第五話 勇者は武器を手に入れる
ついに冒険が始まり!ません!
サトルは受付嬢と別れたあと、そのまま商業地区へと向かっていた。妙に焦って、宿屋に行く前に商業地区へと来ているのには理由がある。
「用紙に前衛って書いちゃったからなぁ、得意武器も一応剣ってことにしといたし」
サトルは前衛で剣が得意ということにしていた。一度剣が折れてしまったあとは剣など握ってすらないので、未だに剣術は全く出来ないのだが。
そして商業地区に着くと、とりあえず商業地区を一周した。宿屋と同じように武器屋もおすすめは聞けなかったため、サトルは店の外環で判断しようと思ったのだ。そして多くの店がある中少し小さめの店舗で、店主がまさに頑固オヤジという外見をした店に決めた。これは単純に、サトルが今まで見てきたゲームでの武器屋のイメージにそっくりだったから選んだのだ。
店に入ると小さい鐘が鳴り響く。しかし店主はこちらをチラッと見たあと、また武器作りに戻ってしまった。現代日本ならば怒られそうな接客だが、サトルはイメージ通りの展開に満足していた。
店には様々な武器が置かれていた。どれも鋼鉄の輝きを持っており、前世ではありえない光景だ。サトルには武器の良し悪しは分からないが、どれも業物に感じるだけの風格があった。だがまたしてもサトルに問題が発生する。
「武器って想像以上に高いんだな…。これじゃあ手持ちのお金じゃ買えそうにないな…」
現在サトルの手持ちは金貨2枚と銀貨18枚である。ちなみにこの世界での通貨は、白金貨、金貨、銀貨、銅貨の4種類で上から十万、一万、百、十円相当である。勿論物価の差があるのであくまで目安であるが。つまるところ現在サトルの手持ちは21800円。かなり心許ない手持ちだ。宿屋のことを考えるとこの店で買えるのは、予備武器のナイフくらいだろう。
サトルは落胆しながら他の店に行ってみようと店の外に出ようとするが、突然店主が立ち上がり声をかけてくる。
「おい、ボウズ。どうしたんだ?そんな深いため息ついてよぉ」
どうやらサトルは無意識にため息をついていたようだ。
「実はお金が全然足りなくて武器が買えないんです…」
「おいおい、そのプレート持ってるって事は冒険者なんだろ?武器もなくどうやって戦うんだ」
「中古で買って壊れたら嫌ですし…。しばらくは素手で戦おうかなと」
「素手だって!?ボウズ正気か?魔物の中には棘を生やしていたり、毒を持ってる奴がいるんだぞ。素手で戦うなんて自殺行為だぜ」
サトルはそう言われ、現実はゲームと違う事を再認識させられた。確かにサトルも前から疑問に思ったいたのだ。なぜ武闘家たちは毒のスライムを殴って平気なのかという事を。
「はぁ、どうやらそんな事考えてなかったって顔だな。しょうがない、安く武器売ってやるよ」
「ええ!いいんですか!」
「ああ。わざわざうちの店に買いに来た客が、武器が買えず死んじまったと聞いたら寝覚めが悪いからな」
「ありがとうございます!」
外見に合わず面倒見のいい人のようだ。いや、逆に外見そのままとも言えるが。
「いいってことよ。そんで、ボウズはどんな武器をご所望だ?」
「そうですねぇ…」
そう言われてサトルは考える。自分にはどんな武器が合っているのか。
まずやっぱり剣がいいよな。斧とか槍とかでもいいけどやっぱり勇者は剣が似合うし。となるとやっぱり父から貰った剣のように折れないやつがいいな。まあお金もないし要望は少ない方がいいだろう。
頭の中で整理するとそれを店主に伝える。
「それじゃあとにかく頑丈な剣がいいです!」
「ほほう、面白い要望だな。しかしどうして頑丈な剣がいいんだ?普通は切れ味とか重さとかを希望するんだがな」
「実は一度剣を折ったことがありまして、それで頑丈な剣が欲しいんです。重さは気にしなくても多分持てるんで大丈夫です」
「なるほどな、しかしそんな都合のいいもの…あれがあるな」
「いいものがあるんですか!」
「とびっきりいいものがあるぞボウズ。店の倉庫にあるからちょっと待ってろ」
そういうと店主のおじさんは笑みを浮かべて倉庫に取りに行った。何か企んでるなあの人…
数分後、おじさんは大きな布の包みを持って倉庫から戻ってきた。カウンターに置く際、ドスンと音がする。かなり重かったのかおじさんは汗をかいていた。
「さあ、これがこの店で一番丈夫な剣だ!」
そうして布を取るとそこには
「ええ!バスターソード!?」
「何?ボウズ、この剣の名前なんで知ってるんだ?」
「え、いや、たまたまですよ。はははは…」
