勇者が魔王の側近やってます。2話目
ふははは。2話目登場ですよそこの貴方
そっきんのひとりが なかまになりたそうに こちらをみている !!
なかまにしますか?
はい
いいえ◀
「こちらです魔王様」
「うむ」
まおう と さいしょう は !! するーした !!
ここは魔族領の中でも屈指の温泉の郷
朱金色の髪の魔王と黒髪の宰相は一軒の温泉宿に入っていった
その後ろでは青い髪のモノクルを掛けた男性がくっ、と声を漏らしながら膝から崩れ落ちる
気にせず温泉宿に入った二人は受付をすませ、女将に案内されて廊下の奥に消えていった
所変わって、ここは広い露天風呂
そこに一人のくたびれた様子の黒髪のおっさんが丁度湯船に浸かったところだった
「はぁー。お風呂ってやっぱいいなー」
突き抜けるような晴天を仰ぎ見てふぅ。と、深いため息をつく
「・・・・・・疲れたなぁ」
タコが潰れてボロボロになった両の手のひらを見ながら呟く
「俺、なんでココにいるんだろう・・・・・・?」
平和なあの世界で最後に見たのはあの人と一緒に散歩に行っていた時
あの人が空を見上げてふんわりと笑ったのが最後だった気がする
何故かその辺り曖昧だが、仕事の事は鮮明に覚えている
超有名企業に勤めていた自分は、早朝から夜遅くまでデスクに向かっていた
やってもやっても溜まっていく仕事
それなのに給料は上がっても微々たるもの
常に職場で夜を明かした
休日は一月に一回あればいい方
酷ければ半日の時もある
残業は月に300時間は超えていた
そんな中コンビニで出会ったあの人と短い時間だがお付き合いをして書類だけだったが結婚をした
なんて前の世界での事を思い出して耽っていると、ガラリ、と扉が開き一人の青年が全裸で入ってきた
全裸でも入ってきたのにもビックリしたけど、その頭髪にも更に驚く
綺麗な黒髪・・・・・・
この世界に来て少なからず分かったことは、黒髪の人が全くといっていい程居ないということ
えーと、若者が髪の毛を染めるみたいにした、メ、メ、なんだっけ?
んーと、分かんないや。メッシしか出てこない
その一部分だけ違うのも王族にしか無くて、他の人達はなんか、目に痛いほどカラフルです
俺が召喚?された場所であるブラック王国では、王様の髪色が金髪に一部分だけ灰色だった
召喚されて目に入って来た王様の表情今でも忘れれないなぁ
何か、ゴミを見るような顔をしてた
すぐ取り繕うかのように笑顔になっていたけど、長年上司の顔色を伺って生きて来た俺の目を誤魔化すなんてできるはずもない
実際暮らしてみて、ブラック王国、名の通りブラックだった
と、思考を辞めて青年を見ると、青年はペタペタと身体を洗う場所に向かって歩いている
細長い石でできた椅子に座った青年は備え付けてある備品を使い手早く身体と頭を洗う
まるで烏の行水みたいだ
全身洗い終えた青年は此方に向かって歩いてくる
いや、まぁ仕方ないよね
身体を洗った後は湯船に入るだけだもんね
でもさぁ!前隠してくれてもいいんじゃないかなぁ!?
だってこの旅館お風呂入る時は腰巻着用必須だよ!?
なんでこの人腰巻してないの!?
固まっていると、ふと視線が合った
「・・・・・・・・・・・・おや、先客がいらっしゃいましたか失礼。隣、座りますね」
失礼とか言う割には堂々と隣来たよぉぉぉぉ!
すぐ隣じゃなくて人一人分隣空いてるからまだマシだと信じたい!!
てゆーか!青年の息子が!青年の息子が!ご立派なそれをお隠し願えると嬉しいですぅ!!同じ男としても恥ずかしいから!!
「・・・・・・・・・・・・ふぅ、やはり温泉は良いものですね」
はい、そうですね
「あ、あの・・・・・・・・・・・・、ここの温泉、腰巻・・・・・・・・・・・・」
「ん?あぁ、先程貸し切りました。まさか先客がいるとは思っていませんでしたが、これも何かの縁です。共に話しませんか?」
貸し切りにしたと聞いて慌てる
だって、俺邪魔なやつじゃないか!
