サーカス団の悲劇
サーカスって、憧れますよね。
午後8時。机の上に並べられた母さん特製のベリーパイと僕の大好物であるかぼちゃのグラタン。それにいい具合に焼かれた香ばしいあぶりキノコには東の国の調味料であるポンズがかけられている。豚肉を焼いてトマトやレタスと一緒に挟むサンドイッチ。妹のパトリーが好きなリンゴのサラダにかかったフレッシュなレモンドレッシングの香りが僕の鼻をツンとつつく。母さんの一番の得意料理であるフワフワオムレツは一家の名物料理と言われるくらいだから、クリスマスには欠かせないだろう。3人家族の僕達は、クリスマスの夜を満喫していた。僕達の住むハグミト街は、小さな田舎町でみんな仲がいい。クリスマスやハロウィンなどのイベントになるとみんな外に出て広場の噴水を囲み、踊ったりご馳走を食べたりする。だけど僕は騒がしいのはあまり好きじゃなくていつもイベント事は家族3人家で平和に楽しむのだ。
「サンタさん、明日も来ないかなぁ」
パトリーが口の周りに食べかすをつけたままそう言う。
サンタさんはいい子にしかプレゼントを渡さないって母さんが言ってた。だからパトリーはクリスマスが近くなるといつも急に家事の手伝いをしたり街に捨てられたゴミを拾ったりしていた。
「サンタさんは年に一度しか来ないの。欲張っていたら来年はサンタさん来てくれないわよ。」
えぇー、とパトリーが拗ねたような態度をとる。僕はパトリーのこういう単純で純粋すぎる所があまり好きじゃなくて僕も口を尖らせる。
ジー、ジー。
家のベルがなった。
「あら、ご飯中にどちら様かしら」
母さんが扉をあけるとそこには黒いスーツを着た背の高い男が立っていた。
「サンタさんだ!」
パトリーがいきなり大声をあげるので僕はパトリーの口を手で塞ぐ。
「お食事中失礼致します。私、よその街からやってきたピピと申す者です。」
"ピピ"と名乗る男は被っていたシルクハットを取り、母さんに一礼する。まるで紳士のようだ。
「実は私、とあるサーカス団の団員なのですが、そちらの息子さんを我々サーカス団の団員にスカウトしにこの街へやってきました。」
僕も母さんも何を言ってるのか分からなかった。やっと理解した母さんは怪しいそうにピピという男に目を向ける。
「どこの街からやってきた何というサーカス団かは知りませんが、聖なる夜の晩餐中に勝手に人の息子に目をつけるだなんて無礼にも程がありますわよ。さっさと帰ってちょうだいな!」
そう言い放ち、母さんは強く扉を閉めた。