村での生活
あつい
遭難20日目
オーガたちの朝は早い。
何故ならば明るいうちに獲物を捕ってこないといけないからだ。
暗くなると夜目が効くレッドウルフやガイアスの方が有利になるので、危険を冒さないように狩りは朝から夕方までとこの村では決められている。
狩りは男の仕事だ。その間、女は保存食を作ったりして村を守る。
何だかんだ言ってオーガたちは人間より健康的でゆとりのある生活をしてると思う。
村にいるオーガの狩人は10人、彼らは基本的にチームを組んだりせずに個々で狩りをしている。彼等はこの森のモンスターなら1人で対処できる実力があるのだろう。
俺は実力的に1人だと死んでしまうのでマッフルと一緒に狩りをしている。
足手まといでしかないが一緒に戦えば倒したモンスターの魔素が俺の体を強くしてくれるので、最近は少し役に立ってきていると思う。
魔素というのは誰しもが体に持っているエネルギーの事だ。
魔素は生物が死ぬと周囲に解放されて、近くの生物に吸収される。そうすると単純に体の中のエネルギーが増えるから、吸収した生物は色々な能力が強化される。
強化されるのは魔素を放出した生物がどのように生物かで変わって来る。力が強いガイアスなら筋力が、素早いレッドウルフなら反射神経が強化されるみたいだ。
この森のモンスターは俺より格上のモンスターばかりだからか、少し倒しただけなのに強くなったのが実感できる。普通は数十匹倒して少し強くなったかな? くらいなのに、1匹倒すごとに能力が上がるのを実感できるのは面白い。
「カウルもそろそろ1人で狩りをしても大丈夫そうだな」
「いやいや、勘弁してくれよ。俺1人で戦ったりしたら死んじゃうって」
レッドウルフの解体を手伝いながら、俺はモッフルの言葉に首を振った。
確かに今の俺なら奇襲をかければ1匹くらいは狩れると思うけど、何故わざわざ危険を冒さなければならないのか。
マッフル達みたいに余裕で狩れるようになってからなら分からないでもないが、俺じゃ複数のモンスターに囲まれたら簡単に死んでしまうだろうし。
「しかし、他の奴等の手前、俺も何時までもお前と共にという訳にもいかんのだ」
「ぐぬぬ……」
乗り気じゃない俺を見てマッフルが困ったような顔をした。
オーガ族は厳つい顔の割に優しい種族だと思う。こういう時は問答無用で突き放せばいいのに。そうすれば俺だって諦めるのにな。
マッフルは他のオーガ達に俺が何時までも自立できないやつと下に見られるのが嫌なんだろう。
仕方がないのかもしれない。そもそもこの村に居られるのだって村のオーガ達の温情あっての事だ。そんな彼等の印象を悪くするわけにもいかないか。
「うーむ、どうしたものか」
「わかったよ。1人だと獲物が捕れない日もあるかもしれないけど、それで良いなら」
「そうか? すまないな」
俺がそう言うとマッフルは安心したように肩を下した。
しかし、マッフルと組めなくなると考えると攻撃力が足りなくなるし、武器も短剣だとリーチが短い。
俺の相棒である短剣の全長は20㎝程しかない。だから攻撃を入れる為には相手に近づかないといけない訳だけど、レッドウルフは素早くて中々攻撃が当たらないし、ガイアスなんて短剣じゃ碌に攻撃が通らないから倒せるイメージが湧かない。
「1人で狩りをするのは良いんだけどさ、俺の武器って短剣しかないんだよな。これだと少し不安なんだけど」
「それなら村の鍛冶師に武器を作ってもらえばいい。村の狩人はみんなそこで武器を作ってもらっているんだ」
「俺は別にここの村人って訳じゃないと思うんだけど、良いのか? お金もそんなにないよ?」
「なに言ってるんだ。お前も狩人の一員だろうに。もう、お前をよそ者と思う者はこの村には居ないだろうよ。金がないなら新しい武器で最初に捕った獲物を鍛冶師に贈ると約束すればいい」
マッフルの何気ない一言嬉しすぎるだろ。
確かに最初は敵対心バリバリだった人とかも最近は普通に挨拶してくれている気がする。
毎日挨拶をこっちからしてたのが大きかったのかね。
「それは嬉しいなぁ」
「うむ、人間でオーガ族に認められたのはカウルが初めてだろうから、誇っても良いと思うぞ」
「それはオーガの村までたどり着ける人間がこれまで居なかっただけだからだと思うけどな、実際」
「それは言えているな」
実際このオーガの村に普通のルートで行こうと考えたら何時になるか分かった物じゃないと思う。俺がここに来れたのはただ運が良かっただけだ。
いや、運が良かったら十数メートルの高さの崖から落ちてないだろうし、運は良くないかな、うん。
ともかく新しい武器か。ちょっとわくわくするな。