「か、貸し切り!?あっ、じゃあ出ないとっ」
ザバリと立ち上がろうとして青年の側に身体が引っ張られる
見れば青年が俺の手を引っ張っていた
「出なくて良いと、言いましたが?気にせずにゆっくり浸かって下さい」
有無を言わせぬ力で引っ張られ、渋々お湯に浸かり直すことにした
無表情な青年の口の端が微かに上がった気がした
「随分身体に傷跡が付いていますね。苦労、したんですね。手のひらもボロボロじゃありませんか」
その言葉に改めて俺は自分の身体を見下ろす
最初の頃騎士達に付けられた傷、モンスターに咬まれた傷や切り付けられた傷など様々な傷が引きつれた痕となって残っている
「あはは・・・・・・、お恥ずかしい物を見せてすみません。なにぶん剣を持ったのがこの年なもので、傷もつれになってしまったのですよ。お仲間もいっぱいいっぱいらしくて・・・・・・」
「傷もつれ?とは?その仲間が治癒魔法を使ってくれたりとかは?」
「え、あぁ、すみませんっ!伝わらないですよね。傷まみれって意味です。ちゆまほう、ですか?いえ、何か私如きには使えないとか言われたので傷ついたら全部自分で治していました」
お陰で包帯を巻く腕は上達しましたよ!と笑うと青年は凄く眉間に皺を寄せ何かを考える様に視線を水面に落とした
視線を上げた青年は俺の手を取ると利き腕に走った傷を指先で撫でる
「この傷など深いですから、剣を振るうには支障が出ているのではありませんか?」
「日常生活には問題ないくらいですから大丈夫ですよ!」
これもつとめて明るく言ってみる作戦
だが、失敗
青年は痛ましげな目で此方を見てくる
いたたまれないです
「あ、でも・・・・・・・・・」
「どうかなされたので?」
「あっ、いえ、ここ、魔族領って凄く豊かで良い所ですよね。魔族の皆さんも暖かくって」
ブラック王国は王国の端の方が貧困が凄かったんだけど、それに対して魔族領は一目見ただけで分かるほど豊かだ
この2つの国、大きな川を挟んで隣合っているんだけどさ、この川がすっっっごい川幅広いの
なんだっけ?地球の外国にあるナイアガラの滝くらいに広いんだよ
ナイアガラの滝がどのくらい広いのか知らないけど
まぁ、そこは置いといて
魔族領は道がしっかりしているし王都から遠く離れた村も余裕を持って暮らしていけるだけの食料がある
ただ、魔物の強さが飛躍的に強くなってるから戦闘面ではかなり大変
こんなんで俺はブラック王国が言ってた魔王とやらを倒せるのだろうか?
「なんか、私が旅をしている意義が見いだせないんですよ。第一、魔王様ってこの国の最重要人物ですよね?そんな方に出会うとか無理ですよ無理無理。魔族の方にこれ言うと必ずと言っていいほど笑い飛ばされるんですけど、私の、ブラック王国に言われた使命が魔王討伐ですよ?私のレベルで勝てるはずが無いじゃないじゃないですか!!何せこの年まで剣を握ったことなんて無かったんですから!部屋の中でパソコンとソロバンと電卓と書類に囲まれている方がまだマシです!!完全なるインドア派なのにいきなりアウトドア派になれとかっ!!無理にも程がある!しかもこの世界は剣と魔法の世界だとかで魔王討伐しないと帰れないとか言われていてもうどうすればっ!!なんで俺が勇者(仮)なんだよっ!!(仮)ってなにさ!?」
同じ旅をしている仲間にも言ったことのない愚痴を見ず知らずの青年に向かって吐いてしまった
青年は無表情ながらも静かに聞いてくれている
あ、目から汁が出てきた
「・・・・・・・・・・・・どうやら貴方と私は同郷の様ですね。後、貴方の隣に魔王様いますよ」
「え!?・・・・・・えっ!?」
汁が引っ込んだ
「私も勇者です。称号欄にしっかりと残っております」
「へっ!?」
青年が座っている方向とは反対を見ると長い朱金色の髪の毛を湯の中でたやゆかせて布巾に空気を含ませて沈めるクラゲをして遊んでいる男性がいた
特徴的なのは、白い角
今まで見た事のある魔族の角は黒だっり灰色だったりしたのに白い
てゆーか大の男がクラゲしてるなんて、あ、こっち見た
「ん?貴様も遊ぶか?もう一枚布巾はあるぞ?」
「いえ、いいです」
速攻で断ってしまって気づく
あぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!断っちゃったよ!!魔王様の誘い断っちゃったよ!!!
