鍛冶師ジャラモ
次で終わりです。
オーガの村は迷いの森の奥の方にあって、外との交流が一切ないと言っても過言じゃないところにある村だが、その割には結構文明的な道具が揃っている。
農具は一通りあるし、武器だって俺たちが使っているものと大して変わりない……というか、俺達が使っている武器より数段良い道具や武器ばかりだったりする。
これは村の近くにある洞窟に鉱脈があるというのと、この村の鍛冶師がドワーフだというのが大きいだろう。実はオーガ達が持っている武器がどれもベテラン冒険者が使ってた武器より良さそうな武器だから、ちょっとうらやましかったんだよな。
「おう、ジャラモはいるか?」
「お邪魔します」
村から少し離れた場所で、鉱脈がある洞窟の近くにある掘っ立て小屋みたいのが今回の目的地の鍛冶師さん宅だ。
ここの家主である鍛冶師のジャラモさんは変わり者らしい。1日中家に籠って鍛冶をやっているのは当たり前で、酷い時なんて倒れるまで槌を振るうのを止めなかった時があるんだとか。
「おぅ、どした」
返事をしたジャラモさんは俺よりも背は小さいが顔はすこぶるオッサンだった。髪はボサボサで、ヒゲも伸び放題。目の下に大きなクマをつくり、頬はこけている。顔色は少し青白く、目の焦点が少しぶれていた。
これが鍛冶の申し子と言われるドワーフという種族なのか。鍛冶に魂まで捧げようとするような気迫に俺は少し引いてしまった。
「ジャラモ、今回は何日寝てない?」
「3日かな。飯は食べてるからまだ行ける」
「その割には痩せたように見えるが」
「そんな馬鹿な。2日程前にガイアスのステーキを食べたはずだぞ?」
それで果たして自慢げに食事をしていると言っていいのだろうか。
俺とマッフルは顔を見合わせた後、諦めたかのように溜息を吐いた。
・・・
「で、何の用だ?」
「実は俺の武器を作ってもらいたくてですね」
「おう、いいぞ。材料は採ってきてもらわんといかんがな。」
思ったよりもあっさりとOKがもらえた。
しかも材料を持ってくるだけで良いらしい。そんなんでいいのか。
後に聞いた話だが、ジャラモさんは食料を貰う代わりに村で使う道具を作っているらしい。そもそもオーガの村ではお金なんて使われていないから、そういうものかもしれない。
「で、どんな武器が欲しいんだ?」
「手入れがあまり必要なくて丈夫なやつがいいですね」
「カウルは俺たちよりも力がないから軽めの武器の方が良いだろうな」
「フム、それなら長棒かメイスって所だろう。重めの武器も選択肢に入れるならハンマーも良いかもしれないな」
俺とマッフルの言葉にジャラモさんは頷き、3つの武器を出してきた。
4m近くの長さがある鉄の棒と、3mほどの長さで先端の方に巨大な鉄塊がくっついたハンマー、あとは1、5mほどの巨大なメイスだ。
こんなの見せられても俺には余り参考にならない。ハンマーなんて持つことも出来なかった。
この中でならメイスが一番使い良さそうだと思う。大きさは小さくしてもらう事になるけれど。
「メイスが良いかな。これはデカすぎるけど」
「あいよ。どれくらいの大きさが良いんだ? お前さんなら60cmから90cmくらいが妥当だと思うが」
前より筋力は上がってるし、90cmの大きさでも問題はないと思うけど、どうなんだろうか? ここにあるのは全部オーガ仕様の物ばかりだから想像ができない。
「儂なら80cmくらいを進めるがな。この森で狩りが出来るのならそれなりに力もあるだろうし、少し重いくらいなら大丈夫だろうよ」
「じゃあそれでお願いします」
鍛冶屋から外に出てみると、日は完全に昇っており昼頃のようだ。
メイスを作ってもらうには材料である鉄鉱石を採ってこないといけない。
幸いにも冒険者になる前に鉱山でバイトしたことがあるのでクズ石と鉄鉱石の区別は大丈夫だし、ツルハシはジャラモさんのを貸してもらえることになった。
「洞窟かぁ。モンスターとか大丈夫かな?」
「モンスターはキラーアントとダークバットってのが良く出てくるな。」
「そいつらって強い?」
「レッドウルフやガイアス程じゃないが、あいつらは集団で行動するから注意した方が良い」