そこにはあったのはまさしく、某超有名RPGの主人公が持っている剣だった。今の俺の身長ほどの刀身があり、かなり分厚い。だが刃先は鋭く、重量を十分に生かした斬撃が放てるだろう。これなら俺が使っても壊れなさそうだ。
「まあ、いいか。ボウズ、重さは気にしないと言っていたよな?これが持ててちゃんと剣を振れるならお前の言い値で売ってやるよ!」
どうやらおじさんは、この剣を俺が持てないと思っているらしい。まあ、それも当然だ。大の大人が一人で持てるギリギリの重量の武器を、12歳の少年が持てるとは思えないだろう。まあ俺には勇者適正があるんだけどな。
そしてサトルはバスターソードを軽々と持ち上げてみせる。
「ななななんだと!ボウズは化け物か!俺は今まで様々な戦士にこれを試させてきたが、まともに持てる奴は誰一人いなかった。まさかこの剣を最初に装備できる奴が、こんなボウズだとは師匠も思わなかっただろうな…」
「師匠?それっておじさんの?」
「ああ、俺の武器の師匠だな。生涯最後の作品がその武器さ。「最後は最後らしく、最後の武器を作ってやる」って言って作ったのがその武器なんだが、この街の冒険者じゃ装備できなくて倉庫で埃を被ってたってわけよ」
「なるほど、そういう訳でしたか」
話を聞いていて一つ疑問が生まれた。師匠の言葉の内容だ。「最後の武器」ってどう考えてもそういう意味だよなぁ。どうやらこの世界には自分以外も転生者がいるみたいだ。
「とにかくボウズ。男に二言はねぇ。ボウズが今持ってる払える範囲でこの剣売ってやるぜ」
「いいんですか?これ、お師匠さんの遺作なんでしょう?」
「いいってことよ。武器は使われてこそ価値がある。倉庫で埃を被ってるより、ボウズに使ってもらう方が師匠も喜ぶだろうよ」
「それじゃあ…少ないですけど金貨2枚でいいですか?」
「ああ勿論だ。ボウズ、すぐ死ぬんじゃねぇぞ!」
無事に買い物を終えたサトルは宿屋に向かっていく。自分がいかに異様な格好をしてるか気づかずに。サトルは自分の身長とほほ同じ大きさの剣を背負っている謎の少年として、一日で噂になったのであった。
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武器の心配が無くなったサトルは、そのまま宿屋にきていた。まだ昼過ぎなので依頼を見に行ったり、王都を探検しても良かったが野宿生活の疲れを早く癒したかったのだ。
受付嬢から聞き、あらかじめ目星をつけていた宿屋の前に来る。建物の大きさは冒険者組合より小さいが3階建てだ。飯が旨いと聞いていたので、サトルは夕食に期待を膨らませながら宿屋に入っていく。
「おや、いらっしゃい。見ない顔だがこの街は初めてかい?」
中に入るとそこにいたのは、予想通り女将さんだ。イメージ通りの少し太った女将さんで満足顔のサトル。
「はい、今日この街に着きました。冒険者組合でおすすめの宿屋だと言っていたので」
「そうかいそうかい。あんたは運がいいね。なにせこの街一番の宿屋を一発で当てたんだからさ」
そう言って女将さんは豪快に笑い出す。見た目通り性格も豪快なようだ。
「とりあえず一泊したいんですけど、部屋空いてますか?」
「ああ、空いてるよ。それじゃあ部屋代10銀貨と飯代が5銀貨だよ」
この世界で宿屋は現代に比べるとかなり安い。理由として維持費用が少ないなどもあるが、一番の理由は国からの援助があるからだろう。冒険者は言うなれば国での最後の防衛手段だ。冒険者がまともにいなければ魔物に国が滅ぼされてしまう。それ以外にも貴重な薬草や魔物の素材の確保にも冒険者は欠かせないのだ。そのためほとんどの冒険者が利用する施設の宿屋には、補助金が出ており安く泊まることができるのだ。
「それでお願いします。あと実は王都に来る最中にイノシシを狩ったので買い取っていただけませんか?」
そう言って来る途中で狩ったイノシシの肉を取り出す。
「おお、こりゃいいイノシシ肉だね!一人でイノシシ狩るなんて中々やるじゃないか。これの買い取りなら少し色を付けて30銀貨ってとこだね」
「ありがとうございます!」
こうしてサトルは臨時収入を手に入れた。これが無ければほぼ無一文、サトルの財布は常にギリギリなのだ。
その日の夕食にて、自分の狩ったイノシシ肉がメニューにあったのでそれをいただく。ただ焼いて塩をかけたものより数倍美味いイノシシ料理をペロリと平らげた。そしてサトルは、久しぶりのベットに包まれ安らかな眠りについたのであった。
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