どうしよう!?殺される?殺されちゃう!?
「何してるんですか」
それに気付いたらしい青年が立ち上がり、魔王様の側まで湯を掻き分けて近くに行く
魔王様が大きく作った布巾のクラゲを青年は人差し指で潰した
「むっ、何をする」
「つい。こういうの見ると潰したくなるんですよね」
「それはしかたないな」
「いやそれ仕方ないで済ませていいの!?」
これまた無表情の魔王様と無表情の青年
魔王様に向かってこの態度とかこの青年凄くない?
何者?何者なの?いや、勇者って言ってたけど、これは違うでしょう?
「ん?誰だ?この者いつの間に入ってきていた?」
そしてどうやら今視界に俺が入った様子の魔王様
いや、まぁ、いいよ?俺存在薄いしさ?ってかさっき会話したのに気付いてなかったんですね
「あぁ、私達の目的のついでのついでの目的の勇者(仮)です。先客としていたので話しをしていました。それよりも気付いていなかったとかどんだけですか」
これみよがしにため息吐く青年に気にした様子も無い魔王様
その二人の様子に、凄いなぁー・・・・・・・・・と関心してしまう
友達とか、そういう関係かなぁ?
「そうか。・・・・・・で、どうするつもりだ?」
「そうですね。勧誘してみません?」
かんゆう?誰を?
頭にハテナを飛ばしていたら青年が俺の方を向いた
「という訳で貴方、魔王様の元で働きませんか?文官はいくらいても足りないんですよ。脳筋ばかりだから大変なんですよね。因みに私も魔王様の元に転職した口です。この方上司なんですよ」
え、上司にその態度していいの!?
いやその前に
「て、転職していいものなんですか!?」
「えぇ、実際に私がしてますし。ソイヤ」
ブスゥゥゥゥと魔王様が作った布巾クラゲをまた人差し指で潰した青年
魔王様は機嫌が悪くなるかと思えば、むぅ、と唇を尖らせただけで悪くならない
それよりもいいかな、温泉に浸かり過ぎて指先シワシワだしのぼせそうなんですが
出ていいですかね?
「む?どうした人間。顔が赤いぞ」
あ!魔王様が気づいてくれた!
「私はちょっとのぼせそうなんでお先に失礼します」
「私も出ましょう」
「ならば我も出るぞ」
結局皆で出ることになった
よっこらせ、と立ち上がった瞬間血の気が下がる音がして同時に視界が暗くなり身体が前のめりになった
「おや?」
「むっ?」
あ、これアカンやつや
なんかもう、全然驚いていない声の元視界が真っ暗になっていった
「んぅ・・・・・・・・・・・・」
目を開ければ綺麗な木目調の天井が見えた
あ、良かった
あのまま露天風呂に置いて行かれなくて・・・・・・!!
腕を目元に当てる
そして違和感に気付く
なんか、身体がスースーする
腕を上げて見てみる
目に入った自分の腕は何処にも傷跡の無いツヤツヤプルプルタマゴ肌
ついでに毛も一切無い
えっ?