何でも多い時は数十匹で動くんだとか。
そんなの死んでしまいますやん。
・・・
一時は死をも覚悟した俺だったが、鉱石採取にはマッフルも来てくれるみたいなので、何とか死なずにすみそうだ。
マッフル曰く「お前が1人であそこに入ったら普通に死ぬ」らしい。
迷った挙句モンスターに見つかって喰われる所が目に浮かぶんだとか。失礼な話だけど、俺もその場面が簡単に思い浮かぶので何も言えない。
善は急げという事で、ジャラモさんの家から出てすぐに洞窟に行く準備をすることになった。そうは言っても、用意するものはそんなに多くない。
ジャラモさんから鉱石が採れる場所に印をしてある地図を貸してもらえたので結構早く終わるかもしれない。
レッドウルフの皮で作られた背負い袋とツルハシ、あとは自分たちの武器を持ったら準備は完了だ。鉱石はそんなに奥に行かなくても採れるみたいだけど、食料として干し肉と水は一応用意した方が良いだろう。
あとは何時頃に洞窟に向かうかだけどマッフルにも仕事はあるだろうし、何時になるかは分からない――-
「よし、じゃあ行くとしよう」
「え、今から行くの?」
「もちろんだ」
ジャラモさんに武器を頼んだのが朝で、さっき洞窟に行く準備が終わって昼飯を食べた所だ。確かにまだ昼を少し過ぎた所だから外も十分に明るい。
俺はてっきり今日は休んで明日の朝からガッツリやるものだと思っていたんだけど、マッフルはそう考えていなかったらしい。
「こういう事は直ぐに動いて終わらせた方が良い」
「まぁ、確かにそうだろうけどさ………」
洞窟は村から数分ほど歩いた場所にあった。
洞窟の入り口はマッフルでも立って歩けるほどの高さと、俺たち2人が並んで歩いても余裕がある横幅がある。
洞窟の壁の所々にはボンヤリと光っているコケが生えていて意外と明るかった。
「なんか、綺麗な所だな」
思わずそう呟く。こんな所は見た事がない。吟遊詩人が語る物語とかに出てきそうな場所だと思った。
しばらく歩いていくと、水晶のような物が壁の所々に露出し始める。コケの光にボンヤリと照らされて洞窟はますます幻想的になっていく。
「これは魔晶石だな。特に用途はないが、アクセサリーにして女性に贈ると喜ばれるやつだ」
「確かに綺麗だもんな。納得できるわ」
「オーガ族は結婚する時に魔晶石を自分で加工して相手に贈るのが習わしになっている」
そんなの知らないし、知りたくもなかったかな。
魔晶石は魔力を込めると込めた魔力で色が変わるそうで、同じ色の水晶はその水晶に魔力を込めた人しか作れないらしい。
「自分の魔力で染められた魔晶石を送ることで愛を誓うのだ」
「いや、そんな事教えてもらっても……」
そう言えば既婚者のオーガさん達はみんな指輪かネックレスしてたな。
あれってこの水晶から作られてたのか。
「魔晶石は魔力の質によって色を変えるから、魔力の質や属性を調べるのにも使う事ができる。カウルも今度調べてみると言い」
「あ、それは興味ある。魔力測定って街でやると意外と高くてやってないんだ」
俺が拠点にしていた街でも魔力量や属性を調べてもらう事はできたけど、1回1000Gと意外に高めの値段設定なのでやれなかったのだ。
因みに1000Gあれば1日の食事は充分に済ますことが出来る。新人冒険者の俺じゃあ手が出なかった。
「人間の街だと魔力を調べるだけでも大変なんだな。自分の魔力を知ることは生きる為にも必要な事だと思うんだが、不思議なものだ」
「人間はオーガのみんなと違ってお金ってやつが大好きだからな。それがないと何にも出来ないんだよ」
考えてみると人間ってやつは森で暮らしているオーガよりも野蛮なモンスターなのかもしれないなぁ。他種族を蹴落として追い出して、街や国を造り、それだけじゃ飽き足らなくて今度は人間同士で争い始める。
最近は強いモンスターが増えたおかげか人間同士で争う暇もないみたいで戦争もなくなったけど、俺が生まれる前とかは普通に国同士の戦争とかあったらしいからなぁ。
「面倒な種族なんだな、人間は」
「そうなんだよ。ここだな、採取ポイント」
採取ポイントに付いた俺たちは一心不乱にツルハシを振るい、鉱石を採取していった。