浮かべました。





「……ところで僕達は未だ無事じゃないよ」

「え?」


リスは目を丸くしました。


「君は僕の頭の上に乗っているだけだから、周りをよく見てごらん?」

「……うぉっ!?」


彼の頭の上に乗っているところだけしか見えてなかったリスは、改めて周りをよく見ると、崖下の僅かしかない淵に居る事を知りました。


「これって、もしかしなくても崩れるんじゃ……」

「間も無く崩れるね」


オオカミの足元で崩れそうな音が聞こえて来ました。


「地上まで跳ぶ事出来ない!?」

「君を助ける時に、足、怪我しちゃったんだ……。もうダメかもしれない……」

「そんな……」


リスはオオカミの怪我してしまった足を見て、騙してきた自分にやるせない気持ちになります。


「ゴメンよ、ゴメンよ……」


リスは彼に何度も謝りました。



「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」


オオカミ達は悲鳴を上げながら、また森の虹の様に真っ逆さまに落ちていきます……。




其処へなんと良い場面を狙った事でしょう。

大きな影が飛び込んで来て、落ちていくところだったオオカミ達を拾い抱えました。それから地上に向かって、大胆な跳躍であっという間に運ばれます。



「……大丈夫かい?」


──オオカミ達を助けたのは、頼もしいと思える大きな獣の姿をしていました。

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