バッと起き上がって両脇を確認
毛が、無い
「えっ!?なんで!?」
次に脛も確認
掛け布を足先から捲ってみれば、残念な事に脛毛も無くなっている
もしや、と思いおそるおそる掛け布を覗いてみる
「うっそでしょーーー!!!俺の!俺の毛が無いっ!!!」
下の毛も綺麗さっぱりお亡くなりになっていた
「んブッフ」
吹き出す声がしたからそちらへ顔を向ければ、露天風呂で会った、浴衣を着た青年が手の甲で口元を隠しつつ横を向いている
その肩を盛大に震わせながら
「ちょっと!何を笑ってんの!?てゆーか何この状況!?」
机を挟んで座椅子に座っている魔王様と青年
青年は青色の飲み物を飲みながら落花生もどきを割って中から飛び出して跳ねて何処か行こうとした豆をむんずと掴み口に入れている
笑いは収まったらしい
魔王様はミカンをモシャモシャと食べている
傍らにはミカンの皮の山が出来ているからゆうに2~30個は食べたとみる
何これ
「傷、綺麗に無くなっているでしょう?」
「傷よりも先に!!毛の方が気になるわ!!」
褒めてくれてもいいんですよ?と表情に出している青年に、俺はツルッツルになってしまったあらゆる箇所の方が気になって大きな声を出す
「えー、永久脱毛がタダで出来たと思って素直に喜びましょうよ」
「何にも嬉しくないからね!?知ってる!?下の毛無くすと痔になりやすいんだよ!?しかも毛って大事なところを守っているんだからね!?」
「痔にならないようにしたんで大丈夫です。え、こんな要らないものが?守れているとは思えませんね」
切々といる物だと訴えればバッサリ切られてしまい涙が出そうだ
どうしよう俺。これから痔とお友達なのかな。嫌すぎる
「だから安心して下さいって。なりませんから」
「何処が安心してられる要素あるの!?」
「根拠としては召喚されたさいの恩恵の数々、後はもう、異世界クオリティですかね」
真顔で仰りながら豆もどきを食べている青年
「根拠低すぎてなんかヤダ!!やっぱり下の毛返してよ!!」
「ええー」
「渋らないで!?ねぇ!渋らないでよ!!お願いだから!!下の毛を!!返して!!」
「下の毛ごときで何をそんな言っているんです。何か困る事でもあるんですか?」
表示の読めない真顔で言われても困る、てか
「あるでしょ!?男としての沽券とかプライドとか!!なんかそんな感じの奴が!!」
「要りませんね」
「グハァッ!!!即答しやがったよ!?この人!!どうにかして下さいよ魔王様!!」
なんかもう、キリッとした顔で言われた感じがして思わず魔王様に助けを求めた
が、魔王様はクッツクツと喉の奥で笑っているばかりで助けにならない
「仕方ありませんねぇ。返して差し上げますよ」
ふぅと一つため息を付く青年
やった!下の毛帰って来る!
「脇の毛を」
「そっちじゃ!!ない!!!」
バンっと掛け布を叩く俺
またもやブッフォと吹き出す青年
ミカンを丸ごと口に放り込んで喉に詰まらせたらしい魔王様
カオス過ぎるだろ
「まぁ、そんな戯れ言は置いておいて」
「良くない!良くないよ!?俺の毛大事な事だから!!」
「勇者(仮)は文官として迎え入れますがその他はどうしましょうか?」
「酷いよこの人無視しやがった!!」
何事も無かったかのように話す青年
もう!この人ツッコミが追い付かないよ!!
うん、てゆーかね!ナチュラルに俺が部下になる事決定してるじゃないの!!
いや、まぁね、休みと給金がしっかりしていたら何処でも良いんだけど
なんて、ね
俺はステータスオープン、と呟く
レベルやスキル欄の下にある称号欄に指を滑らせる
ここにある『王族の奴隷』って文字がある内は、・・・・・・・・・・・・文字が、あれ?
「ない!?」
「突然大きな声を出してどうしたんですか全裸で。取り敢えずそこの浴衣でも着てください」
「え、あ、うん、すみません」
そこと言われた場所には生成りの浴衣が綺麗に畳まれて置かれている
俺はそれを手に取って袖に手を通し前をあわせると藍色の帯を締める
さて、と気を取り直して自分のステータス欄を見る
この世界に来た時から付いていた『王族の奴隷』と言う称号
内容としては、行動が全て筒抜けになる、一部の行動に制限がある、ブラック王国の王族の下した命令は絶対等碌でもない称号
それが、今は無くなっている
え、どういう事?
「あぁ、下らない称号は魔王様が傷を治すと同時にとっぱらってくれました」
「ふん。目障りだっただけだ。有難く思うならばこのミカンを共に食うがいい」
「あ、はい。ありがとうございます。って、下らない称号って」
青年がボリッボリッと煎餅を食べ始めた
魔王様は食べかけていたミカンを此方に差し出した
うん、魔王様。食べかけをヒトに差し出すもんじゃありませんよ
受け取っちゃったけど
後な、下らない称号ってどういう事なの
「だって、下らないじゃありませんか。なんですかあの安直極まるネーミング。センスの一欠片も見当たりませんよ」
「あ、そっち!?」
「え、他の要素あります?」
「いやいやあるでしょ!!道徳的な問題とか!!」
えー、別に。とか言いながらボリボリ煎餅を齧る青年
なんだろう。疲れてきた
盛大なツッコミ不足だよ
うん、取り敢えずこの貰ったミカン食べてしまおう
わーい。ミカン美味しいなぁー(棒読み)